再会
あの日以来。涼子にとって紗世は透明人間だった。
存在自体をないものにしているようだ。
完全に視界にいれないようにしている。
そんなことをして彼女は満足なんだろうか…。
それとも存在を認めるのも嫌なんだろうか…。
仕事中に何度か気分が悪いといって席をたつ彼女。そんな彼女を心配するまわりの人間。
「佐田は真面目で頑張りすぎてしまうところがあるからな。精神的にも弱いところがあって…。何度か相談されたけど。彼女泣いちゃって」
そんなことを言う男性社員が何人もいた…。
時田もそんな彼女が放っておけなかったのだろうか。
また胸が少し苦しくなる…。
紗世はオフィスを新藤と歩いていた。
新藤を玄関まで見送りにいくことになったのだ。
さっきは驚いた。
雨の日に傘をさしだしてくれたあの人が噂の王子さまだったなんて…。
でも王子さまは紗世のことを覚えていないようだった。
よかった。
少しホッとした。
あんな情けない姿。できれば誰にも見られたくない。
「飯塚さんはずっと秘書課で働いているんですか?」
たわいもない話が続く。
ロビーを抜け、玄関にたどり着いた。
紗世は新藤に深々と頭を下げる。
その時ー。
新藤が真面目な顔をして紗世を見る。
キスされるー。
そう思ってしまうくらい顔と顔が近づいた。
「風邪ひかなかったみたいだね。心配だったんだ。よかった」
王子さまは甘いマスクでにっこり微笑で立ち去った。