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突然のプロポーズ

水曜日。

紗世の携帯がなる。

「仕事がやっと落ち着いたんだ。週末ゆっくり温泉でもいこうか」

時田からのメールだった。


時田さんは何もなかったように…何もかわらないように振る舞っている。

最後に会ってから2週間メールも電話もくれなかったくせに…。


「ごめんなさい。もう時田さんとはお付き合いできません」

メールを送ろうとしたが…送信ボタンを押せなかった。

結局「今週は予定があります」とだけ書いてメールを送った…。


いくじなし…。


強くなると決めたくせに情けない。

いまやっている仕事を成功させることができたらもっと強くなれるかな。



気づいたら終電間近になっていた。

「やば…」

書類をまとめる作業に没頭しすぎた。

急いで荷物をまとめて会社をでる。

玄関で新藤に会う。

「新藤さん。おつかれさまです」

足早に走り去ろうとした紗世を引き止める。

「もしかして終電?車だから送っていこうか?」

「走れば間に合うので大丈夫です」

「送るから!待ってて」

新藤の少し大きな声にびっくりして素直に頷いてしまった。


実はここのところ少し新藤を避けていた。仕事ではもちろん普通に接している。

だが、仕事以外ではなるべく一緒にならないようにしていた。

特別な理由があったわけではない。

ただなんとなく新藤に甘えそうになってしまう自分が嫌だった。時田にまだ未練を残しながら時々新藤によりかかってしまいそうになる…。そんな弱い自分が嫌だった。


いまはプロジェクトを成功させることだけ考えよう。

そう決めていた。



「お待たせ」

忘れものをしたという新藤がノートパソコンを手に戻ってきた。

「あの…。すみません。家まで送ってもらうなんて迷惑じゃないですか?」

新藤はあっけらかんと

「べつに」

と答える。

車の中ではテレビドラマの話などたわいもない話題で盛り上がった。


あっという間に紗世の家の前についた。

「ありがとうございました」

お礼を言って降りようとした紗世の顔をじっと新藤が見つめている。

「あの…わたしの顔になについてますか?」

ふざけるように紗世が言う。

「キレイだなって思って。会社でもみんな言ってるよ。最近飯塚がさらにキレイになったって」

こんな言葉をさらっと言えてしまうのが王子さまなんだなと感心しながら、少しドキっとしている自分に気づく。

それを隠すようにおちゃらけた感じで答える。

「ダイエットしたからかな。お腹でてたんですよ。あと奮発して高い美容液買ったんです」

笑ってくれるかなって思ったが新藤はただ黙って紗世を見つめている。


沈黙が続く…。


「じゃあ、帰りますね」

ドアをあけようとした瞬間。腕をつかまれて、体ごと彼の方へ引き寄せられた。

「あの…」

言葉を発しようとした紗世の唇を新藤の唇がふさいでいた。

「ん…」

必死で逃れようとしたが彼が離さない。

抱きしめる力がさらに強くなる。

「やだ…」

やっとのことで離してもらえた。紗世の目にはうっすら涙がうかんでいた。

我に返ったのか新藤が小さく謝る。

そして再び真っ直ぐ紗世を見つめ

「俺、飯塚が好きなんだ。初めて会った時からずっと。結婚してください」

突然のプロポーズ。

何が起こったのかわからない。

時田が言ってくれるだろうと思っていた言葉。心のどこかで待ち望んでいた言葉。


紗世は新藤の方を振り返らずに黙って車を降りた。

「おやすみなさい」

車のドアをしめた。



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