新しい風
「おつかれさまです」
仕事が終わって会社をでると今日も彼女が待っていた。
「お腹すきましたね。何食べます?」
まるで約束していたような口ぶり。
「佐田さん。悪いんだけど俺これから約束があるんだ。デートなの!ごめんね」
さわやかな笑顔で去っていこうとする新藤の腕を強引につかむ。
「待って!デートって誰と?まさか飯塚さん?」
「俺が誰とデートしようが君には関係ないでしょ?でも彼女じゃないよ。飯塚にはすでに振られてるんで」
さっと車に乗り込む。
今日は恵里と食事の約束をしていた。
時々恵里とふたりで食事にいく。恵里が昔から自分のことを好きなのは知っていた。でも妹のようにしかみれなくて。
もしかしたらこの曖昧な態度が恵里を縛っているのかもしれない。ダメならダメと言ってあげないと恵里も前には進めないだろう。もし付き合うなら真剣に向き合わなければいけないし…。
紗世に会って新藤は少しかわった気がする。何がかわったのかはわからないけど自分ができることは精一杯やらなければと思うようになった。
仕事も恋愛も。
佐田涼子もいつか自分を変えてくれる誰かに出会えればいいのに。
「恵里おまたせ」
待ち合わせの場所にすでに彼女は到着していた。
「まだ来たばかりだから大丈夫だよ。お腹すいたね。早くいこ」
恵里が新藤の手をとった。
歩きはじめて少しした頃。
「あれ?新藤さん。こんばんわ」
聞き慣れた心地良い声が聞こえてきた。
振り向くと少しドレスアップした紗世がたっていた。いつもに増してキレイだ。
とっさに恵里の手を振り払ってしまう。少しムッとする恵里に新藤は軽く謝る。
「恵里さん。おひさしぶりです。デートですか?」
「…はい。紗世さんすごくキレイ」
「ありがとう。今日はあそこのホテルで彼とディナーなの。一生に一度のことだからおしゃれしてきたの」
無邪気に優雅に笑う紗世に思わず見とれる。
「彼って?紗世さん付き合ってる人いたんですか?」
「まぁね。今日はね…大事な話があるんだって!何だろう?じゃあ。失礼します」
紗世の後ろ姿をふたりで眺めていた。
少しの沈黙のあと恵里が新藤の背中をバンっと叩いた。
「ゆうすけ!失恋くらいでクヨクヨしちゃダメだよ。今日は付き合うから朝まで飲もう」
「失恋ってなんだよ…。そんなのとっくの昔の話だよ。幸せそうな彼女の顔見れてよかったよ」
恵里と新藤は笑いながらレストランに向かった。