女の闘い
「突然呼び出してごめんなさい」
先に口を開いたのは涼子だった。
「大丈夫。今日で終わりなんだね。話って何かな?」
紗世の声が会議室の冷たさを少し和らげた気がした。
「話っていうのは時田さんのことです。隠しても仕方ないのでハッキリ言っておこうと思って。わたしたち来月結婚するんです。仕事を辞めるのを決めたのも結婚が理由です。すれ違いで一時期離れたこともあったけどやっぱりお互いが必要で。飯塚さんにもご迷惑おかけしました。時田さんがよそ見してしまったのはわたしのせいなんです。初めての彼氏だったのにごめんなさいね」
紗世がこれまで恋をしてこなかったことをバカにしたような言い方だ。
「そんな嘘をついて何になるの?」
あくまで穏やかな口調をかえない紗世。
顔色ひとつかえない紗世の態度に苛立ったように涼子が叫んだ。
「嘘じゃないわよ!!」
「佐田さんにはわたしにない魅力がある。それはわかっている。でも…それは長続きしないよ。原因はあなた。好きな人がいてもその人だけを見れない。時間を見つけてはいろんな人と遊んで。そんなことしてたらいつまでたっても愛されない。愛される資格があるとも思えない。あなたは確かに時田さんが好きかもしれない。それならどうして努力しなかったの?それに…男の人たちがあなたに近寄ってくるのは愛情じゃないよ。それはあなたが一番わかってるはず」
更に苛立ったようにヒステリーな声で涼子が続ける。
「バカバカしい。何よ。自分がキレイで人気者だからってわたしをバカにしてるの?あんたの時田さんだってあたしに会いにきてたのよっ!飯塚さん最近指輪してないじゃない?ふられたんでしょ?女はキレイなだけじゃ意味がないのよ。新藤さんもとってやろうと思ったけどあの男はかたくてダメだった。入社した時からあんたが嫌いだったの。みんなに大切なされて。時田さんに愛されてて。時田さんを好きだったのは本当。あんたも好きだってわかって絶対に自分のものにしようって決めたの。浮気くらいで文句をいう男だったけど…でもあんたが悔しがるなら何としても結婚しようって。でももういらないわ。あなたにあげる。あたしはもっと上を目指すのよ。言いたかったのはそれだけ」
紗世は何とも言えない気持ちになった。
涼子が少し哀れになった。
「佐田さん。わたしあなたの考えは理解できそうにない。あなたもさっき言ってたように時田さんとわたしはもう関係ないの。もしあなたがまだ時田さんが好きならこれからどうするべきか考えた方がいいと思う。わたしとあなたは今日でお別れ。いままでお疲れさまでした」
そういって紗世は会議室をでた。
たぶんもう一生彼女に会うことはないだろう。
彼女から学んだこともたくさんあった気がする。
いつかそんなことがあったなと思える日がくるのだろうか。
少しせつない気持ちになった。