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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
幕間:コンドラチイ・フォミナ

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昔話とスクロール

 コンドラチイがダニールと共に図書館へと通うようになってひと月が経つ頃。学院の休養日にダニールが外泊許可を取ってどこかへと出かけていった。


 調べ物の延長だと言い残していったダニールだったので、どこかの本屋や王立図書館に行ったのかとコンドラチイは思っていた。


 それが休養日が明けても帰ってこなかったので、長いこと外泊許可をとれたものだと思っていたら、休養日明けの授業終わりに、学科教諭から「ダニールは体調不良か」と尋ねられた。


 寮にはまだ帰ってきていない。出かけているのなら、学科の先生にダニールが何も言っていかないのもおかしい。その場はなんとか取り繕ったものの、昼休みにコンドラチイはダニールが外泊予定から帰っていないことをロランたちに相談した。


「外泊から帰っていないのかい? 行き先の心当たりは」

「ダニールは魔宝石について調べていました。その延長で出かけるとしか……どこに行くかまでは聞いていません」

「一応、家の者を使って捜索させてみようか」

「すみません。お手数をおかけします」

「困った時はお互い様だわ。私たちもダニールのことを心配してるのよ」


 ロランとイネッサは寮生じゃない。家の人間を使ってダニールの行方を探してくれることになった。


 ロランたちに任せていてもいいけれど、ダニールの不在に最初に気がついたのはコンドラチイだ。落ち着かなくて、ダニールが直前に読んでいたものや、メモしていたものがないか、くまなく探す。


 放課後、ダニールが借りていた本の閲覧履歴や、最近読んでいた本を読んでもピンとこない。また明日調べるしかないだろうかと思いながら、閉館時間を迎えた図書館をあとにする。


 寮の部屋に戻ると、コンドラチイはふとダニールの机を覗いてみた。

 教科書や本が雑然と積み上がっている。完全に荷物置きにされている山。まさかこの山に手がかりが埋もれてることはないだろうか。コンドラチイは少し遠い目になりながらも、山の一画に手をかけた。


 積み上がっている本の中から、教科書を避けて目ぼしい本に目を通していく。魔石や歴史、言語、伝承の本ばかりだった。ダニールがどれくらい本気で調べていたのかが分かる。


 ダニールが積んでいた本の中に図書カードが挟まれていた。貸し出し履歴の最新。貸し出しは一人五冊までだというのに、毎回五冊ずつ借りているようだった。それにしても、図書館で借りた割には、机に積み上がっている本の冊数が多すぎる。自分で買ってきた本もあるのかもしれない。


 これでは借りてきた本が混ざって帰すのを忘れてしまうだろうと、コンドラチイは図書館の本を抜き出した。一冊ずつ図書カードに書かれたタイトルを見ながら抜き出して、気がつく。


 一冊足りない。

 『大陸昔話』と書かれた本が一冊足りなかった。

 コンドラチイは部屋中を探すけれど見つからない。

 もしかして、ダニールが持っていった?


 少し考えて、コンドラチイは上着を羽織る。それと何かあった時のために魔石も持って行く。

 それからこっそりと夜の寮を抜け出した。






 寮を抜け出したコンドラチイが目指したのはロランの屋敷だった。住所だけは聞いていて良かったと、少しだけほっとする。


「こんな深夜に訪ねてくるなんて驚いたよ。ダニールのことで、何か分かったのかい?」


 夜の突然の訪問にもかかわらず、ロランはコンドラチイを屋敷の中に入れてくれた。客室に通してくれて、ゆっくりと話ができるようにお茶も出してくれた。


 けれどコンドラチイはそれに手をつけず、単刀直入にロランに尋ねた。


「ロランは『世界昔話』という本を知っていますか」

「いや、聞いたことはないけど」

「図書館で借りていた本のようですが、おそらくダニールはこの本を持って行ったようです。内容を確認したいのですが……」

「図書館の分はダニールが借りてるから図書館では読めないと。なるほど、それで僕の力を借りに来たわけか」

「やみくもに探すよりはと思いまして」

「うん、良い判断だよ」


 殊勝に頷いたコンドラチイに、ロランはにっこりと微笑んだ。

 とはいえ、もう夜だ。伝手をたどって本を探すわけにいかない。一旦寮に戻るようにとロランから言われ、コンドラチイが立ち上がったところで、従者がこっそりとロランの耳に何事かを耳打ちした。


 ロランの蒼い瞳が面白そうに細まる。

 コンドラチイを手招いて、にっこりと笑った。


「うちの使用人に本好きがいたみたいだ。持っているようだから、取りに行かせている」


 コンドラチイの瞳が大きく瞠られた。

 こんなにもすぐに見つかるなんて思っていなかったから。ロランも駄目元だったみたいでくすりと笑う。


 そうして届いた本を手に取ったコンドラチイは、さっと目を通した。

 その間、ロランは優雅に紅茶を飲みながら待っている。


「本当にそこに手がかりがあるのかい?」

「ダニールは創世の魔宝石というものを探していました。彼の出身はガラノヴァ帝国です。現地に伝わる伝承があったようで、ガラノヴァにまつわる話があれば……ありました」


 コンドラチイは一編の昔話を見つける。

 そこにはダニールの言う通り、精霊が魔石に宿って世界を創造したと書いてあった。


 だけど分からない。

 ダニールがどこへ行ったのかは。


 コンドラチイはガラノヴァ帝国にまつわる昔話をもう一度読んでみる。ロランも席を立ち、後ろから覗き込むように本を読んだ。


「面白い話だね。精霊が宿る魔宝石か」

「魔宝石は近代のものかと思っていましたが、古くからある言葉なのも、不思議な感覚です」

「そうだね。魔宝石が作れるようになったのもほら、あれ……白日の樹の琥珀が発見されたからなんだろう?」

「そうですね。今から五十年ほど前に白日の樹の琥珀が……」


 そこで何かが引っかかって、コンドラチイ手に持つ本のページをめくった。手を止めるのは、ラゼテジュ王国の昔話。精霊の宿り木の物語だ。


「懐かしいね。少女が精霊の涙をもらって救国の少女となる話じゃないか」

「……この精霊の宿り木はもしかして、白日の樹ではありませんか?」

「なんだって」


 コンドラチイは考える。ふと浮かんだ考えだ。何も根拠はない。根拠はないけれど。


「少女がもらった精霊の涙……これがもし、白日の樹の琥珀だったら」

「……魔宝石になって願いが叶うかもしれないけれど。でも内包物(インクルージョン)は」

「――精霊です」


 つながった。

 ラゼテジュ王国が持つ精霊の宿り木の物語と、ガラノヴァ帝国の持つ創世の魔宝石の物語。


 ダニールもそれに気がついたら。


「ありがとうございます、ロラン。助かりました。ダニールを迎えに行きます」

「迎えに行くって、分かったのかい」

「はい。おそらくダニールはこの国で最古の白日の樹を探しに行ったはずです」

「それって……」


 ロランの顔が驚愕に染まる。

 コンドラチイも少しだけ渋い顔になって頷いた。


「王家が管理している森林。あそこに入り込んだのだと思います」

「いやいやいや! さすがにそんなことするかい!? そんなところに無断で入ったらただでは済まされないよ!」

「それをするのがダニールです」


 コンドラチイもまさか、とは思う気持ちもある。

 だけど半年かけて調べてきたダニールだ。学業の傍らで調べていた魔宝石の伝承。その伝承を裏づけるようなものを見つけたら。


「……ダニールって研究職が向いているのかもしれないね。すごい執念だ」

「俺もそう思います」


 コンドラチイはロランと同じように呆れた。本人も実技が苦手だと言っていたし、ダニールは将来、研究職に進んだら良いと思う。


 とはいえ。今はまずダニールを連れ帰らねばならないわけで。


「王家の森に入って出られなくなったのか、はたまた入ったことが王家に知られて捕まってしまったのか……」

「先生方が何も気づいていないということは、おそらく王家には見つかっていないんだと思います」


 その前提で、コンドラチイは動くことにした。

 頭の中でこれからの行動を算段づける。


 大丈夫、できるはず。

 今ならきっと。


 コンドラチイはひと呼吸置くと、ロランを見据えた。


「テーブルを貸していただけませんか」

「いいけれど、何をするつもりだい?」

「スクロールを作ります」


 ロランが目を瞠る。

 それから面白そうに目元を細めた。


「君はスクロールが作れるのかい?」

「魔術を使うのに一番簡単ですから」

「学院半年でそれが描けるなんて面白いね。さすが飛び級と言うべきかな。でも何の魔術を使うつもりなのかな」


 首を捻るロランに、コンドラチイは鞄の中からスクロール用の羊皮紙とインクとペンを取り出す。テーブルの上にそれらを広げながら答えた。


「決まっています、転移魔法陣です」

「なるほどね」


 ロランはしたり顔で頷く。

 それからにっこりと笑って。


「その魔法陣の定員を、三人分にしておくれ」


 コンドラチイへとそう要望をつけた。


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