初恋の人
時田と紗世が出会ったのは今から3年前のことだった。
大学を卒業して憧れのジュエリーブランドで働きはじめた紗世。まだ配属先は決まっていなかったが簿記や秘書の資格も持っているし、何となく自分は経理課に配属されるだろう。そう思っていた。
ところが紗世の予想はハズレた。
紗世の配属先は広報だった。
自社のブランドを雑誌やテレビで宣伝していろんな人に興味を持ってもらう。
素敵なジュエリーをひとりでも多くの人に購入してもらうためにいろんな工夫をする。
それが紗世の仕事だった。
初めてのことばかりに戸惑いながらも一生懸命働いた。
その時、同じ広報にいたのが時田だ。
時田は紗世より五歳年上。気さくな性格で女性社員から人気があった。自信に満ち溢れていて仕事ができるからだろう。上司にも可愛がられていたし、男性社員からも信頼されていた。
紗世が仕事でミスをした時、時田は誰よりも強く紗世をしかったし、逆に仕事がうまくいった時はものすごく彼女を誉めた。
仕事が終わるとみんなを飲みに誘ったり、とにかく魅力的だった。
今まで全く人を好きにならなかったわけではない。でも付き合いたいとか一緒にいたいとか思った人には一度も出会わなかった。
鈍感だとかオクテだとか思われるかもしれない。学生時代、モテなかったわけでもない。
そんな紗世の初恋の相手が時田だったのだ。
時田が紗世を特別気に入っていることはまわりの誰が見ても一目瞭然だった。
だが決して彼女に気持ちを伝えてくるわけではない。
時田にはいつも彼女がいたし、紗世も時田本人からその話を聞いていたので特に恋愛感情をもっているわけでもなかった…。
ところが、次の春に新入社員が入ってきて彼女の心情に変化が訪れた。