大事な話
「紗世…もうきてくれないのかと思ったよ」
時田が安心したように笑う。
つられて紗世もニコッと笑った。
「ごめんなさい。どうしたらいいのかわからなくなって…。メールも返さないでごめん」
せつない顔で彼を見つめる。
そんな彼女を落ち着かせるように優しい声で時田が話す。
「大丈夫だよ。とりあえず座って。いまお茶か何か入れるから。紅茶でいい?それともココア?」
「ココアがいい」
紗世の目が輝いた。
大好きなココアが飲めること。それから時田が自分の好きなものを覚えていてくれたことが嬉しい。
ミルクたっぷりのココアがやってきた。
「ありがとう。いただきます」
ココアを飲んで心も体もあたたまる。
「紗世」
シンとした部屋に時田の声が響く。
「色々嫌な思いとかさせてごめん」
申し訳なさそうなそれでいて紗世の目をまっすぐみながら話す。
「紗世にあえなくなって毎日いろんなこと考えた。いま何してるのかなとか。もう好きな人できたかなとか。紗世を傷つけてしまったこととか。とにかく考えた。考えて考えてでた結論がコレなんだ」
紗世の目の前に四角い箱がおかれた。
「これ…」
箱をあけると中にはキラキラ光り輝くダイヤの指輪が入っていた。
「俺と結婚してください」
突然のプロポーズに言葉がでない。
「もう不安にさせることは絶対しない。紗世がいないとダメなんだ。他の誰かじゃダメなんだ。俺の家族になってください」
「時田さん…」
紗世は今日の大事な話が良い話でも悪い話でも時田とは別れようと思っていた。
時田と別れて、新藤に気持ちに答えることはできないことを伝えて。
しばらくひとりになって自分を見つめ直そうと思っていたのだ。
それなのに…。
プロポーズされてとまどっている自分がいる。
時田のことが好きなのはかわらない。でもいま許したらいつまでも昔のことを思い出しては悩んでしまう気がして…。
「紗世?」
時田が覗きこんできた。
気がついたら無意識のうちに泣いていた。彼女の目から次々と涙がこぼれ落ちていた。