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第一話 侯爵子息はわからない

ディスラン目線

王都に鳴り響くのは美しい鐘の音。

王太子、フレデリックとサラを祝う盛大な結婚式が行われ、王都が歓声に包まれたのが三ヶ月前の事であった。


騎士団長の息子であり、侯爵家嫡男ディスラン・ラングースが学園に足を踏み入れるのは半年ぶりだった。


半年前、ディスランが側近として仕えていた一歳歳上の王太子フレデリックが、卒業式で自らの婚約者の罪を明らかにした。

特待生として編入してきた平民の娘、サラを暗殺しようと暴漢を雇い彼女を襲わせたのだ。

フレデリックの婚約者は罪を認め、修道院行きとなった。

その後、フレデリックの調べによりディスランを初めとした王太子側近の婚約者達が全員、サラを虐げていた事が判明した。


ディスランは他の側近達と違い、サラに恋心を抱いていた訳はいなかったが、婚約者であるエリージアが虐めというディスランの最も嫌悪するものに手を染めていた事が許せなかった。


エリージアは伯爵家の令嬢で、ディスランとは産まれた時から婚約が決まっていた。

頭が良く、幼い頃からいつも本を読んでいたエリージア。

将来は騎士団に入る事が決められていたディスランにとって、本は開くだけで眠くなるだけの物だったがエリージアがこれはどんな物語なのかと語る声はとても心地よくて、やっぱり眠くなった。

賢く、真面目で誠実な娘だったが、いつも笑顔でよく喋る。

幼いディスランはそんなエリージアに淡い恋心を抱いた。


しかし、学園に入学してからエリージアは変わってしまった。

どんな身分の者にも礼を示し、笑顔を絶やさなかった彼女は徐々に表情も固くなり、滅多に笑顔を見せなくなった。

クラスメイトに声をかけられても最低限の返事を無表情で返すだけ。

一日の間に彼女の発した言葉が片手で足りる程の回数しかない事も珍しくなかった。

昼休みは図書館に引きこもり、授業が終わると足早に帰宅し、お茶会も全て断るエリージアに「氷の姫君」という貴族令嬢にとって侮辱でしかない渾名が付いたことにディスランは怒りを覚えたが、彼自身もあまりに変わってしまった婚約者に戸惑った。


王太子を含む側近仲間の間では、婚約者達の豹変が毎日のように話題の中心だった。

野山を駆け回る快活な少女だった婚約者が、ドレスや宝石で身を飾ることしか興味を無くしてしまった。

お勉強なんか嫌いだと、共に家庭教師から逃げ回り遊んでいた少女は、学年首席となりもっと自分の夫として相応しい作法と知識を身につけろと毎日説教するようになった。

正直者で、いつでも誰にでも臆することなくハッキリと発言していた少女は、歯に衣を着せ権力の前には言葉を選ぶ狡猾な人になってしまった。


皆がそれを嘆き、女とは権力を持つ男の妻になるためなら簡単に自分を変えてしまう恐ろしい生き物だと、

それに比べて、貴族学園の特待生という立場に置かれても天狗になることなく、天真爛漫でいつまでも心優しいままのサラが眩しかった。


婚約者達が何故、学園に入ってから豹変してしまったのか?

側近達はただただ不気味だった。


そしてどんなに環境や立場が変わろうと自分らしさを失うことの無い心清らかなサラを妻に迎えたフレデリックはどんなに幸せな人生を送ることかと、嫉妬せずにはいられなかった。


そして、フレデリックの結婚と共にディスランはエリージアに婚約破棄を申し出た。

「平民とはいえ、弱き者を虐げる行為には変わらない。君のような人を妻に迎える事は我が家の恥となるだろう。婚約は破棄させてもらう」

最後くらいは涙の一つも見せるかと思ったが、エリージアはいつものように無表情で「そちらからの破棄の場合、契約書に従えば慰謝料を払うのはディスラン様になります。それでも問題が無ければそちらの書類にサインをお願い致します」と淡々と口にした。

「おい、婚約破棄されればお前は傷物令嬢になるんだぞ。なにか俺に言うことは無いのか?」

「ディスラン様に不快な思いをさせた事、心よりお詫び申し上げます。今までありがとうございました、道は違えますがどうぞお元気で」

深々と頭を下げ、やはり眉一つ動かさず淡々と口にした言葉は冷たかった。


傷物令嬢になれば、彼女の未来は不幸が降り注ぐ事になるというのにそんな事もわからない愚か者になってしまったのか、それとも強がりなのか。

彼女に婚約破棄を言い渡したことに後悔はないが、少しくらい人間らしい顔を見せてくれれば心変わりの一つもしたかもしれない。


結局、エリージアとの婚約破棄は成立

ディスランは次期国王となるフレデリックの側近として王城での特別講義を受ける事になり、半年間学園を休学した。


そして、今日は半年ぶりに学園に戻ってきた。

エリージアはまだ学園にいるのか、修道院にでも入ったのか。

どうでもいい、と何度も繰り返しながらディスランは教室に向かった。


次回、エリージア目線

お楽しみに

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