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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
幕間:コンドラチイ・フォミナ

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最年少学生の出会い

 コンドラチイ・フォミナはラゼテジュ王立学院で少しだけ浮いた存在だった。


 通常、十五歳で入学できるラゼテジュ王立学院。五歳の頃にフォミナ侯爵の養子となったコンドラチイは、まだ十三歳でありながら侯爵家の持つ推薦枠で学院に入学した。年齢繰り上げでの入学。そうなると貴族の間で噂に登るのは必定で、その経歴から周囲に遠巻きにされてしまうのもあっという間だった。


 銀色の髪に、琥珀色の瞳。無表情で、魔力だけは豊富な子供。数ある学科の中でも、才能がものを言う魔術科の所属になったことで、さらに周囲の妬み嫉みを買ってしまいかねない。フォミナ家に引き取られたあと、養い親であるフォミナ侯爵から直接忠告されていたからか、コンドラチイはそんな視線に怯むことなく、学院では自分に必要な知識を粛々と求め続ける。


 ……その、つもりだった。


「よぉ、フォミナ侯爵のお坊ちゃま。俺はダニール・ヤフノスキー。同室だ。よろしくな!」


 コンドラチイはフォミナ侯爵家の養子にはなったけれど、生活全てを甘えられる立場ではないと思っていた。フォミナ侯爵は危険人物として目をつけられた自分を救い出してくれた恩人。恩人に過度の世話をお願いできるはずもなくて、王立学院では寮へと入った。


 寮の部屋は二人部屋。その同室者はワインレッドの髪を持ち、エバーグリーンの瞳を持つ少年。正規の年齢で入学したダニールは、コンドラチイより二つ年上の十五歳だった。


 コンドラチイにとっての誤算は、この同室者だ。


 一人で勉強したい、一人で行動したい。五歳の頃の事件以来、誰かと一緒にいることが恐ろしく感じるコンドラチイにとって、何かあればかまってこようとするダニールは厄介でしかなかった。


「コンドラチイ、飯にしようぜー」

「しつこいです。一人で食べますので」

「今日の食堂メニューはなんだろうな?」

「……」


 今日もまた、コンドラチイは昼食に誘ってくるダニールを黙殺して魔術科の教室を抜け出した。

 目指すのは購買だ。コンドラチイが教室から出たら、交友関係の広いダニールはクラスメイトに捕まるはず。コンドラチイはしれっとした顔で廊下を歩いた。


 ダニールは平民出身の特待生。魔力量はそれほど多くはないけれど、語学が堪能だとか。他国の魔術理論書もすらすら読めて独学で学んでいたことから、今年の特待生枠で入学ができたらしい。


 そんな彼もまたコンドラチイ同様、通常入学している学生たちにやっかみを受けるかと思っていたらしい。最初のうちは同室のコンドラチイと行動を共にしていた。だけど持ち前の社交性で、今や魔術科のムードメーカーの一人になっている。


 少しだけ淋しく感じることもある。でもコンドラチイがクラスの輪の中に入ることは、どうしてもできなかった。


(友人がいなくたって勉強はできる。感情が高ぶって魔力暴走なんかしたら、目も当てられない)


 楽しい時、悲しい時、腹が立った時。感情が魔力を波立てることを経験則で知っていた。だからコンドラチイは一人で穏やかに過ごしたかった。


 購買でパンと飲み物を購入したコンドラチイは王立学院の中庭を迷いのない足取りで歩く。最近、人の来ないベンチを見つけたので、そこで食事を摂ろうと足を向けた。


 何かの倉庫らしい小屋の脇。そこにひっそりとあるベンチにたどり着いて、びっくりした。


「……あ」

「おや」

「まぁ」


 コンドラチイはすごく動揺した。

 誰もいないと思っていた自分だけの場所に、誰かがいた。そのこともそうだけれど、そこに座っていた男女の学生が口づけを交わしていたから。


 ベンチに座っているのは、肩で切り揃えられた金髪に海のような青い瞳を持つ男子学生。彼の腕の中で恥ずかしそうにしているのは白髪に紅い瞳を持つ女子学生だった。彼女の傍らには日傘が置いてある。


 人目を忍んで逢瀬をしていたらしい恋人たちを前に、コンドラチイは途方に暮れた。


(ここも人が来るのか。他に人気のないところを探さないと。ああ、というか学校でそんな破廉恥なことしているのがそもそも信じられないというか。いや、俺には関係ないことだけれど)


 人様のキスシーンをがっつりと見てしまうことなんて初めての経験だった。だからコンドラチイの足はすくんでしまったし、なんだったら感情のキャパシティが限界に感じた。


 とどのつまり、まだコンドラチイは十三歳の少年で。

 人と距離を取ることばかり覚えてしまった彼には、刺激の強い光景だった。


「君、どこかで見たような」

「フォミナ侯爵に迎えられた方じゃないかしら」


 白髪の女子生徒の言葉に、金髪の男子生徒が納得したように頷いた。

 一方的に顔を知られていることに不快な気持ちになったコンドラチイは、ようやく金縛りがとけたように踵を返そうとする。


「待ちなよ。少し話をしていかないかい?」

「せっかくだもの。飛び級で入学した貴方のお話を聞かせてくださいな」


 コンドラチイの両脇を二人の生徒ががっつりと固めてしまった。強引な恋人たちに、コンドラチイはしかめっ面になる。


「面白い話なんてありませんよ。離してください」

「そう言わないで。侯爵家に連なるのでしたら、コネは大切ですわ」


 コンドラチイはぎょっとして女子生徒を見上げた。十三歳のコンドラチイより背の高い彼女は、うふふと笑うと一歩離れてカーテシーをする。


「淑女科一年のイネッサ・ヴァンピーアと申しますわ」

「僕は騎士科一年のロラン・クーバレフ。僕らは共に伯爵家で、婚約しているんだ」


 だから、さっき目にしたことは大目に見てほしいと笑うロランに、コンドラチイはさっきの居心地の悪さを思い出した。


 さっさとこの場から立ち去りたくてたまらないけれど、自己紹介されたのに挨拶を返さないのは礼儀に反する。しかも相手は伯爵家だ。侯爵家に連なったといえども、元々平民のコンドラチイでは立場が悪かった。


 コンドラチイは渋々と自己紹介をする。


「……魔術科一年の、コンドラチイ・フォミナと申します」

「フォミナ様ね。よろしくお願いしますわ」


 にこにこと微笑むイネッサに、コンドラチイはますます居心地が悪くなる。さっさとこの場から去りたくて視線をそらしていれば、ロランがベンチに立てかけたままだった日傘を手にとって広げた。


「イネッサ、日に出そうだから気をつけて」

「ごめんなさい。気をつけるわ」


 コンドラチイの頭上に影が差した。ロランが掲げた日傘が影を作ってコンドラチイにかかっている。ずりずりと後退りしていたおかげか、倉庫横のベンチがある日陰の場所から、一歩出て日向の場所に出ていた。


 イネッサの肌は病気のように真っ白だ。白粉かと思ったけれど、白粉特有の匂いはしない。ご令嬢の真っ白な肌はこうしてできるのだろうか、と日傘を差している婚約者を見上げてコンドラチイは考えた。ロランという生徒は過保護な性格なのかもしれない。


 冷静に分析していると、イネッサが楽しそうに手を叩いた。


「いっしょにお昼を食べませんか。ロラン、よろしいかしら」

「君が望むのなら、なんだって許してあげるさ」


 イネッサが笑顔でコンドラチイの手を取った。急に触れられたコンドラチイは戸惑って、たたらを踏んでしまう。


「ご、令嬢が、そんな簡単に異性の手を取るなんて」

「いけないことかしら。ねぇ、ロラン?」

「そもそも、フォミナが自分でベンチに座ってくれたら、僕の可愛らしい婚約者の手を握るなんてことは、なかったかもしれないね?」


 コンドラチイはしてやられた、と天を仰いだ。どうしてもこの二人は自分と話をしたいらしい。しかめっ面のコンドラチイはベンチに座ると、自分を挟むように座ったロランとイネッサを見やる。


「それで、お話とは」

「まぁまぁ、そんなに威嚇しないで。言ったでしょう、侯爵家に連なるのでしたらコネは必要だと」


 確かにイネッサはそう言った。そう言ったからびっくりして逃げそこなった。だからといって、この二人が自分と仲良くする利点があるとは思えなくて、コンドラチイの表情は硬いまま。


 そんなコンドラチイに真意をこぼしたのはロランだった。


「遠巻きにしている彼らは君の真価に気がついていないだけださ。フォミナ侯爵は魔術省長官として有能な方だ。そんな方が養子にした君は、将来優秀な魔術師になることが間違いないだろう? 今のうちにお近づきになっておいて損はないと思うんだ」

「それに家格こそ劣りますが、我がヴァンピーア伯爵家は古くからある名門ですの。フォミナ様ご自身の伝手として、我が家はとても便利ですわよ」


 あけすけに売り込んでくるロランとイネッサに、コンドラチイは頭を抱えたくなってしまった。


 平穏な昼休みが欲しかっただけなのに。

 この日の昼休みは、ずっとロランとイネッサのおしゃべりに付き合うハメになってしまった。


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