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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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獣人バトルロイヤル【前編】

 これから何が起きるんだろう。

 麻理子と二人で居た堪れない気持ちで観客席からスタジアムを一望していると、スタジアムの中央に誰かが一人歩み出てきた。


 瞬間、スタジアムに鼓膜を突き抜けていく爆発的な歓声が響き合う。


 耳を抑えてびっくりしていると、スタジアムの中央に立った人が手を大きく振った。その手に従ったのか、歓声がだんだんと小さくなっていく。


『大変お待たせしましたー! 手に汗握る勝ち抜き戦もいよいよ最後となりました! 東、空の覇者を制した黒狼族筆頭ゲルグが率いる、狼軍!』


 わあああ! と爆音の歓声がまた響き渡る。

 司会進行役らしい人が示したほうを見れば、スタジアムの右手側にある入り口から入ってくる五人の人影。


 観客席がけっこう前のほうのおかげか、スタジアムに入場した選手たちの顔がよく見えた。


 一人目はさっき会ったばかりの黒い人。黒狼族族長のゲルグさん。その後ろにもう一人、黒髪の男の人。その後ろにあらまびっくり緑髪の男の人。からの銀髪の女の人。そして最後によく見知った赤髪の男子。


「ジロー……?」


 麻理子の声が不安そうに揺れる。

 私もびっくり。なんかすごい貫禄のある人たちの最後尾にジローがいるよ!? なんで!?


 びっくりしてじっとジローを見つめていれば、ジローがこっちを見て手を振ってきた。きゃあああと黄色い声が響き渡る。でもね、私知ってるんですよ、あれはファンサじゃないって。

 あれは大好きな恋人に手を振ってるだけなんです。ファンサじゃないんですよ。麻理子が小さく手を振り返したのが見えたのか、満足そう。視力良すぎじゃない?


 私が口の中であるはずもないお砂糖をじゃりじゃりさせている気持ちになっていると、司会者さんが今度は左手側へと腕を差し伸べた。


『相対するは西、我らが百獣の王、金獅子族筆頭レオニダス率いる、獅子軍!』


 こっちもすっごい盛り上がりよう! そろそろ鼓膜が弾け飛びそう!


 司会者さんが示した左手側の入り口から入場してくる五つの人影。

 一人目はすごい威風堂々とした巨躯を持つ金髪の男の人。あの人がリーダーなのかな? その後ろから、同じ金髪の女性、黒髪の女性、赤髪の女性、銀色の女性が続いてくる。


 すっごい女性率なんですけど、どの人もアスリートですかってくらいに覇気に満ちてる。すごい、日本の警察官でもちょっと戸惑っちゃう感じの迫力があるよ。


 これはこれは男性方は盛り上がりますよね。お姉さんたち、服装がだいぶ際どいもんね。なんですか水着ですか、踊り子さんたちですか、ビキニアーマーですか? そんな露出で今から何をするのか、別の意味でドキドキだ。ちなみに紹介のありましたリーダーのレオニダスさんは上半身裸マントです。胸毛すんごいの。ズボンはちゃんと履いてます。


 それに対してジローたちの狼軍は、着物ちっくな感じの羽織りを皆どこかに着用してる。ちゃんと羽織っている人もいれば、肩にかけてるだけとかもいるし、腰に巻いている人もいる。ジローはちゃんと着てるタイプ。


 左右とも、五人の選手が入場して並ぶ。選手宣誓でもするのかなって思っていたら、司会者が手を振り上げた瞬間、リーダーを中心に双方とも陣形を組む。


 右手、狼軍はリーダーを先頭にくの字型に。

 左手、獅子軍は五角形型でリーダーを後方に。


 すすす、と司会者が背後に下がる。

 声を張り上げた。


『第二十一回獣人連合国首長決定戦、最終試合、試合、開ッ始ッ!』


 ぐわぁああん! と大きな銅鑼がどこからか響き渡り、スタジアムは一瞬で土埃が噴き上がった。


「わぁっ!?」

「きゃあっ!」


『おぉーっと、最初に仕掛けたのは狼族! 風狼族がお得意の獣技・疾走で加速! 味方も加速! 獅子軍目がけて突っ込んだー!』


 すっごいノリノリな司会解説役ありがとうございますー!


 何が起きたのかさっぱり分からずにいれば、司会の人が解説してくれた。ありがたいけどよく分からない。分からないことだらけ。じゅうぎって何? 誰か説明プリーズ!


 こういう時こそ一家に一人のラチイさんだよ。ラチイさんの家からこっそりと出てきてしまった身分でヘルプをお願いするのはどうかとも思いますが。誰か切実にこの状況を説明して欲しい……!


 砂埃が舞うスタジアムで、ものすごい勢いで肉弾戦が始まった。肉弾戦。アスリートもびっくりですよ。プロボクサーの人たちも真っ青な勢いのパンチやキックが繰り出されている。パンチで人って三メートルも飛ぶんですか?


 ひやひやはらはらしていたら、つんつんと袖を引っ張られた。


「わぁっ!? ……って、麻理子だった、びっくりした」

「ごめん、智華ちゃん。でも、あのね、聞いていい?」


 なぁに? と頬を寄せ合う。そうじゃないと周りの歓声に声が埋もれちゃうから。麻理子はスタジアムから目を離さないまま、私に質問を投げてくる。


「これはなんの大会?」


 大会……たしかに大会かも。

 とはいえ、私も詳細を知らないし……いや、待って?


 司会者がなんか言ってた気がする。首長決定戦? そういえばそんなことをラチイさんから聞いた気がする。


 あれはたしか、中間考査直前くらい? 電話で話してた時に聞いたよね。ジローが今、何をしているのかって。


「私も詳しくは知らないんだけど……首長っていうこの国のリーダーを決める大会だと思う」


 ラチイさんはバトルロイヤルって言ってたよね。バトルロイヤル。こっちの世界にバトルロイヤルって概念があるのかないのか、さぁどっちだ!


 一人聞いた話を脳内で反芻している間にも、麻理子は私の答えにますます分からないという顔になって。


「どうしてそんな大会にジローが?」

「お手伝いだって」

「お手伝いする理由があるの?」


 そのあたりは本人から聞いてほしいなぁ、なんて。私も又聞きだから、正しいかどうか微妙だし。


 司会者の解説の声が響き渡る。

 獅子軍の雪豹族の人が、黒狼族の足元を凍らせて引きずり倒し、マウントをとっているそう。じっと目を凝らしてみれば、銀髪のお姉さんが、黒髪の男の人の上に馬乗りになってフルボッコにしている。


 司会者の解説が別のほうを向く。

 狼軍の風狼族の人が、炎獅子族の人に猛攻を仕掛けているそう。さっきも言っていた獣技っていう技をふんだんに使って、風の刃とか砂嵐とかを起こして炎獅子族の間合いを他から離してるんだとか。炎獅子族の獣技が炸裂するとスタジアムの四分の一が半焼するだとかで、風狼族の人がどれだけ炎獅子族の人を無力化できるかが狼族の勝利の鍵なのだとか。


 解説を聞きながら、私は知っていることを麻理子に教えてあげる。


「ジローは赤狼族の次期族長なんだって。で、今回、赤狼族の味方の偉い人を次の首長にするためにお手伝いしてるんじゃないかってラチイさんから聞いたよ」

「それっていつ聞いたの?」

「三日前くらい。でも、この獣人の国が大変そうっていうのは二週間くらい前に聞いたかな」


 麻理子の表情が曇っていく。ほらジロー、ちゃんと自分で伝えないからこうなるんだよ。


 司会者が空を飛ぶ。え? 司会者さん飛べたんですか? 飛んで上空から解説を続ける。

 獅子軍の金獅子族の女性が半獣化して、牙狼族の女性に飛びかかったらしい。牙狼族の女性は獣化して避けて鋭い牙で噛みつこうとした。それを避ける金獅子族の女性。私は零れ落ちそうなくらい目を見開いた。


 だって普通にびっくりする。綺麗なお姉さんたちがいきなり二足歩行のライオンになったら、絶対誰でもびっくりする。これが半獣化と思っていたら、弾丸のように吹っ飛んでくる四足歩行のリアル狼。毛並みは銀色で綺麗だけど、さっきまでいたはずの銀髪のお姉さんはいないし。


 わぁ……と見ていたら、麻理子が前のめりになる。


「ジロー、危ない……っ」


 私は慌ててジローを探した。赤色、赤色、赤い色。

 見つけた時にはナイスバディな黒髪のお姉さんに背後から羽交い絞めにされていた。あれ、絶対大きなお胸が背中に当たってる。役得で羨ましいって歓声が聞こえてきた。羽交い絞めにされてる上に首も締められそうになっているから、ジローの顔はわりと苦しそうだけど。


 これは負けちゃうのでは、と思っていたら、隣ですぅっと麻理子が大きく息を吸いこんだ。


「ジロー、がんばってー!」


 この歓声の中、絶対に聞こえるわけがない。

 そう思うのが普通なのに、麻理子の声援がジローに届いた瞬間、ジローの身体がかき消えた。


『おぉーっと赤狼族ジロー、黒豹族チェシャの絞め技を獣化で脱出! 見事な機転だー!』


 気がついたら赤……というには綺麗すぎる、深紅の毛並みを持つ狼が黒髪のお姉さんの前にいた。


 観客が沸く。

 黒髪のお姉さんの姿がブレる。黒い豹がすり替わるように立つ。

 深紅の狼が駆けた。走る狼を黒い豹が追いかける。黒豹のほうが早い。豹って言うよりチーターだよ。追いつかれると思った瞬間、深紅の狼の姿がブレた。


 狼の姿じゃない、ちゃんと人に戻ったジローが、待っていましたと言わんばかりに飛びかかってきた黒豹の顔面を全力で横殴りした。あれは痛い!


 からの、頭を揺らした黒豹を思いっきり蹴り飛ばす。黒豹は思ったよりも飛んだ、飛んだけど、吹き飛んだ衝撃で土埃が舞って、土埃が消えたあとには黒髪のお姉さんが鼻血をぴって、なんか親指でぴってかっこよく拭い取っていた。ほ、惚れるぅ……!


 息つく暇もないジローと黒髪のお姉さんの殴り合い。

 私と麻理子はお互いにお互いの手をキュッと握った。麻理子の身体がちょっと震えてる。


「……ジローのスポーツテストの順位って、どれくらいだっけ」

「表彰はされてないよ……でも学年十位以内にはいつも入ってる」

「サボりじゃん。絶対に手を抜いてるじゃん」


 あんな元気溌剌で大暴れしているの見ちゃうと、スポーツテストの順位なんてぶっちぎり一位に間違いないでしょ。


 オリンピック選手顔負けの身体の動き方をしているジロー。地球の霊長類最強と戦っても勝てそう。勝てるんじゃない? 勝てるでしょ。三段活用でジローの勝ちは揺るがない。


 でも地球の人類に勝てても、異世界の獣人に勝てるのかは別かもしれない。黒豹のお姉さんの動きがすごく早くて、またジローは絞め技をかけられそうになってる。そのたびに獣化して逃げて、追われて、攻撃して、あ、黒豹のお姉さんの蹴りがジローの横腹に決まった。


 心臓がきゅっとなる。ボクシングの試合なんて生ぬるい。ボクシングなんかよりも熾烈な試合が行われているのが素人目でも分かる。これは、ちょっと、怖い。


 この迫力が、怖い。

 殴る蹴るに容赦のないこの試合、これを喜ぶ観客の熱量が怖い。


 私と麻理子は熱狂するスタジアムの中、迷子になったような気持ちで身を寄せ合った。


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