勇気
「きのうはどうもありがとうございました。お友達にもよろしくお伝えください。あと恵里さんにも」
紗世が意味ありげににこっと笑う。
「なんで恵里?」
新藤が不満そうに聞く。
「だって。きのう。一緒に帰ったし。仲良さそうだったし」
「ふーん」
新藤が不機嫌そうに続ける。
「人のことはいいからさ。自分の心配したら?彼ときちんと話した方がいいよ。どうせちゃんと話できてないんでしょ?飯塚のそういうとこ良くないよ」
自分でも気にしていたことを指摘され、紗世は言葉に詰まる…。
取引先に向かう車の中。沈黙が流れる。
「おつかれさまでした」
取引先との仕事を終えて帰社する車の中で紗世が新藤に切り出す。
「あの…。さっきの…。きちんと話をしないとっていう…あれ…ありがとうございました。自分でもこのままじゃダメだなって思ってたんです。ただ好きな人に嫌われるのがこわくて…。あと本当のことを知るのもこわかったんです。受け入れる勇気がまだなくて。でも新藤さんに言われてきちんと話をしてみようって思いました。ありがとうございます」
紗世の表情や話し方。ものすごく精一杯で一生懸命だということが新藤にはわかる。
「さっきはごめん。ちょっときつい言い方になってしまって。飯塚はさ!いい女だよ。かわいいし!優しいし!自信もって。万が一彼と話して最悪の結果がでたって飯塚は絶対幸せになれるよ。俺が保証する。飯塚みたいな子逃したらあとで後悔するのは彼だよ。心配ないよ」
語りかけるような優しい声で話す。
「わたし自分に自信がないんです。何も持ってないから。でも王子さまがそんな風に言ってくれるんだもん。頑張ってみます」
軽くガッツポーズをとってみせる。
「飯塚。それ古い」
さっきまでの沈黙が嘘のようだった。
車内は2人の笑い声でいっぱいになる。
「今夜ー。会いたいです」
紗世は時田にメールをしてみた。
一歩踏み出すために。
これからも彼と一緒にいたいから本当のことが知りたい。