デートの約束
「飯塚の料理はあいかわらずうまいな」
少しくすぐったいが誉められるとやっぱり嬉しい。
「そんなに誉めたって何もないですよ」
イーっとしてから笑う彼女の前に一冊のパンフレットが手渡される。
「このホテル。ここさ、うちの親戚が経営してるんだよ。たまにゴルフとかしにいくんだけど。けっこう良いとこでさ。温泉もついてるし。もし良かったら来週末とか一緒にいけないかな。だめ?」
真剣に話す新藤を見て紗世は思わず吹き出してしまう。
「小さい男の子がおねだりしてるみたいでなんかかわいいなぁ!」
予想外の彼女の反応に少々ふてくされた様子の彼。
「なんだよ、それ。人が真剣に話してるのに」
まだくすくすと笑いがとまらないけれどそんな彼を真っ直ぐ見て紗世がこたえる。
「ありがとう。嬉しい!わたしも雄介と一緒にでかけてみたかったよ。温泉入りたいし」
ふたりにっこりと笑いあう。
思いが通じあうまで少し時間がかかったし、今でも不安になることはある。それでもこんなに幸せでいいのかというほどの幸せを紗世は感じていた。
新藤が帰って、あと片付けをしている時ふとつぶやく。
「わたし来週新藤さんと同じ部屋に泊まるのかな?どうしよーっっ」
高校生の時好きな人を思い出してはドキドキしていた感覚。まさにそんな感じだ!
ひとりで部屋でドキドキしている。
このドキドキは幸せのドキドキ。辛くて不安で眠れないあのドキドキとは違う。
窓の外を見るときれいな月がこちらを見ていた。
「きれいな月。おやすみ」