病室での彼女
時田の顔をこんなにゆっくり見るのはいつぶりだろう…。
彼の手を握りながら紗世はそんなことを考えていた。
付き合っている時もいつも落ち着かなかった。仕事が忙しくて、飲み会やイベントの誘いも多い人。仕方ないとわかっていてもついつい我が儘を言いそうになる…。
女の人の相談にも親身になりこたえ、前の彼女にも頼られると会いにいってしまう人。
心のどこかでいつも独り占めしたいと思っていた。
「紗世…」
振り向くと理子が立っていた。
「ずっとついてるの疲れるでしょ?わたしがみてるから少し休んできたら?新藤さんもいるし…」
「ありがとう。でも朝までついてるよ。彼が目を覚ました時にわたしがいないと不安になると思うから。理子…わたしね…今初めて時田さんを自分のものにできたって思っていたの…こんな時に不謹慎だってわかってる。でも…ずっと不安だったから。不安で不安で仕方なくて…優しい新藤さんに逃げたの。新藤さんはいつもわたしだけ見てくれるから一緒にいて安心だった。わたしが10あげると100で返してくれるような人で。この人を好きになったら幸せだろうなって。幸せになりたいなら新藤さんみたいな人を好きにならなきゃって。実際彼はかっこいいし…すごく魅力的で。でもどうしてだろ。やっぱり時田さんを愛おしく思ってしまう。事故のことを理子から聞いた時頭が真っ白になったの。彼がいなくなるなんて考えられないって思った。プロポーズ断ったくせに何考えてるんだろうって思われるかもしれないけど。わたしおかしいかな?」
「おかしいなんて思わないよ。紗世がどれだけ時田さんを好きだったか知ってるよ。紗世がどんなに悩んでいたかも知ってる。だからこそわたしは時田さんが許せなかった。どうして紗世を傷つけるんだろうって。でも今は早く目が覚めてほしいって思うよ。紗世をこれ以上悲しませないでって。わたし紗世はやっぱり時田さんが好きなんだと思う。新藤さんもそれわかってるよ。わかってるけど一緒にいたいって思ったって。無理する紗世を見たくないって。わたしも新藤さんも紗世の幸せを願っているよ」
「新藤さんのことまた傷つけちゃったね…。長野でね…わたしが彼を押し倒したの。彼のこともっと知りたいって思ったから。それなのに…ダメだった。急にこわくなったの。新藤さんは焦らなくていいよってずっと抱きしめていてくれて。そんな彼の優しさが嬉しかったのと同時に自分が情けなくて恥ずかしかった。結局わたしも自分のことばかり考えてる」
「そんなことないよ…」
そう言って紗世の手を握る理子の手はすごく暖かかった。
もうすぐ朝がくる…