朝の風景
いつもより少し早く会社に到着する。
誰もいないオフィスー。
ふと奥に目をやるとすでに人影がある。
なにげなくのぞいてみるとそこには新藤がいて、もう仕事をはじめていた。
「おはようございます。早いですね」
紗世が挨拶する。
「ああ。おはよう。ちょっと片付けたい仕事があってね。このあと会社に戻ってうちの仕事もしなきゃだから」
新藤が笑顔でこたえる。
新藤の笑顔につられつ紗世もにこっと笑う。
「じゃあ」
紗世が自分のデスクに戻ろうとしたとき…。
「飯塚っ!」
紗世が振り向くと新藤が頭を下げた。
「きのうはごめん。突然困らせるようなこといってごめん」
深々と頭を下げる新藤に紗世は慌てた。
「やめてください。わたし気にしてませんから。本当に大丈夫です。それより…ずっとお礼を言わなきゃって思ってました。あの雨の日。ありがとうございました。せっかく親切にしていただいたのにお礼も言えずにごめんなさい」
今度は紗世が謝る。
こんなに朝早く。会社で謝りあっている…。
なんだかおかしくなって、気づいたら2人は顔をあわせて笑っていた。
「今度飲みにでもいくか。飯塚の失恋話を肴に飲もうか。キレイでかわいい飯塚が振られた理由をさぐって検証するってのはどう?」
「バカにしてるんですか?」
ぷくっとふくれる。
「でも…。好きな人の気持ちを掴んで離さない秘策を教えてくれるならいってもいいかな」
にっこり笑う紗世に負けない笑顔でこえる新藤。
紗世にはわかっていた。彼の優しさが。紗世が気まずくならないようにわざとこんな言い方してることが。
そんな2人のやりとりを遠くから見つめる人影があった…。