おいしいコーヒー
「これタオル。嫌じゃなかったらお風呂入ってゆっくり体あたためて。風邪ひくと大変だし。それからこれはTシャツとジャージ。俺のだから大きいけど…そこは我慢して。部屋は突き当たりのとこ使っていいから。何もないけど。他にも何かあったら遠慮なく言ってよ。俺は自分の部屋で仕事してるからね」
新藤がにこっと笑う。
紗世もつられてにこっ笑い、ぺこりと頭をさげた。
バスルームのミラーーにうつしだされた自分と目があう。
メイクがとれてひどい顔…。
熱めのお湯が疲れた体と心を癒やしていく。
「はぁ」
小さくため息をついた。
コンコン。
紗世が新藤の部屋をノックする。
低い声で「はい」と返事があった。中からパソコンのキーボードをカタカタ叩く音が聞こえる。
「あの…お仕事中ごめんなさい。お風呂ありがとうございまさた。それからさっきはすみませんでした。お部屋借ります。おやすみなさい」
それだけ言って立ち去ろうとするとドアがあき、腕をつかまれた。
「謝られるようなことはされてないけど」
突然現れた新藤に少し戸惑ってしまう。
恐る恐る顔をあげ彼をみる。
少しの沈黙。
「あの…新藤さん?」
「あっ!ごめん。メイクしてない飯塚初めて見たなって。メイクしてなくてもやっぱりキレイなんだな。俺のTシャツもなんか似合っててかわいいし」
「からかってるんですか?」
恥ずかしくてついつい逃げそうになる。
落ち着きがない紗世とは違って新藤は大人な対応だ。
「からかってなんかいないよ。本当のことだよ。飯塚はキレイだし、かわいいよ」
「そんなに誉めたって何もでないのに」
「ココアでも飲みますか?お姫様」
「ココアか…」
何かを思い出したように少し遠くを見つめる。
「わたしコーヒーが飲みたいな」
何かしていないと落ち着かないし、コーヒーには自信があるということでは紗世が淹れることになった。手際よく豆やカップを用意してコーヒーが入るのを待っている間、紗世はさっきあったことを思い出していた。時田の部屋の前であったことを。
「何考えてるの?」
新藤が覗きこんできた。
「別に何も…」
「本当に?」
「本当に」
力なく笑顔を作る紗世が痛々しくてせつなくて…つい彼女を抱きしめてしまう。
「新藤さんくるしい。そろそろコーヒーが入ったかな」
彼の体を離そうとしたが力が強くて身動きがとれない。
「新藤さん…」
「新藤さんじゃなくて雄介。雄介って呼んで。紗世…」
「ゆうすけ…。ごめん。まだね…好きとかそういうのわかんないの。でも新藤さん…雄介といると安心する」
新藤が再び紗世をきつく抱きしめた。