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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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不細工って言わないで

 全然、ジローが迎えに来てくれない。

 閑散とした観客席で麻理子と二人、どうしようかと相談する。このままだと戸締まりをしに来た係の人に追い出されてしまいそうだ。


 せめて観客席から通路のほうに移動してみようかと話し合い、ひょっこりと椅子から降りる。

 さぁ、いざ通路へー!


「麻理子! 待たせた!」

「へぶぁ」


 通路に飛び出した瞬間、誰かに蹴飛ばされる勢いでぶつかった。背中から倒れそうになったのを麻理子が支えてくれる。


 一体全体なんですか! よそ見運転禁止ですよ!

 ぷんすこと私を蹴り飛ばしてくれた人を見上げたら、そこには待ちかねていた人がいた。


「ジロー!」

「麻理子!」


 ジローが私を横にスライドさせて、麻理子を抱き上げた。そのままほっぺにキス。麻理子が真っ赤になる。私、すっごい疎外感なんですけど!


「ジロー、遅い!」

「悪い悪い。怪我の手当をしろって捕まってた」


 遅れたことに対してちょっと申し訳なく思っていたのか、遅刻の理由はちゃんと教えてもらえた。よく見れば包帯みたいなものがシャツの襟元や袖口から見え隠れしている。ほっぺの切り傷だって、湿布みたいなものが貼られていた。

 怪我の具合を想像すると、背中がぞわってする。痛そう。コメントはこれに尽きるね。


 ジローは麻理子を抱っこしたまま私を見下ろした。こっちに来い、と親指でサインする。


「とりあえず急いでここを出るぞ。兄者に見つかるとめんどくさ……」

「何がめんどくさいって?」


 踵を返したジローの前に黒い壁が立ちはだかった。観客席から全然出られない。私はジローの足の後ろからひょっこりと顔をのぞかせる。ちょっと不慣れな角がジローのズボンを引っ掻いた。デコピンされた。痛いんですけど!?


「兄者……」

「迷子の保護と言ってなかったか?」


 ジローが兄者と呼ぶ人。私は見上げて納得した。さっきスタジアムの大歓声を独り占めする勢いで、打ち上げさせた御本人、黒狼族筆頭ゲルグさんだ。


 ゲルグさんはジローの腕に抱かれている麻理子と、足元にいる私を交互に見やる。顎に手をやり、ふむと考えている様子。


「垂兎族と……お前はなんだ? 不細工だな」

「不細工!? ガゼルちゃんですけど!?」

「ガゼル?」

「羚羊族じゃないすか?」

「あぁ、あいつらか」


 ちょっと! ジローとゲルグさんで納得しないで! 不細工!? 私って異世界基準で不細工なんですか!? ねぇちょっと! 女子高生としてだいぶそこ気になるんですがー!


 ぐいぐいとジローの服の裾を引っ張って抗議の声を上げるけど、ガン無視される。そんな無視する? こんな主張激しいのにガン無視とかひどくない!?


 きぃきぃ言っている間にも、頭上でジローとゲルグさんの会話は進んでいく。


「で、その子供たちの親は」

「えぇと……」


 ジローが言い淀む。麻理子が少し不安そうにジローを見上げた。


「ジロー……」

「麻理子可愛い!」


 ちょっとジローくん、尻尾。尻尾を振り回さないでください。千切れんばかりに振らないでください。赤い尻尾が私の顔面に当たってます。もっふぁもっふぁ当たってるんだってば!


 襲い来るジローの尻尾をはたき落としていると、ゲルグさんがハッと息を呑む気配がした。


「ジローお前、もしかしてその子は番いなのか……?」


 驚いたような声がして、私は頭上を見上げた。ジローは麻理子に頬を寄せたまま、こっくりと頷いている。麻理子は一生懸命瞬きして二人の会話の内容を聞いているみたい。


 ジローは申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまん、兄者……内緒にしてくれねぇか? 親父殿にもまだ会わせてないんだ」

「それはいいが……お前も苦労をするな。他種族だと弊害も多いぞ」

「承知の上だ」


 深刻そうな声音。種族の壁、みたいなものがやっぱりあるのかなぁ。獣人族のふりしてるけど、実際私たちはただの人間なんだけど……それを加味しても、難しい恋の路、なのかな。


 麻理子頑張れ、となんとなく応援したい気分でいると。


「それならいいが……それでそっちの不細工は」

「付き添いです!」


 そう何度も不細工言わないでくれるかな!?

 私はゲルグさんにべぇっと舌をだして威嚇した。






 ゲルグさんに見逃してもらい、ジローが借りている宿の部屋に連れてきてもらった。


 ここは選手村みたいなところだそう。ジローの借りた部屋の両隣は今日一緒に戦っていた緑色の狼さんと銀色の狼さんの部屋らしい。騒ぐなよ、と言われてしまった。もちろんですとも。


 宿の部屋に集まった私たち三人は現在、ベッドの上に座って話し合いの体勢になったところです。

 まぁ、真っ先に言われたのは、麻理子にジローの隠し事を全部ぺらっと話してしまったことなんですけど。


 ぶすっとした表情でジローが私を睨みつける。尻尾がびたんびたんとシーツを叩いた。


「余計なことすんなっつっただろーが、笠江」

「親友が落ちこんでたから力になって上げたかっただけ。悪い?」

「黙ってろっつったよな」

「あれからもう半年ですけど? 一ヶ月も学校こなくて、期末考査もすっぽかして、留年カウントダウンが始まったジローくんの意見は聞きませんー」

「追試受ければ問題ねーだろ。内申は足りてるはずだ」

「きー! 嫌味! これだから成績優秀者は!」


 私とジローで言葉の応酬が続く。ああ言えばこう言うの繰り返し。元々、私とジローはお互いがお互いを気に食わないので、どんどんとエスカレートしていく。


 むきぃっとお互い歯を剥き出しにして言い争おうとしていたら、つんつんと麻理子がジローの服の袖を引っ張った。


「ジロー……」


 麻理子の上目遣いに、ジローがぴたっと止まる。なんだか葛藤するように呻いた後、断腸の思いと言わんばかりに麻理子から視線を外した。


「ごめん、麻理子。色々と黙ってて」

「ううん。いや」


 ジローがびっくりして麻理子を二度見した。

 そりゃ驚くよね、いつもならそっかぁって流されがちな麻理子がはっきりと否定したんだから。


 私は口論がヒートアップしていつの間にか立ち上がっていたので、クールダウンのためにちょこんとその場に腰をおろした。ジローが麻理子に何を言われるのかを見物するため、じっと観客に徹することにする。


 麻理子は小さな手を伸ばした。自分を膝に乗せているジローのほうを向いて、その頬にそっと触れる。


「今はもう、なんとなく理解したよ。ジローは別の世界の人だったってこと」


 ジローはまっすぐに麻理子を見ていた。麻理子を見て、観念したようにゆっくりと頷いた。


「……あぁ。だけど騙すつもりはなかったんだ。俺の運命が麻理子なのは間違いねぇ。黙ってたこと、許してくれ」


 ジローが頬に添えられた麻理子の手をきゅっと握る。麻理子は困ったように笑って。


「謝らないで。私こそ、ジローの言葉を待てなくてごめんなさい」

「麻理子……!」


 あ、駄目です。目の毒です。

 感極まったらしいジローが麻理子にキスの雨を降らせはじめた。降水確率百パーセント。そろそろ万年発情期野郎って呼ぶべきか本当に悩んじゃう。


 やってらんないよって思って、私はベッドからよっこいしょと降りた。お邪魔虫は退散するべきだと思うんだ。


「あとはお二人でごゆっくり〜」

「あ?」


 ジローがやっと正気に戻ったのか、私のほうに顔を向ける。麻理子はジローの猛攻にちょっとぐったりしてた。キス魔は怖いなってちょっと引く。引きながら私はジローに言う。


「私はラチイさんところに戻るよ。ここにいても邪魔者だろうし。その代わり明日には麻理子返してね。一緒に帰るから」

「はいはい。邪魔者は帰れ」


 ジローにしっしっと追い払われる。ひどい、誰があんたの仲をとりもったと思ってるの。


 別にジローのためではないんだけどさ、そんなあからさまな態度をとられるとちょっとむっとしちゃうよね。破局の呪いでもかけてやろうかと一瞬思ってしまったくらいには。麻理子が悲しむからやらないけど。


「智華ちゃん、ありがとう」

「麻理子のためならなんのその!」


 対する麻理子はほんとうに可愛い。嬉しそうにほんのり笑ってるのが可愛い。私の親友はすごく可愛いんだよってみんなに自慢して歩きたいくらい。


 さて、と私は天井を見上げる。

 ムーンは私の契約妖精だ。

 呼べば出てきてくれるはずなんだけど。


「ムーン、帰るよー。ムーン?」


 ……あれ?

 呼んでもムーンが戻ってこない。私は焦る。

 あれ!? 


「ムーン? はぐれちゃった!? まさか寝た!? そんなことないよね!? えっ!?」


 呼んでも出てこないムーンに、さすがの私も慌ててしまう。どどど、どうしよう!?


「ムーンがいないと帰れない……! どうしよう……っ」

「落ち着けって。契約者はお前だろ。召喚しろよ」

「そんなのできるわけないじゃん!?」

「威張んな」


 私、普通の地球人ですよ! なんの遺伝子バグか、魔力に反応する心臓は持ってますけど。魔法なんてものは使えません! 召喚ってなに!?


 私はハッと気がついた。もしかしたらコロシアムではぐれて迷子になったのかも。迷子になったから声が届かなくなっちゃったとか……!?


 私は部屋の扉に一目散に飛びついた。


「私、ムーンを探してくる!」

「私も手伝うよっ」


 麻理子がジローの膝から飛び降りて、私の隣に来てくれた。嬉しい。やっぱり持つべきものは友だよね!


 そんな私たちの後ろで、ジローが赤毛の頭をぐしゃりとかき混ぜた。


「〜〜〜ったく、ちくしょう!」


 私たちと一緒に着いてきてくれるみたいで、迷子になるなよ、とジローは声をかけてくれた。


 一応、ありがとうは言っておくよ!


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