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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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Merry Christmas

 さて冬休み前。テストやら魔宝石やら獣人やらでどったんばったんしてましたが、ようやく落ち着きました。


 後期中間考査の結果もまずまずといったところ。可もなく、不可もなく。いつも通りのニュートラルな成績だった。進路に備えてもう少し頑張って勉強して、良い大学目指すべきか、現状維持で行けるところを探すか、はたまた就職するか……悩みどころではある。


 とはいえ、今日ばかりはそんな悩みを吹き飛ばしちゃおう!

 本日はかねてよりお待ちかねしておりました、クリスマスパーティーだからね!


「メリークリスマース!」


 私、麻理子、ジロー、ラチイさん、それからお父さんとお母さん。六つのクラッカーが笠江家でパッカン! と破裂した。


 ほんのちょっとの火薬の匂いと、色とりどりのカラーテープ。私と麻理子、それからジローの高校生組はサンタコスチュームを着用、ラチイさんとお父さんお母さんの大人組はサンタ帽子を被って、完璧なクリスマススタイルでお送りします!


 ちなみに高校生組のサンタコスチュームを作ってくれたのは麻理子だったり。ここ数日、色々と考えごとをしてたら、いつの間にか出来ちゃっていたらしい。分かるよ、考えごとしながら手作業すると結構捗るよね!


 高校生組はリビング側のローテーブル、大人組はダイニング側のダイニングテーブルにたむろして、お母さん特性のオードブルに舌鼓。私もちょっと手伝ったし、ご馳走は麻理子やジロー、ラチイさんも持ち寄ってくれたから、テーブルの上は個性豊かなご馳走が所狭しと並んでいる。


 乾杯の音頭で飲んだシャンメリー。

 クリスマスといったらシャンメリーだけど、毎年思うことを話してみる。


「シャンメリーってあんまり甘くないよね。美味しくない」

「私は好きだな〜」

「お子ちゃま舌の笠江にはまだ早かったんじゃねぇの?」


 クリスマスチキンを食べながら、はんっと鼻で笑うジローをじろっと睨みつける。

 私はシャンメリーをテーブルに置いた。


「そんなこと言っちゃうのー? 追試だった山田ジローくんにお子ちゃま扱いされるいわれはないんですけどー?」


 ジローの耳がぴくりと動く。

 私は不敵に笑う。

 ゴーンと私とジローの間で試合開始のゴングが鳴った気がした。


「やんのかカラス女」

「受けて立とうかイヌ男」

「二人とも、ご飯中に喧嘩しないの」


 仲裁役はいつも通り麻理子でした。喧嘩しないでって言われても、先に喧嘩を売ってきたのはジローだからこれは不可抗力だと思うんだよね!


 とはいえ喧嘩してお母さんに外に追い出されても敵わないので、私は大人しくご馳走を食べることに専念する。


 麻理子がジローに話しかけているので、その間は大人たちが囲っているテーブルのほうへ耳を澄ませてみた。ダイニングテーブルはシャンメリーの代わりにラチイさんが持ってきたワインを開けているみたい。


「すみません、俺もご相伴に預かって」

「いいの、いいの。智華がいつもお世話になっているから」

「このワインうまいな! コンドラチイさんはお酒いけるクチか!」


 おお、お父さんが楽しそうにワインを飲んでる。ラチイさんのグラスにもなみなみと注いでいる。あんなに飲んだら明日大丈夫なのかな? あ、ボトルが一本もう空っぽじゃん!


「お母さん、お父さんにこんなに飲ませていいの?」

「そうねぇ。二日酔いは自己責任だから。仕事には行ってもらうから大丈夫よ」

「だって、お父さん」

「異世界の酒がうまいのが悪い!」


 わっはっはっ、とお父さんが笑ってる。そんなに美味しいのか、異世界ワイン……気になるけど、日本じゃお酒は二十歳からだから、私が飲むのは三年後だ。


 ラチイさんがなみなみ注がれたワインをこぼさないように口をつけたあと、私を見上げる。


「智華さん、こっちに来ていいんですか? 麻理子さんとジロー君は」

「ジローに牽制されたから譲ってあげたの。ま、話し合って二人も落ち着きそうだし?」


 麻理子が話す横でね、ジローが麻理子に見えないようにしっしってハンドサイン送ってきたんだよね。ここは私の家なんだけどな。でもずっとすれ違っていたカップルの邪魔をして馬には蹴られたくないから、こっちに移動してきたわけです。


「落ち着きそうって? 麻理子ちゃん、彼氏くんと喧嘩をしていたの?」


 お母さんに聞かれて、私は「そんな感じ」と答えた。お父さんはこてんと首を傾げている。


「何で喧嘩してたんだ?」

「あー……まぁ、進路? ジローは高校出たらすぐ結婚したいって言ってて。でも麻理子はお母さんや先生に進学を進められてたから」

「なぁにぃ! 結婚だと! 早い! 早すぎる! 智華には早い!」

「お父さんうるさい! 私じゃないってば!」


 いきなり大きな声を出したお父さんを怒っておく。今の話、麻理子とジローにも聞こえちゃったみたいで、ごめんってジェスチャーしておいた。麻理子は笑ってたけど、ジローは居心地悪そうに視線をそらしてる。


 いつかはジローも麻理子のご両親に挨拶へ行くだろうけど……日本で学生結婚はあんまり喜ばれないから、覚悟が必要だと思います。


 でも、結局。


「麻理子ね、服飾の専門学校を目指すって。短大なら二年で終わるから。その後はジローんとこに嫁いで、服飾工房作るってさ」

「獣人の国でですか」

「獣人? 獣人って言ったのか? ジローくんは獣人なのか!」


 おっと、お父さんのファンタジー好きに何かが刺さったみたい。ワイン片手にジローに絡みに行ってしまった。お母さんも気になってる様子だったけど、椅子に座ったまま、どういうことなのかと私に説明を求めてきた。


 私はお父さんが去った椅子に座ると、お母さんの隣でこっそり教えてあげる。ジローが実はラチイさんと同じ世界の人で、人間じゃなくて狼の獣人だったこと。どうしてジローがこの世界に来たのかも。


 番いの関係についてお母さんは「ロマンティックねぇ」と言葉をこぼした。


「で、麻理子のことなんだけど。この間異世界に行った時、獣人の国の服が気になったみたいで。独学じゃなくて知識をきちんと学んで、獣人の服を作りたいんだって」


 獣人の服は部族ごとによって色々だった。ジローの赤狼族の服装は和装に近かったし、ちょっと関わった金獅子族の服装はエキゾチックで露出が多かった。民族衣装っぽさが強かったので、普通の服作りとは違うはずだって麻理子は言っていた。


 だからもっと勉強したいって。


「ジロー君はそれを許したんですか?」

「二年なら待てるってさ」

「彼も我慢強いですね」


 ラチイさんは感心したように言うけど、ジローが我慢強い、ねぇ。確かに麻理子のために待ってあげられるのは我慢強いことだと思うし、私もそうするべきだと思っていた。でも。


 私はつい最近知りあった獣人のことを思い出す。


「……ラチイさんは大丈夫だと思う?」

「何がですか?」


 ラチイさんが首を傾げた。ワイングラスをゆらゆらと揺らしている。その様がびっくりするくらい似合っていて、ちょっと直視するのが恥ずかしい。


 でも話してることは大切なことなので、ご馳走に視線を向けながら心配事を吐露する。


「レオニダスのお姉さんみたいにならないかなって」


 ラチイさんはそれだけで理解したみたい。

 柔らかい声音が私の耳に届いた。


「大丈夫だと思いますよ。麻理子さんの愛情がジローくんに向かう限り、番狂いにはなりません」


 そういうものなのかな。

 獣人のことについて、やっぱりよく分からない。麻理子がジローを好きなら大丈夫なの?


「そっか、それならいいや」


 納得のいくような、いかないような。

 でも私が心配するだけ無駄かもしれないと思い直す。人生はなるようにしかならないからね!


 その後も私たちはまばらに席を移動しながら、ご馳走に舌鼓をうった。ジローの持ってきたお肉の煮込みが美味しかった。何の肉かってお父さんが聞いたら魔物肉って言われた。何の魔物か、どこの部位かってお父さんは聞いていたけど、私は聞いたら美味しく食べれないと思って耳を塞いだので聞いてない。私が食べてるのはただの美味しいお肉です!


 ご馳走のお皿があらかた空っぽになって、お腹も八分目になった頃、お母さんが手をパンパンッと打ち鳴らした。


「さぁ、クリスマスケーキの前にプレゼント交換をしましょうか。子どもたちは輪になって。コンドラチイさんも特別ゲストでお入りください。さぁ、音楽を鳴らすわよ」


 四人で輪になると、お母さんがスマートフォンでクリスマスソングを流し始めた。一曲流し終わったときに持っていたプレゼントが自分の物になるルール。それぞれ用意したプレゼントがぐるぐると回りだした。


 麻理子の、ジローの、ラチイさんの、私の。

 四つのプレゼントがぐるぐる誰かさんたちの手を巡っていく。


 音楽が止まった時、私の手にはレモンイエロー色のラッピングがされたプレゼントがあった。


「やった、麻理子のだ!」

「智華さんのですね」

「コンドラチイさんのか」

「ジローのが当たったよ」


 ジローのが当たらなかったのでよし!

 麻理子とラチイさんのが当たりだからね。嬉しい。

 私たちはプレゼント交換の醍醐味として、さっそくプレゼントを開けた。


「わー、宝石石鹸! 可愛い! いい匂い!」

「これは素敵なペンですね。ハーバリウムペン、でしょうか」

「お? ハンドクリームだ。かぶっちまったか」

「ジローの選んだハンドクリーム、いい匂いだね」


 私が受け取った麻理子からのプレゼントは、宝石のようにカットされた綺麗な石鹸だった。色が紅いから、ルビーみたい。苺ジャムのように甘い香りがして、テンションがすっごい上がる!


 ラチイさんが受け取ったのは私の用意したプレゼント。持ち手の上半分がハーバリウムになっているボールペン。こっそり魔宝石を仕込むつもりだったんだけどね、ラチイさんに先日怒られたばかりなので自重しました。


 そして面白いのが男性組チョイスのプレゼント。


「ラチイさんとジローのチョイス、かぶったの?」

「おや。それはすみません」

「いや、ぜんぜん。麻理子とお揃いで嬉しいからな!」


 ラチイさんもジローもハンドクリームを選んでいたらしい。しかも二人とも、ここら辺で一番大きいショッピングモールに入っているお店のクリスマス限定品。見事なかぶり具合だけど、ラチイさんはホワイトリリー系の、ジローはホワイトムスクの香りを選んだみたい。


 ジローは受け取ったプレゼントが麻理子と匂い違いってことでうっきうきしてる。


「なんかむかつく」

「はん。俺と麻理子は相思相愛だからな」

「あー! 私だって麻理子と相思相愛だもん!」

「やるのかカラス女」

「やってやろーじゃんイヌ男」


 本日二度目のゴングが鳴り響きそう!

 臨戦態勢を取る私とジロー。それをたしなめるのは、ラチイさんと麻理子で。


「智華さん、ケーキを食べますよ」

「ジローもだめだよ」


 それが合図だったかのように、お母さんが笑いながらクリスマスケーキを持ってきた。仕方ないので、この試合はまたいつかのために取っておこうと、私もジローも試合放棄。


 みんなで仲良く、クリスマスケーキを美味しくいただきました。


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