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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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希望を捨てないで

 せっかく押しかけてきたのに、あっけなく消えた金獅子獣人さんたち。獣人は耳が良いそうなので、ラチイさんたちが転移してきた時から万が一に備えて待機していたそうなんだけど。


 その全員が綺麗さっぱり、ラチイさんの魔術によって消えてしまった。


 レオニダスはライオンっぽい丸耳と細い尻尾を逆立てて威嚇する。


「あいつらをどこにやった……!」

「里から少し離れたところに転移させました。言ったように高低差の計算を無視したので、空から落ちるか地中に埋まるかは分かりません」


 飄々と答えるラチイさんに、背筋がぶるっとした。

 ラチイさん曰く、獣人の身体能力はすごく高いから高所から落ちても平気だろうし、地中に埋まっても穴掘りくらいできるでしょう、とのこと。


 鬼の所業だと思ったのは私だけじゃないと思う。

 同じ獣人であるはずのジローがドン引きしてるもん。


 だからレオニダスも。


「悪魔め……!」

「心外です。先に手を出そうとしたのはそちらでしょう」


 怒気をはらんだレオニダスの言葉に、ラチイさんはすっと目を細めた。

 これはやっぱり怒ってますね!?


「ラチイさん! 大丈夫だから! 怒らないで!」

「怒ってはいませんよ」

「ぴりぴりしてるよ。お願い、話を聞いてあげて」


 ラチイさんのケープを引っ張る。お願いお願いとラチイさんに言葉を重ねれば、深いため息をつかれて麻理子のように片腕抱っこされた。

 なんで?


 なんで抱っこされたのか分からずに疑問符を頭に浮かべていれば、ラチイさんは私と視線を合わせてきた。あ、なるほど、目線を合わせるための抱っこですか?


 琥珀色の瞳に、ねじり角がついた私の顔が映る。


「話とは」

「えぇとね」


 ジローに見捨てられたくだりまではラチイさんは知っているようだったので、その後の話を追うように話した。


 ムーンが迷子になって、レオニダスに保護されていたこと。レオニダスはラウニーさんのために番いを探していること。番い狂いをこの目で見たこと。


 たった半日でこんなにも濃い一日を過ごしたことはなくて、話す内容の多さに自分でもたまにこんがらがっちゃったりしたけど。

 でも、言わなきゃいけないことはちゃんと話した。


 話した上で、私はラチイさんにお願いする。


「だからね私、お姉さんのために魔宝石を作ってあげたい」

「また貴女は無茶なことを……前にも言いましたが、空間魔術は高難易度の技なんです。転移に失敗すれば存在ごと霧散します。そんな繊細な魔術を魔宝石にすること自体、危ないんですよ」


 以前、ティターニアさんの件でかなりこってりと聞いた。空間魔術の理論とその危険性。それを忘れているわけじゃないよ。


 それでも私は、叶えてあげたい願いがある。


「分かってる。それでも作りたい。それにさ、これが作れたら、レオニダスさんのお姉さんだけじゃない。麻理子も夢を諦めずに済むかもしれない」

「えっ」


 麻理子がびっくりしたように声を上げる。私は笑った。世界をまたいで恋をする親友へと笑いかけた。


「私は麻理子の親友だからね! 麻理子の夢を応援したいもん。やりたいことがあるなら、やればいい。私は麻理子の味方だもん」

「智華ちゃん……」


 麻理子の表情がくしゃりと歪む。

 ジローが不安そうに麻理子を見た。


 番い狂いを見た今、ジローには酷な選択肢かもしれない。でも麻理子だって人生をかけるんだもん。長い人生を後悔なく生きるために、ほんの少しくらいは我慢してあげてほしい。それくらいの権利は麻理子にだってあるでしょう?


 私はラチイさんを見る。

 ラチイさんは眉間にきゅっと皺を寄せていた。


 どう? 駄目?

 ラチイさんの琥珀色の瞳を覗き込む。

 頼りなさげな子供の表情がラチイさんの瞳いっぱいに広がると、シャットアウトするように瞼を伏せられた。


 すごく関係ないことなんだけど、ラチイさんの睫毛は髪と同じで銀色だった。しかもマスカラ要らず。今改めて見るとすごい美人さんだ。美人なイケメン。そんな人に抱っこされている。異世界人の距離感怖い!


「……麻理子さんの話は置いておいて。まずは獅子族の番いの話です。転移はなし、番いを探すための魔宝石なら許可をします」


 ラチイさんの琥珀色の瞳とこんにちはした。

 その後に告げられた言葉に、私はもう一声とおねだりする。


「転移はだめ?」

「駄目です」


 駄目かぁ。

 それでも魔宝石は作っていいって許可を貰えた。

 それならやりようは、いくらだってあるよ!


 麻理子のためにも同じ魔宝石を作ってあげられたらって思っていたけど、それはまた別でラチイさんを説得すればいいや。


 ラチイさんは仕方ないですね、と言いたげに眉をちょっとだけ下げると、ようやく口元も緩めて笑った。さっきまで極寒だったブリザードみたいな雰囲気がすっかりとなくなる。そのまま私の背後へと視線をすべらせて。


「レオニダス殿、でしたか」

「ああ」

「言ったように転移は危険を伴います。空間魔術に長けた魔術師ならともかく、獣人ではもし万が一があった時に対応ができません。なので番いを探知するための魔宝石で妥協をしてください」


 ラチイさんの言葉に、レオニダスのガーネットの瞳がみるみるうちに大きくなる。

 ざっと膝を着くと、ぐっと頭を下げた。


「それだけでも……それでも十分だ。番いを探すことができるのなら、探しに行く足はいくらでもある。だが……」


 絞り出すような声が、最後のほう少しだけ懐疑的な色を含んだ。

 なんだろう。何か気になることがかるのかな。

 そう思ってレオニダスを見ていると、おもむろに頭を上げて、私のほうをじっと見た。


「本当にそんな魔宝石ができるのか? 俺たちは魔法が使えねぇ。そんな俺たちが魔宝石を持ったところで」

「できる! そういう風に作るから!」


 レオニダスが言いたいことに気がついて、私は叫んだ。


 さっきも言ったよ。できるって。できないかもしれないけれど、可能性はゼロじゃないって。ゼロじゃないなら可能性はあるんだよ。


 しかもね、知ってる?

 できるまで作れば、可能性は100%!

 私の魔宝石は誰よりも自由で、誰よりも願いが籠もっていて、誰よりも素敵に輝くの!


 だから、レオニダス。


「私に任せて!」


 胸を張る。

 魔宝石造りに関して、私は妥協しない。

 誰かの願いを叶えるためなら、当然!


 そんな私を見て、レオニダスが頷く。

 良かった、と小さな声が聞こえて。

 また、頭を下げる。


「頼む。姉貴を助けてやってくれ」

「もちろん。でも私ができるのは旦那さんを探すだけだから。あとは頑張ってね」

「分かっている」

「それと、脅したりするのも駄目だよ」

「……善処する」


 あ、ちょっと今、目を逸らしたね?

 私はちゃんと覚えてるんだからね。ここまで来るのに何度もちょっと待ってお家に帰らせてって言ったのに、聞いてくれなかったこと!


 まぁ、それでも。ラウニーさんの命には代えられないので。

 私はラチイさんを見上げた。


「行方不明の人が魔宝石職人なんだって。このまま工房を借りようと思うんだけど、大丈夫かな?」


 一瞬、ラチイさんの表情がこわばった気がした。

 なんだろう? 私、変なこと言ったかな。

 不安になってラチイさんに問いかけようとすれば、それより早く、ラチイさんの口が動く。


「道具はどうしますか。UVランプなどはないと思いますよ」

「あー、そっか。どうしよう」


 ラチイさんの工房は日本化が進んでたんだった。そういえばこちらの世界じゃ、UVランプなんて便利なものはなかったんだっけ。当然、UVランプを使うための設備もないわけで。


 どうしようかなぁ、と頭を揺らす。

 ここで帰るとレオニダスもうるさそうだしなぁ。

 それに何より。


「ラチイさん、魔力は大丈夫?」

「予備電源を使ってます」


 予備電源って。

 ラチイさんがケープの内側を漁る。ころんと出てきたのは薄紫の魔石。大丈夫だよ、ちょっとドキドキするしよだれも垂れそうだけど、これくらいなら全然我慢できるよ。きらきら、つやつや。とっても素敵。


「こちらはもう魔力がほとんど残っていませんが、もう一つ同じように空間魔力を保存した魔宝石を持って来ています。魔力が余っている時にコツコツ作っていたものが役に立ちましたね」


 以前、素材探しに行くためにスクロールを使って大人数で転移をしたことがあった。同じようなことがまたあるかもしれないと思ったラチイさんは、何かあった時のためにと空間魔力を人工魔石化する内職をしていたそう。で、今がその何かあった時だと。大変お手数おかけします。


 レオニダスに事情を話せば、かなり渋られた。でも必要な材料がなければどちみち二度手間だし、ここでは魔宝石を作るには時間がかかる。なんとか話し合って、明日持ってくることを約束した。


「それじゃ、ラチイさん! 工房に連れて行ってください」

「約束はちゃんと守ってくださいね」

「もちろんですとも!」


 さぁて、腕がなりますね!


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