最後の誘惑
マンションに帰ると人影が見えた。
もしかしたら紗世が会いにきてくれたのかもしれない。
時田は急いでかけよった。そこにいたのは涼子だった。
「佐田?」
目に涙もためた涼子が時田の胸にとびこんできた。時田は子どものように泣きじゃくる彼女を抱きしめることもできずにただ泣き止むのも待っていた。
「家に入れてくれないの?」
涼子が問いかける。
ミニスカートからはスラリとのびた細い足が見えた。
「ごめん。この間も言ったけど好きな子いるんだ。その子のこと大切に思っている。いまは無理だけど彼女が許してくれたら結婚したいんだ。佐田は俺に頼ってくれるし…俺がいないと生きていけないんじゃないかって思うくらい危なっかしい部分も多くてそこがかわいいなって思ってた。恋愛に積極的で貪欲で…情けないけど俺も男だからそういうところに惹かれた。別れたはずなのに連絡がくるとついつい気になって会いにいってしまった。でも紗世は…俺がいなくても生きていけるんだ。彼女はきっとひとりでも生きていける。誰にも愛される人だし。すごく強い人だから。彼女のことを思うなら俺から離れてあげるべきなのかもしれない。でも!…でも!俺の方が無理なんだ。紗世がいないと生きていけない。紗世を愛してる。紗世を本当に愛してるんだ。彼女を傷つけたこと悔してる。佐田のことも傷つけたと思う。ごめん。だからもう君には会えない。俺は君を愛していないから」
そういって自分の部屋に入ろうとする時田の腕を涼子がつかんだ。
「待って。もうあたしを抱かないの?あなたの大切な飯塚さんだっていまごろ新藤さんのものになってるかもしれないわよ」
意地悪に投げ捨てるようにいう。
「それはないよ」
優しく、でも冷たい目で涼子を見つめる。
「紗世は君とは違うから」
バタンとドアがしめられた。ひとり部屋の前に取り残された涼子はフンっと鼻で笑い、マンションをでた。
携帯をとりだし大学時代の男友達に電話をかける。30分後に近くのホテルで待ち合わせをした。
「くだらない男だった」
ベッドの上で彼女はタバコふかし、ぼーっと何かを考えていた。