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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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メタモルフォーゼ【前編】

 タイルが敷かれた玄関がぽやぁと光る。

 ぱぁっと光りながら現れたのは紫色の魔法陣。

 カッとひときわ強く輝くと、目の前には銀髪をゆるく束ねた男性がいた。


 私の隣では麻理子が目を丸くしてる。

 分かる。分かるよ。見たらびっくりするよね。突然魔法陣とかびっくりするよね。


 あ然としている麻理子を横に、私はお客様を笑顔で出迎えた。


「いらっしゃい、ラチイさん!」

「こんにちは、智華さん」


 防寒用に黒色のケープを着ているラチイさん。第三魔法研究室の制服はちょっとの寒暖くらいなら自動調整してくれるのだとか。便利すぎる。そのケープを脱げば水色のシャツに黒のスラックス。いつものラチイさんだ。


 ラチイさんはケープを腕にかけながら靴を脱いで家に上がってくる。


「珍しいですね。麻理子さんも一緒なんて」

「ラチイさんにちょっと聞きたいことがあって」

「聞きたいこと、ですか」


 ラチイさんが麻理子ににこりと微笑みかける。麻理子がそわっとして私の服の袖を掴んだ。


 うんうん、麻理子も無事キャパオーバーということで。とりあえずリビングに行こうかな。


 リビングのソファー……だと、ちょっと話しづらいかな? キッチン側のダイニングテーブルに座る。私と麻理子が並んで座って、私の前にラチイさん。


 さてさて、言いたいことは色々あると思うんですが、先にこちらをば。


「ラチイさん、はい魔宝石」


 私が取り出したのはちょっとした箱。私がまだ自分の作っているアクセサリーが不思議なアクセサリーだって知る前に、ラチイさんへと魔宝石を渡すのに使っていた箱だ。


「智華ちゃん、それは……?」

「これが私のアルバイト!」


 麻理子が不思議そうに聞いてくるから、にっこりと笑顔で答える。ラチイさんは私から箱を受け取ると、ぱかりと蓋を開けた。


 中から出てきたのは、大きな水晶球。

 水晶球の中には黒い盾に銀の翼を持つオブジェクトが封入されている。盾の天井と下にはぐるりととぐろを巻く銀の糸。


 これがラチイさんに頼まれた、街一個分を守れる魔宝石です! なお効果があるかどうかはこれから確認してもらいます!


 ラチイさんが魔宝石を手にとって検分を始めた。

 私と麻理子はその様子を眺めながらおしゃべりをする。


 さっきの突然マジックショーよろしく現れた魔法使いコンドラチイさんのこと。異世界の国のこと。私の作る魔法のようなアクセサリーのこと。


 麻理子はちょっと困るような、なんだかむずむずとしたような、信じられないような、すごく感情に困ると言いたげな顔で私の話を聞いてくれて。


「そう、だったんだね。智華ちゃんの言ってたこと、本当だったんだ……。信じてあげられなくて、ごめんね」

「いいよ。信じてもらえないのが普通だと思うし。私もこんなこと、眼の前で起きなきゃ信じられなかったし」


 もじもじする麻理子可愛い!

 仲直りのハグをすれば、麻理子は照れたように笑ってくれた。満足するまで麻理子とぎゅうぎゅうしてから身体を離すと、麻理子が聞きたそうな顔をして私を見る。


「ねぇ、智華ちゃん。ジローの実家の近くに行ったことがあるっていうのは」

「それね。異世界でジローに会ったことがあるんだ」

「そっか……」


 麻理子は色々と悟ったような表情になる。この話の流れからのカミングアウトで信じられない、って言うことはないと思うけど。

 でも実際に聞くとすごく衝撃的な話ではあるから。


「本当はさ、ジローには自分から言うって言われて口止めされてたの。でも最近の麻理子を見ていたら、黙っていられなくて」


 ここでフォローをいれておくのも忘れない。ジロー、これは借りだからね。……いや待って、勝手に話しちゃったからトントン? 貸し借りの帳尻はトントンにしてもらおう。さっぱりすっきりとがモットーです。


 私が心の中のジローに一方的に貸し借りの帳簿を書きつけていたら、ようやくすべての事情を飲みこんだらしい麻理子が、眉をしょんぼりと垂れさせて困ったように微笑んだ。


「智華ちゃん、教えてくれてありがとう。心配かけてごめんね」

「麻理子が謝ることなんてないよ! 悪いのはあの馬鹿犬だもん!」

「こらこら、智華さん。お口が悪いですよ」

「む、むむ」


 ラチイさんに注意されちゃったー!

 ジローに対する軽口をラチイさんに聞かれてしまって、ちょっと心臓がびっくりした。そうだよ、ラチイさんいるよ。悪口はいけないね。悪口を言うような嫌な女子だって思われたくない。今のは聞かなかったことにしてラチイさん!


 そんな私の内心なんて知る由もなく、琥珀色の瞳を柔らかく細めたラチイさんは麻理子へふんわり微笑みかけた。


「麻理子さん。ジロー君を責めないであげてください。彼らの一族にとって、異世界を渡ることはすごく難しいことなんです。貴女と会うために彼が相当頑張っていることだけは、覚えておいてあげてください」


 麻理子はこっくりと頷いた。今まで不安げだったその瞳が力強い光を灯す。うん、元気が出たみたいで良かった!


 嬉しくてにこにこしていると、ラチイさんは麻理子から視線をそらして今度は私のほうへと移した。検分していた魔宝石が箱の蓋の上へと置かれる。


 ダイニングテーブルにちょこんと置かれた魔宝石に、三人分の視線が集まる。


「気になることは色々とあると思いますが……さきにこちらを片づけちゃいましょう。鑑定結果をお伝えしますね」

「どうぞー!」


 発動するかな、するかな!

 わくわくどきどきしながら待っていると、ラチイさんはつるりと羽つき盾が封入された水晶球を指でなぞった。


「まず、この大きさの通り、貯蔵魔力量が多く入るようです。魔力消費率は発動してみないとわかりませんが、かなりの規模の魔法が発動すると思われます。属性は無属性。闇、地、火、水の四つの属性が補助に使用されています。智華さんはどんなイメージでこちらを?」


 聞かれて、笑顔で答える。

 それはもちろん!


「守るための魔宝石って言ってたからね。盾をイメージしたんだ。守るにはぴったりかなって」

「使用した材料は?」

「お願いした黒金剛竜の鱗を使ってるよ。あとはパウダー。ムーンのやつじゃない、銀色で鏡面みたいになるやつ。あとは太陽の樹液と針金」


 使った材料はそれだけ。

 ちょっと普段作るより大きいから太陽の樹液はいっぱい使っちゃったけど、凝ったのは中に封入した羽つき盾だけだからね。指折り数えながら使った材料をラチイさんに伝えれば、ラチイさんはうんうんと頷いて聞いてくれた。


「分かりました。あとは実際に発動させて確認しましょう。魔力の通りがとてもなめらかなので、十分発動できるかと思います。ありがとうございました」

「どういたしまして!」


 無事、任務終了ー!

 やー、テスト後一発目の納品クエスト、無事完了で良かったです。魔宝石のことは、あとはラチイさんに任せて……私はようやく待ちかねましたよ、と思いながらキリリッと表情を引き締める。


 大好きな親友のためにもうひと肌、脱いでみせましょう!


「ねねね、ラチイさん! 異世界に連れてって欲しいです!」

「だめです」


 秒で玉砕。

 笑顔で断られたんだけど!?


「そこをなんとかぁ……!」

「しばらくは難しいとお伝えしたと思いますが」

「少しだけ! ムーンに会いたいし、ジローのことも知りたいし!」


 お願い、お願い、と頼みこんでもラチイさんは首を縦に振らない。いつものように穏やかに微笑んでるだけ。ちょっとくらい困った表情とかしない? こんな駄々っ子みたら、普通ちょっと嫌そうな顔をしない?


 穏やかに微笑んでるラチイさんを上目遣いにちょっと見る。正攻法でだめなら懐柔策を!


「お家汚いならお掃除してあげるから!」

「間に合ってますので」

「じゃあ買収! 今回のこの依頼の報酬額、半分ラチイさんにあげる!」

「買収しないでください」


 駄目だ! ラチイさんのガードが硬い! あ、いやちょっとぐらついた? なんか顔背けてる? ちょっとラチイさんや、肩が震えてますけど笑ってます!?


 こちらは真面目なんですけど、笑わないでもらえませんかねぇ……! えぇい、こうなれば!


「なら最終手段! 麻理子、さっき渡したやつ!」

「え、あ、うん」


 私は椅子から立ち上がり、スチャッと左手を上に掲げる。麻理子も同じように左手を上へあげた。


 私たちの手にはバングルがある。

 そのバングルは私が昨夜、守護の魔宝石を作るかたわらで作っていた魔宝石だ。昨日寝る前に、魔力のない私でも使えるかどうか試してみたので、ちゃんと使えるはず!


 私は魔宝石に仕掛けたキーワードを声高らかに叫んだ。


「せーの、メタモルフォーゼ!」


 バングルの中に埋めこまれた文字がキラリと光る。

 次の瞬間、ぽんっと破裂音がした。


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