激しい雨の中で…
あれから3日間考えた。
たぶん紗世は今でも時田のことが好きだ。頑張って吹っ切ろうとしたけれど難しかった。
素敵なレストランで愛の告白をされてからふたりの札幌での暮らしを想像してみた。好きな人と一生一緒に生きていけたらどんなに幸せだろう。
その一方でどうしても彼を許せない自分もいた。許そうとすればするほど苦しくなる。涼子と歩く彼の姿を思い出しては悲しくなる。
いつか解放される日がくるのだろうか。
それでも!彼をもう一度信じたいという気持ちが強くなっていた。最後にもう一度彼を信じてみようかと。
特に連絡はしていなかったけれど仕事帰りに彼のマンションを訪ねてみることにした。大好きな仕事を辞めなければいけないかもしれないけれど彼を選んでみてもいいんじゃないかと。
「ひさしぶりに彼に夕食を作ろうかな」
野菜とお肉をいっぱい買いこんで彼の部屋の前まで行った。
「あれ?こんにちは。飯塚さんも時田さんに会いに来たんですか?もしかして転勤の話?」
そこにいたのはひさしぶりに見る涼子だった。
「わたし昨日時田さんからメールをもらったんです。だから会いにきたの。ほら」
涼子の携帯には時田からの転勤の報告メールがうつしだされていた。それは紛れもなく彼からのもので…その事実を突きつけられて紗世はどうすればいいのかわからなかった。
そのメールがどういうつもりなのかわからない。ただの報告なのかもしれない。
それでも…。
紗世のもう一度彼を信じようという気持ちはくじけてしまった。
もう頑張れない。
自分の家へ帰ろうと歩いていたらポツポツと雨が降ってきた…。気づいたら雨と一緒に涙が頬を伝っていた。雨が涙を隠してくれるようで少しホッとした。
キーッ。
突然車が止まる音がして中から男の人が降りてきた。
「飯塚?!びしょ濡れじゃないか!どうしたんだよっ」
「新藤さ…ん?」
紗世は慌てて涙を隠す。それと同時にとっさに笑顔を作る。
「あ…れ…?気づいたら雨が降ってきてたん…です。でもわたし…傘持ってなくて…。だか…ら…歩いて帰ろうって。だい…じょうです。わたしは…大丈夫なんです…ごめんなさい。じゃあ」
涙を拭って走りさろうとする紗世を強く引き寄せ新藤は力いっぱい抱きしめた。
「なんで?なんでそんなに強がるんだよ?泣きたいなら泣けばいい。俺の前でまで無理して笑うな」
大きな声にびっくりしたように目を開き、顔を伏せた彼女が首を振る。
「ダメ…。これ以上…優しくしないで。わたし新藤さんに甘えて…しまう。ごめんなさい。離してください」
目にいっぱい涙をためた彼女を見た新藤は決心した。
「なにを言わても離さないよ。もう遠慮するのはやめた。俺は君を泣かせたりしない。毎日笑って過ごせるようにどんな努力も惜しまない。絶対に後悔はさせないよ。時間がかかってもいい。君が俺のために笑ってくれるまで待つから」
彼女の頬に大粒の涙が流れた。
「ごめん。少しだけ…」
紗世は新藤の広い背中に自分の腕をまわした。