完全復活
さやわかな朝。
今日はなんだか目覚めが良い。
心のもやもやもだいぶ晴れた気がする。
時計を見ると出勤時間までまだだいぶある。
「ひさびさに走るか」
紗世はさっとジャージに着替えた。
心地よい風が紗世の頬にあたる。
ミネラルウォーターを飲んでゆっくりと走りだす。
早起きは気持ちがいい。時間が長く感じられるし、1日を有効に使っているような気になる。
「ふぅ」
適度にかいた汗をシャワーで流し、会社へいく準備をはじめる。
きのうまでのわたしではなくて新しいわたしになろう。
先月買ったお気に入りのワンピースを着て。髪をまいて。きれいにメイクする。
いい女になっていつか時田さんを見返せるように。
こんなに彼を好きだった自分の気持ちが報われるように。
心の中でそっとささやく。
さよなら。
時田さん…。
あなたはわたしの初恋でした。
いままでどうもありがとう。
どこまでも抜けるような青空をそっと眺めていた。
きのうまでの紗世とは明らかに何かが違っていた。全てふっきれたような明るい笑顔。
誰もが振り返りたくなる美貌。
少し痩せたからだろうか。以前にも増して美しくなった気がする。
ピンクのワンピースのせいだろう。時々少女のように可愛らしく見える。
いまの紗世に勝てる者はいないだろう。
涼子が紗世の横でわざとらしく髪をかきあげてピアスをアピールしたが、いまの彼女には通じない。
「あ!佐田さんこれお願いね」
にっこり笑う姿を見てその笑顔に涼子が凍りつく。
何をしてもこの人にはかなわない。
紗世の瞳にやっと自分の姿が写し出されるようになったと思っていたは間違いだったようだ…。
もともとライバルになれる存在ではない…。
それを思い知らされている気がして涼子は爪をかんだ。
惨めな自分をかき消すようにジッと紗世を睨みつけた。