ライバル
紗世が入社して1年がたった春、彼女が勤務する広報にも新入社員が入ってきた。
「わたしたちもいよいよ先輩かぁ」
同期の理子とランチをしながら何となく笑う。
「紗世は優しいからさ。ナメられないように気をつけなよ」
「大丈夫だよ」
そんなやりとりが続く。
新しく広報に入ったのは3人。
男の子がひとりと女の子が2人。
そのうちの1人のめんどうを紗世が見ることになった。
「はじめまして。飯塚紗世です」
ぺこりと頭を下げる。
すると新入社員の彼女も同じように挨拶をする。
「佐田涼子と申します。よろしくお願いします」
彼女が妖しく微笑む。
それが紗世と涼子の出会いだった。
涼子は紗世が教えたことをどんどん自分のものにしていった。
とびきり美人というわけではなかったが、愛想が良くかわいい笑顔を作っては男性社員を味方につけていた。
「あたしはあの子気に入らないなぁ。ぶりっこだし、コビコビした態度とってさー。たいして可愛くもないくせに可愛い子ぶっちゃって。確かに細いし、スタイルはいいけどそれだけじゃん。絶対絶対に!紗世の方が美人だし、品もあるもん」
金曜日の仕事帰り紗世と理子は居酒屋にきていた。
理子の不満はとまらない。
「だいたい来週の雑誌の仕事!なんで時田さんとあの子なのよ。あれは紗世の仕事じゃない。時田さんも時田さんだよ。ちょっと褒められたくらいでデレデレしちゃって」
「理子ぉ、飲みすぎだよ」
「いいの!わたしはくやしいの!だって紗世が一生懸命リサーチしてとった仕事じゃないの。あんなに頑張ったのにそれを何もしてないあの子にとられるなんて。わたしは紗世が心配なの!」
「理子はあいかわらず優しいね。わたしのこといつも誉めてくれるし」
「紗世は悔しくないの?自分の仕事彼女にとられて。それに時田さんだって…」
理子はそこで黙ってしまった。
紗世の心臓がチクリと痛んだ。