仕事モード
あれから2週間。
紗世は仕事に集中していた。
こんなにのめり込んでいいものかと思うくらいにとにかく没頭した。
自社の製品のアピールのためにあらゆるアイデアをだし、意見してきた。本来それは秘書の仕事ではないが今回のプロジェクトでは新藤のおかげでそれが許されていた。
寝る間も惜しんで何かをやり遂げるなんて大学受験以来だ。
あの時はごはんを食べる時間ももったいないと思ったんだっけ。
懐かしい。
時田とはあの一件依頼会っていない。
会っていないと言っても同じ職場だ。嫌でも会社で顔をあわせる。目があうとそらされてしまうのが妙にせつなかった。
「しばらく会うのをやめる」というメールの意味を時田本人に聞いたわけではない。だから本当のところの真意はわからない。
けれど…。
一度距離をおいてみようという大人の判断なんだと理解していた。
大好きな人にできれば毎日会いたい。
でも…きっと。
このまま一緒にいたら彼を責めてしまうだろう。
自分以外の人と楽しげに歩いていた姿を思い出してしまうだろう。
これ以上自分を見失うのがこわかった。
それ以上に自分が傷つくのがこわかったのかもしれない。
だからただひたすら仕事をした。
新藤や理子が心配していることには気づいていたが自分をとめることができなかった。
このプロジェクトに成功したら自分に自信をもてるかもしれない。そう思ってひたすら働いた。
もうすぐ新藤との仕事が終わる。
新藤は自分の会社に戻っていく。新藤からはずいぶんと色々なことを学んだ気がする。彼はただ経営者の息子というわけではなかった。自分のやりたいことをやるためにどうすればいいか。どうすれば会社が利益を得られるか。全てを考え、そのために人一倍努力をしていた。
紗世だって手抜きをしたことはない。それでも諦めることには少しずつ慣れてきていた。
時田のことだってそうだ。考えたくなくて…逃げ出そうとしていた。
そんな自分が情けない。
「ふぅ」
デスクでコーヒーを飲んでいると理子からメールが入った。
「涼子会社辞めるらしいよ」
突然のことだった。