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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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獣人バトルロイヤル【後編】

 スタジアムに渦巻く熱狂と、眼下で広がる暴力じみた戦いに身が竦む。喧嘩なんて可愛いものじゃない。現代日本の不良でもこんな派手な喧嘩なんてしないよ。


 自分の知り合いが戦っているってだけでこんなにも怖くなるなんて思わなかった。麻理子と二人でぷるぷるしながら試合を見続ける。


 でも、すごく怖い試合だけど、ふと気がつくことがあった。


「武器は、使ってない……?」


 なんだかたまに魔法みたいな、必殺技みたいな技名を司会者さんが解説してくれるけど、武器の使用は一切なかった。皆、素手。ステゴロ試合になんだかほっとする。


 素手でも迫力満点なのに、異世界で魔法とか剣とかガンガン使う試合なんてされたらその迫力で悪夢を見そう。私だけかな。漫画とかゲームとかで、こういうコロシアムみたいなのやると武器みたいなのがあるイメージって。


 すっごい派手だけど、武器がないってことにちょっと安心感がある。これはスポーツ。かなり派手だけどスポーツ。フィットボクシング。……いや、だいぶ限界ありますねかなり派手だよ怖いよ!


 人間は殴ってもそんな五メートルも十メートルもふっ飛ばない! 追いかけっこするだけでこんなにもうもうと土埃は舞わない! なんだったら噛みついて血が出るのはほんとよくないスプラッタ!


「ち、智華ちゃん……っ」

「早く終われ早く終われ早く終われ」


 ストップ暴力! 平和的に話し合って解決はできなかったのかな獣人さんたち!


 どんどんエスカレートしていくスタジアムをぷるぷるしながら観戦する。あんまりにもな暴力シーンは思わず目を瞑っちゃう。異世界、とっても野性的ですね。


 早く終わってと念じていると、司会者が声を張る。


『ここで黒狼ゲルグ、ついに動く! 一足飛びで金獅子レオニダスに肉薄したー! 右ストレート! レオニダス、受け止める!』


 パァッンッ! と破裂音みたいなのが響き渡る。びっくりした。何の音? まさか拳の音とでも言うのですか。拳ですね。解説さんが叫んでますね。どんな訓練したらそんな風船が破裂したみたいな音がするの!?


 あわあわとしているうちに、黒色の影と金色の影の動きが激しさを増していく。その脇でも、土埃が激しく舞うほどの攻防が繰り広げられていて。


 司会者さんの解説が、あっちにこっちに飛び回る。それに合わせて視線を動かそうとすれば、見るものが多くて忙しない。金色の獅子族お姉さんが、銀色の牙狼族お姉さんをぶん殴った。銀色のお姉さんは立ち上がらない。


 喝采があがる。救護班らしき鳥の獣人さんたちが、二人がかりで銀色のお姉さんの救護にあたった。


 一人片付いたと言わんばかりの金色のお姉さんが、緑色の風狼族お兄さんにターゲットを決める。肉薄する。炎獅子お姉さんが意気揚々と炎を繰り出した。


 でもすごいの、風狼族のお兄さん、炎を風で受け流して金獅子族のお姉さんにその矛先を変えてしまった。金獅子族のお姉さんがじゅっと焼ける。私は思わず目をそらした。


 焼けたのは服! そんな装備じゃ防御力皆無ですよね! 猥褻物陳列罪により戦闘不能、場外行きって、そんなのありですか!? ありですね! ちゃんとお洋服着てください!


 そんな感じで段々と混戦していく。ジローも踏ん張ってる。狼陣営残り三人、獅子陣営残り三人。気がついたら、マウントを取られていた黒狼族の人がマウントを取り返して雪豹族の人をノックアウトしていた。ジローを狙おうとした黒豹族の人に標的を変えたんだけど、ジローへ向けられた攻撃を庇って撃沈。だからいつの間にか三対三の戦いになっていた。


 ゲルグさんが遠吠えを上げると、狼軍も遠吠えをし、彼らを応援する人たちも遠吠えをする。

 ゲルグさんと戦うレオニダスという人が咆哮すると、獅子軍も咆哮し、彼らを応援する人たちも咆哮する。


 鼓膜が、やぶれそう。

 麻理子と耳をぎゅっと抑えて大きな声をやり過ごしていると、ゲルグさんとレオニダスさんがまた衝突した。


 衝突の余波で、衝撃波みたいなのがびりびりと伝わってくる。近くにいたジローと黒豹族のお姉さんがふっとばされた。体重が軽かったのか、二人共観客席に突っ込んでる。場外に出ちゃったので戦闘不能。殴り合いの衝撃波で人間って飛ぶんだね。ついでに私の常識も吹っ飛んだ。


 お互いに二対二。

 さぁどうなると思っていた矢先、激しい攻防が止んだ。


『両者、距離を取る! おおっとここで、ゲルグとレオニダスの覇気が昂ぶっていくー! 風牙族、炎獅子族、お互いに身構えた! これは来るぞ! 両軍ともに奥の手か!?』


 司会者さんと観客席のボルテージが絶好調になる。

 私と麻理子はお互いにひしっと抱きしめ合う。さっきまでもやばかったけど、さらにやばいのやってくるの!?


 司会者さんの饒舌が衰えることを知らない。全力全快で解説してくれるけど、聞き取りにくいくらい観客席の歓声が大きくなっていく。


 ゲルグさんとレオニダスの姿が蜃気楼のように揺らめいた。肌がざわりと粟立つ。私に抱きついている麻理子の手がぎゅっと強くなる。


 炎獅子のお姉さんがレオニダスの頭上越しに、ゲルグさんへと火球を投げつける。火球の裏からはレオニダスが肉薄した。


 二段構えの攻撃にゲルグさんは動こうとしない。

 緑色の髪のお兄さんが向かい風を発生させて、火球を霧散させた。火球の後ろから迫ったレオニダスへ、追い風を味方したゲルグさんが牙を向く。風圧に押し負けたレオニダスを全身で押し倒し、マウントを取った。


 スタジアムには、レオニダスの喉元に食らいつこうとする黒い狼が一匹。


 一瞬だった。

 一拍、時が止まる。


 その直後、ひと際大きな歓声がスタジアム中へと響き渡った。


『勝者、黒狼族筆頭狼軍――! よって次代の我らがリーダーは、黒狼族筆頭ゲルグに決まりだー!』


 狼たちの遠吠えが歓声の中に交じる。私たちの周りの席の人たちはみんな大盛り上がり。大興奮して服を脱ぎ捨てて犬とか狼とか狼人間みたいな格好になる人が次々と出没する。獣人って裸族なんですか!?


 私と麻理子がぽかんとしているうちにも、司会者は大歓声の中、着々と閉会へと向けて言葉を重ねていく。


 首長就任の儀式は一週間後だとか、それまではお祭りだとか、勝っても負けてもどの種族も恨みっこなしだとか。色々と言っていたけど、とどのつまり、首長お披露目まではみんなゆっくりこのスタジアム周辺の施設で仲良く遊んで待っていてね、らしい。なんだろう、大雑把というべきなの? おおらかというべきなの? 私は獣人が分からない。


 周りの観客が席を立つ中、私と麻理子は呆然としながらお互いの顔を見つめあった。


「ち、智華ちゃん」

「なに、麻理子」

「異世界って怖いね……」

「うん……」


 私がラチイさんといるときはもうちょっと平和なんだけどね。なんかもう、このスタジアムの熱気は怖かったよね。オリンピックとかワールドカップとかって、こんな感じなのかな。今ならテレビの向こうの熱気をリアルに感じられそう。想像の五倍は怖いよ。


「ジロー、すごかったね」

「うん……怪我、してないかな」


 黒豹のお姉さんにつけまわされて、ジローもだいぶボロボロだった。言葉だけだと現代日本人は羨ましくなりそうな字面してるんだけど、実際に見ちゃうとめっちゃ怖い鬼ごっこだったからね……ちょっとくらい、ジローに優しくしてやろうと思うくらいには。


 私たちは人がはけていく観客席の中、どうしようもなくて身を寄せ合う。ここに連れてきてくれた本人が来るまでは、ここから離れられないからね。迷子一直線ではぐれる未来しかないもん!


 スタジアムの熱気にやられてドキドキする心臓をなだめながら、私たちはジローが迎えに来るのをじっと待っていた。


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