冷たい雨
あの日のことはあまり覚えいない…。
ただあの時の光景が脳裏に焼きついて離れない。
2人が笑いあう姿を見て途方に暮れた。
黙って帰ればよかったのかもしれない。でも気づいたら時田のもとに走っていた…。
「何してるの?」
目にいっぱい涙をためて聞く。
一瞬ギョッとした顔をした彼を見て終わりを悟る。
時田は涼子から離れ紗世を近くの公園に連れて行く。
「彼女とは本当に何でもないよ。ただ家が近所で…。以前仲良くしてた時期があって…でも昔のことだから。今は…別に…。昔のこと知ったって何もいいことないよ」
そういうことか…。
ハッキリは言わないが時田の言いたいことはわかった。
時田は紗世と付き合う前に涼子と付き合 っていたのだ。
不自然な2人の態度…。急に口をきかなくなった時期があった。あの時、別れたのだろうか。
でもいつの間にかまた自分に内緒で会うようになっていた。
また涙がでてきそうになった。
「今日は突然来てごめんなさい…。わたし帰ります」
紗世が駅に向かって歩きだす。
「紗世!俺、紗世のこと大切だから。こんなことで離れると思ってないから。紗世と一生一緒にいたいって思ってるから」
紗世はにこっと力なく微笑んでまた歩きだす。
雨がふっていた。
でも彼女には関係ない。
冷たいのかどうかもわからない。ただひたすら歩いていた。
傘もささずに。
途中、誰かにぶつかる。フラフラしていた自分が悪いのにその人は心配までしてくれた。
優しい人。
その優しさがいまの紗世には痛かった。
その優しさがこわい…。
逃げるように走り去った。