彼女の本音
駅をでてアパートまでの道のりをテクテク歩く。
途中スーパーへ寄り鶏肉と玉ねぎ。それからアスパラやキウイを買った。最後にかごに入れた牛乳と豆乳が少し重い。
やっと家についた。
そう思った瞬間、アパートの前に誰かがいることに気づく。
「時田さん…」
紗世はこのアパートで妹の紗英と暮らしている。まだ学生の妹をひとりにしておくのは心配なので。妹が大学を卒業するまで2人暮らしをする予定だ。
時田には話していたが先月から妹は家をあけている。3ヶ月間カナダに語学留学してるのだ。
短い期間だがひさしぶりにひとり暮らしを満喫していた。
「どうしたの?」
紗世が少し驚いた声で時田にかけよる。
「週末予定あるって言ってたし。今日会えないかなって。紗英ちゃんいま家にいないだろ?だから会いにきた」
普段時田を部屋に入れることはほとんどない。ごはんを食べさせたことくらいはあったが長居はさせない。会うのはほとんど時田のマンションだったし。
少し迷ったが時田を部屋にいれることにした。
「何にもないけど。どうぞ」
手を洗い、キッチンでお湯をわかす。
「いま紅茶いれるから。時田さんお腹すいてますか?今日は親子丼。あと大根のお味噌汁とグリーンサラダ」
時田の上着を受け取りハンガーにかけた瞬間。突然後ろから抱きしめられた。
「どうしたの?」
腕にどんどん力がこもっていくのがわかった。
「痛い…」
時田の体を押しのけて逃れようとすると それを許さないようにより一層強く抱きしめる。
「お湯がわいた…」
時田の顔を見つめ紗世は彼の腕から自分の体を離す。
「火とめなきゃ」
パタパタとスリッパの音がなり紗世がキッチンへ走る。
ティーポットにお湯をそそぎ紅茶の葉をいれる。
その時。
時田が紗世の手をとった。
「どうしたの?」
さっきから紗世を見つめる時田が少しこわい。
紗世の頬にかかっていた髪をそっとなでる。
「変なの」
くすっと笑う紗世を抱きしめ、強引に唇をあわせてきた。
「ん…なに…くるし…やだ」
恋人にキスされて嫌なわけではない。ただ突然でびっくりしたからつい「嫌だ」と言ってしまった。
時田が少し苛立ったようにいう。
「新藤に抱かれでもしたのか?新藤と紗世が付き合ってるんじゃないかって女子社員たちが噂してたよ」
「ちが…」
紗世が説明しようと口を開くが、時田がそれを許さない。荒々しい唇が紗世を容赦なく襲う。
「紗世は俺のだよ。新藤なんかに渡さない」
抱きしめる力がどんどん強くなっていく。
「なんで?!」
紗世の大きな声がリビングに響いた。
「なんでそんな勝手なの?!わたしのことがそんなに好きならどうして裏切ったの?佐田さんのこと…なにも説明されてない。わたしと付き合う前に彼女と付き合ってたのかなって思ったことある。でもわたしと付き合ってからも会ってたならそれは反則だよ」
紗世の目から大粒の涙がこぼれた。
「頼られたから?断りきれなかったから?それとも忘れられなかった?わたしは時田さんが好き。新藤さんとは何もない」
泣きじゃくる彼女を見てどうすればいいかわからなくなってしまう。
いつだって紗世は何も言わずにそばにいてくれたのに。
「紗世…紗世…ごめん」
もう一度抱きしめるが彼女は目をあわせてくれない。
「ごめんなさい。今日は帰って。時間をください」