修復
「飯塚っっ!」
駅へ向かう途中、新藤が自分を呼んでいるのがわかった。
紗世は決して振り向かない。振り向いたらもう戻れないような気がする…。
その声を振り切るようにそのまま駅へ向かった。
時田のマンションにくるのはあの雨の日以来だった。
マンションが近づくにつれ胸が高鳴るのがわかった。
一体何から話せばいいのだろう。涼子とのことを問い詰めればいいのか。
それとも何も言わずに前みたいに過ごすべきなんだろうか。
部屋の前でぼんやりとしていると時田が帰ってきた…。
いつもなら合い鍵を使って部屋の中で待っているのだが、今もそうしていいものなのかわからない。
「時田さん…」
時田は紗世を愛おしそうに見つめ部屋に招き入れた。
2人の会話は普段と特にかわらなかった。紗世が作ったごはんを食べ、テレビを見て。お互いの仕事の話をして。
「わたし今日から新藤さんと仕事してるんです」
隠しても仕方ないことだし、もしかしたらもう知っているかもしれない。そう思って報告した。
時田の箸がぴたっととまる。
「そうらしいね」
少し怒ったような…そんな表情で続ける。
「紗世はきれいだから。新藤さんはどうやら紗世にご執心のようだ。どうしても紗世だといってきかなかったらしい。部長が困っていたよ」
突然立ち上がって紗世を後ろから抱きしめ、耳元でそっとささやいた。
「紗世は俺だけのモノだから。今までもこれからも。他の誰にも渡さないよ」
その夜、紗世は時田のマンションに泊まった。




