ハジマリの朝
「おはよう。早起きだね」
キッチンにたつ彼女の姿を見つけ安心したように微笑む。
「おはようございます!起こしちゃった?ごめんなさい。それからキッチン勝手に借りてごめんなさい…朝ご飯作ったのでよかったら食べてください。て、新藤さんのお家の冷蔵庫にあったものだけど」
紗世がにこっとわらう。
「早起きして優雅に朝ご飯なんてひさしぶりかも」
「いつもはどうしてるの?」
「パンとか適当に食べたり。コンビニで買ったり。忙しい時なんかは食べない時もあるし」
「えー。ちゃんと食べなきゃダメですよっっ。ほら。今日はごはん!お味噌汁。それからハムエッグにサラダでしょ。ヨーグルトも!もともと新藤さんのだけど…ふふ」
軽やかに笑う紗世を見ると新藤も幸せになる。
「じゃあ、せっかくだし。食べようかなぁ。いただきます」
テレビで今日の天気をチェックしながら食事をとる。
「飯塚って料理も得意なんだな」
新藤がぼそっとつぶやく。
「全然。わたし料理は苦手なんです。実家に住んでた時なんかは全部お母さんに任せっきりで。ただ家をでてからは自炊するようになったかな。好きな人ができてからは尚更。いいとこ見せようと頑張ったの」
にっこり笑って続ける。
「新藤さん昨日はありがとう!わたしはもう大丈夫。一晩寝て迷いは全て消えたの。本当のこと言うとね…昨日まで時田さんと北海道に行こうかなって考えてたの。彼転勤になって…ついてきてほしいって言われてて。でもすぐには『うん』って言えなかった。自分の気持ちに迷いがあった。いつの間にか彼を信じることできなくなっていた…。こんな風に悩んだまま一緒に生活をはじめても上手くいかない。わかってたの。だけど自分の中の意地みたいなプライドみたいなものが『もう少し頑張れ』って。でもそれは違うって気づいたの。好きとは違う。わたしね…新藤さんと一緒にいると安心する。昨日雨の中でわたしを見つけてくれて本当に嬉しかった。そばにいてくれてありがとう」
「こちらこそ。正直に話してくれてありがとう。俺はすぐに好きになってもらおうなんて思ってないよ。長期戦覚悟だし!だからこれからはもっと俺を見てよ。俺と一緒にいたら絶対年中笑っていられるように努力する。泣くのは嬉し涙だけだって。だからもう泣かないで…」
彼女を後ろからそっと抱きしめた。
朝食の片付けをして彼女が家をでる。
「じゃあ。帰りますね。昨日と同じ服着て会社に行ったら理子にからかわれちゃう。それからちゃんと時田さんと話してきます。札幌にはいけないって言ってくるから」
「わかった。今日仕事終わって、話が終わったらどこかで待ち合わせしよう。ごはんでも食べにいこうか」
「はい」
ガッチャ。
ドアをあけた時。彼女が何かを思い出したかのように振り向いた。
「心配しないで。わたしはもうどこかにいったりしないよ。あなたのそばにいるから」
新藤をぎゅっと抱きしめた。