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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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ポイ捨て禁止

 大きな身体のレオニダスを前にすると、ほんと大人と子供。月とスッポン。雲泥の差。ゲルグさんも大きいと思ったけど、レオニダスも大きいサイズ感してますよね!


 私はジローに首根っこを掴まれたまま叫ぶ。


「ジローが騒ぐから!」

「てめーの声がうるせぇんだよ!」

「二人とも、どうどう」


 麻理子がジローに片腕抱っこされたまま、私たちをなだめる。喧嘩両成敗ですか? むむむ!


「お前は赤狼のだな」

「そうだけど」


 ジローとバチバチ視線で火花を散らしていると、レオニダスがジローの頭の上から声をかけてくる。でっかいってば。


 ジローは堂々とした出で立ちでレオニダスを見上げる。下から見上げるレオニダスはちょっと大きすぎて怖いです。身長いくつなの。三メートルあります? 捕食されそうでぷるっと身の毛が逆だった気がした。


 レオニダスは私たちを見下ろしたまま、じっと視線を外さない。


「敗者を笑いに来たのか?」

「ちげぇよ。ひねくれてんな。俺はこいつの付き添いだ」

「付き添い?」


 ジローがぐいっと私の首根っこを掴んだまま前に突き出した。あの、首が締まってくるしいんですけど!?


 レオニダスが腰をかがめる。私の前に顔を突き出してきた。ポニーテールにされてる金色の髪は猫毛なのかちょっと逆立ってる。赤い瞳はルビー……とは違うな。ルビーよりも深い赤色をしてる、ガーネットっぽい色。


 レオニダスは私を見つめた。

 めっちゃ捕食されそうな気持ち、本日二回目。


「あ、あの、迷子を知りませんかっ! 私たち、妖精を探しているんですっ!」


 ええい、こうなったら当たって砕けろ作戦!

 私は泣きそうな気持ちをぐっと堪えて、金獅子獣人さんに聞いてみた。いやだって肉食獣ってことだけじゃなくても、なんか顔が怖いもん!


「ふむ」

「レオニダス様、騙されてはなりません! きっと狼族は秘術を独占するために……!」

「秘術は関係ねぇよ」


 私たちの騒ぎに気がついたのか、レオニダスの後ろからさっき部屋の出入口で話していた獣人がやってくる。追いかけてきた獣人の台詞を聞いたジローが、悪態をつきそうな勢いで言葉を吐き捨てた。


 私とレオニダスを挟んで、ジローともう一人の獣人が火花を散らしている気配。肩身が狭くてそよっと視線があっちこっちに行ってしまう。


 そんな中、口を開いたのはレオニダスだ。


「一つ聞く。羚羊族は我ら獅子族の支配下部族だ。なぜ、狼族と一緒にいる」


 あ、食われた。

 殺気、とでも言うのかな。ぞわっと身体中で生命の危機を感じて、思わず頭を手で防御してしまう。殴られそうだから頭を守るような、そんな気持ち。


 しかも敵は前からだけではなく、後ろにもいて。


「笠江、お〜ま〜え〜!」

「不可抗力! 不可抗力! 私が獣人のことなんて知ってるわけないじゃん!」


 適当にラチイさんからもらった素材使っただけだもんー! 獣人の勢力図を知ってたら、ジローの毛を素材にしたもん!


「こいつははぐれだ。あんたんとこの獣人じゃねぇ」

「はぐれかどうかは私が決める。――保護しろ」


 ジローが舌打ちをして、私を宙に放り投げた。


「わぁっ!?」

「智華ちゃっ」

「舌噛むなよ!」


 ぐえっ、と私のお腹がジローの肩にジャストフィット。ジローは左腕に麻理子、右肩に私を担いで脱兎のごとく走り出した。


「逃がすな!」


 レオニダスが後方に声をかけながら、自分でも走って追いかけてくる。早い早い早い、追いつかれるって!


「追いかけてくるぅっ!」

「このカラス女! もう少し考えて行動しやがれ!」

「あー! それ言うならジロー! あんたが麻理子に心配かけなければよかったんでしょうが!」

「二人とも、喧嘩しないで〜」


 きゃんきゃん言い合う私とジロー。いつものごとく…麻理子が仲裁してくれるけど、言い合う余力があるならジローくんは一生懸命走ってくださいー!


 ジローが後ろをちらっと確認。レオニダス、一歩が大きいから今にもジローに追いつきそう。


 私が内心ヒヤヒヤとしていれば。


「くっそ追いつかれる……! 仕方ねぇ」

「は?」

「ヤバそうならあとで迎えに行ってやる!」

「はぁああああああ!?」


 ジローがくるっと反転した。

 肩に担いでいた私を、ぽいっと放り投げる。

 はぁああああああ!?


 ジローに見捨てられた私は見事な放物線を描いた。

 あ、これ顔面から床に落ちる。

 死を悟って、きゅっと目を力いっぱい瞑った。

 だけど想定していた衝撃はこず。

 それよりも、ぽすんっと軽い感じに落ちた。どこも痛くなくてびっくりして顔を上げる。


「おっと」

「ひぃん」


 眼の前にはガーネットのように深い赤色。

 からの、強面レオニダス。

 強面さんは私の顔を覗き込むと、怪我はないかと私を両手で抱き上げた。


 わーい、高い高い〜……じゃなくて。

 無事だったのやら、痛くなかったことやら、ジローに見捨てられたことやらが、ぐるっと胸に渦巻いた。


 レオニダスが眉間にしわを寄せながら私の顔を覗いてくる。あっあっ、駄目です、お客様駄目です、現在只今大雨洪水警報発令中です。


「大丈夫か?」

「あ゛い゛つ゛な゛く゛る゛」

「よしよし、泣くな」


 紐なしバンジーや安全装置のないジェットコースターを体験した気分の私は、ぴえっと泣いた。実際はぴえって可愛いものじゃないけど。びぇえええって感じだったけど。それくらい怖かったんだよ!?


 そんな私を、レオニダスは抱っこしたままあやしてくれた。めっちゃいい人では? ポイ捨てしたジローより良い人では? 私今日からここの子になる。


「連れて帰る。行くぞ」

「あの犬はいいのですか」

「捨て置け。保護できたら問題ない」


 ぐすぐす泣いてる私の頭上で、レオニダスは追いかけてきた獣人さんと何やら話し合う。私はひっくひっくと呼吸を整えていれば、いつの間にかさっきレオニダスが入っていこうとしていた部屋にいて。


 ちょこんと椅子の上に座らされる。

 椅子の上に座った私に、レオニダスが視線を合わせてきた。


「さて、嬢ちゃん」

「ぴゃ」

「知ってること、洗いざらい吐いて貰おうか」


 前言撤回! やっぱり顔が怖いよぉ! 悪人面してるよぉっ!






 獅子族の宿は狼族の宿とは離れた場所にあるらしい。

 犬猿の仲のせいで、余計な争いが起きないようにの処置なのだとか。


 話し合いと言う名の質問責めの末、私はレオニダスが保護したという妖精に会わせてもらえることになった。


 その妖精はもちろん。


「ムーン!」

『チカ』

「はぐれちゃだめでしょう! 心配したんだからぁ!」

『ごめんねぇ』


 やっぱりムーンだったよぉっ!

 私はようやく見つけたムーンにぎゅうっと抱きつく。


 これでなんとかミッション達成!

 ようやくお家に帰れる、ラチイさんがまだ帰ってきていませんように、といろいろ考えながらムーンに月ノ路をお願いしようと思ったんだけど……そうは問屋が卸してくれませんでした。


「で、嬢ちゃん。なんで犬っころといた」

「犬っころ」

「親はどうした」

「えぇと……」


 ムーンと並んで沢山のクッションが敷き詰められた場所にちょこんとお座りさせられた。同じようにクッションの山の一画に座ったレオニダスに問い詰められる。


 一個終わればまた次の問題が。

 どうごまかそう〜!


 レオニダスは支配下部族のはずの私が、長年のライバルである狼族と一緒にいたのが気に食わない様子。とはいえ、こうなってしまったのは完全に私の不可抗力なんですが。


 とりあえず、正直に話せることからちょっとずつ様子を見て話してみよう。


 まずは。


「えっと、私、この国の人じゃないです!」

「どういうことだ?」

「別の国から来ました! で、親友があの顔だけイケメンのジローとお付き合いしていて。今回、ジローがなんか黙っていなくなっちゃったのを心配してたから、連れてきたの」


 別の国どころか異世界から来たんですけど。

 でもそれは黙っておく。あんまり話しちゃ駄目ですよ、ってラチイさんに口を酸っぱくして言われてるからね。


 レオニダスはふむ、と顎に手をやりながら考える。


「ふむ……兎族は狼族の支配下部族だからおかしくはないが……別の国っていうと、ガラノヴァ帝国か?」


 うぉっと、最近聞いたばかりの名前が出てきた。


「ガラノヴァってどこだっけ……西のほうの国だっけ……?」

「違うのか? うちよりさらに西にある国だ」


 頭の中の地図をなんとなく広げてみる。

 獣人族の国は確か、ラゼテジュから四つくらい国を越えた先にあるって聞いた。方角は確か西側。その獣人族の国よりもさらに西側にある国だよね? 大陸の端っこの。


 ラゼテジュとは全然方角が違うね!


「私が来たのはラゼテジュってところ」

「ラゼテジュ? あんなとっから子供だけで来たのか?」


 良かった、ラゼテジュの名前は知ってたみたい!

 ちょっとほっとして、私はムーンの横顔をそろっと見た。ムーンはクッションの柄をなぞって遊んでる。ちょっとした迷路みたいで楽しそうだよね、それ。


 私はそんなムーンを見ながら、正直に話す。


「ムーンのおかげ。ムーンに連れてきてもらったの」

『ムーン。すごい。よ』


 褒められたのが分かったのか、ムーンが顔を上げてはんなりと笑った。ムーンの笑顔、プライスレス。嫌なことがあってもこの笑顔だけで吹き飛んじゃいそうだよね!


 ムーンと顔を見合わせてにこにこと笑い合っていると、何かを考えていたらしいレオニダスが、じっと私を見つめてきた。


「……嬢ちゃん、そのムーンってのは空間転移ができる妖精か?」


 どうしよう。

 ムーンの力のことは言ってもいいのかな?


 でも転移ってすごく貴重だってラチイさんが言っていたような。いやでも待って、なんでこの人は転移だって気がついたの? ムーンのおかげってだけで、転移だとは私、言ってないよね!?


「えーと」

「小娘、言え」

「ぴえっ!」

「ジャック、脅すな」


 このレオニダスじゃないほうの金獅子獣人、ジャックって言うんだ。いやもう、面構えがヤンキーで怖いんですけど!


 ぷるぷるとムーンに抱きついていれば、ムーンはにこにこにと私に抱きつき返す。抱っこ抱っこと楽しそう。さすが私の癒やし。ヒーリング効果が強い。ちょっと怖くなくなった。


 じっとレオニダスを伺っていると、彼は初めて表情を崩した。


「脅して悪い。だが頼みがあるんだ。もし転移の力があるなら……その力で探して欲しいやつがいるんだ」


 途方に暮れたように肩を落とすレオニダス。

 私は首を傾げた。


 どういうこと?


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