内緒のメイキング
中間考査が終わった。
結果は神のみぞ知る。
それなりに、それなりにできたとは思う。解答欄は全部埋めました。数学も化学も平気だと思う。世界史はちょっと年号とか怪しい。現代文はいいけど、古典の単語問題を油断しました。英語ですか? スペルミスにご期待ください。
とはいえ死刑宣告までの数日間、私は無敵モード突入です!
結局ジローは今日も欠席したね、と麻理子と話しながら帰宅した私は、夕食と入浴をささっと済ませると自室に引きこもる。
UVランプや作業マットを設置して、勉強机を作業環境に整えると、私はラチイさんから届いた工具箱を開けた。中には色んな魔宝石の資材が詰められている。
ちなみにこの工具箱は、帰ってきたら玄関の内側に置き配されていた。見慣れた箱があるなぁ、と思ったらラチイさんから『帰宅に合わせて送付しました』とのメッセージ。転移って便利ですね。宅急便より早いよ。一家に一人、ラチイさんがほしい。
その工具箱から、作りたいイメージに沿う材料をつまみ出す。
今回の材料はこちら!
各色の太陽の樹液はもちろん、ラチイさんにお願いして一番硬くて丈夫な魔物の鱗も選んでもらった。黒金剛竜っていう古龍種の鱗なんだって。鱗そのままだと扱えないくらい大きいので、頑張って砕いてもらって用意してもらった。ちょっと紫がかった黒いシェルフレークみたいになってる。
次にミラーパウダー。これできゅきゅっとすると、金属光沢みたいなのがでるんだ。こちらの原料は異世界産の鉱物です。日本だと銀白なんだけど、ラチイさんも鉱物が原料だって言っていたから何かの石です。その石を粉砕してパウダーにしてもらいました。
さぁ、原料はそろった。
今回使用するモールド型は大きな球と、透かしパーツを作るためのレース模様の細い型。透かし用のはちょっと羽っぽいデザインを選ぶ。
それらを机に出して、私は頷いた。
「硬化に時間がかかるから、もう今から作っちゃおう」
ようやくテストも終わったから、思う存分アクセサリーが作れるよ!
まずは羽っぽいデザインのモールドに、黒色の太陽の樹液を少し流す。ちゃんとスティックで隅まで樹液を詰めますとも。黒は光を通さないから硬化に時間がかかる。左右一対分の羽モールドに樹液を流すと、ぽいっとUVランプに入れた。
次に出すのは、じゃじゃーん、針金です!
針金を出して五角形を作ると、その五角形針金をマスキングテープの粘着面にぺたり。簡単フレームの完成だ。ちなみにこの針金も異世界産。なので微力ながら魔力が通ってるそうです。
その針金に透明な太陽の樹液を流す。その上に黒金剛竜の鱗を一枚一枚、スティックでちょんちょんと敷き詰めていく。鱗の配置や形が気に食わなくて、結構時間がかかった。
これも硬化! 鱗を敷きつめたから、こっちも硬化に時間かかるよ!
これで一旦、手持ち無沙汰になる。
「硬化してる間に、ちょっと他にも」
私は工具箱を開けた。
なんか良さそうな材料ないかな〜。今回のは決まった材料と使うかもしれない材料だけだったから、そんなに種類ないし、遊べなさそう。あ、前にもらった材料のあまりは?
私はもう一つの工具箱を開けた。しめしめ、良いものがあります。ぴこんと私の頭に名案が思い浮かぶ。これをちょっと拝借しまして。ラチイさんにはあとから報告するからね。
見つけた資材を適当なモールドにいれて、太陽の樹液を流し込む。ついでに思いついたので、手持ちのメッセージシートを切ってそれも封入。日本の魔力が通ってない資材と、異世界の魔力が備わった資材を混ぜると魔宝石になるのかな? 失敗したら失敗したでいいんだけど。
興味本位からそれを二つ作ったあたりで、UVランプの中身を交代。
まずは黒くて薄い羽をモールドから取り外す。問題なし。これをマステに貼りつけて、筆を使って表面に薄く太陽の樹液を塗る。その上からシルバーのミラーパウダーをアイチップを使ってぽんぽんと擦りつけてく。下地を黒にしたから、シルバーがいい感じに馴染むね! もう一個の羽も同じように作業して硬化する。
五角形の針金に敷き詰めた黒金剛竜の鱗のほうももう一回、透明な太陽の樹液を塗る。その上から二重で黒金剛竜の鱗を配置。硬化。
銀色羽パーツは裏表を同じように仕上げた。五角形針金パーツは三重で同じ工程を繰り返す。こんなものかな?
さぁ、仕上げの大仕事!
球型モールドを前に、私は袖をたくしあげる。
半球型モールドが主流だけど、きれいな球をつくるなら、一体型モールドだよね。ココナッツの頭をちょっとくり抜きましたよ、みたいな形のモールドのそこに、ぐるぐると巻いた針金を置く。球に対して、四分の一……は多いな、五分の一……まぁこのくらいかな?
針金をぐるぐるして敷きつめて。
そこに太陽の樹液を投下。透明なやつ。それからさっき作った羽パーツと、五角形の針金パーツを逆さまにして立てる布陣。動かないようにちょっと糸を使って固定する。三分の一くらいの樹液の量。これを一度硬化する。
硬化して、羽パーツと五角形パーツが動かなくなれば糸をはずして、こんどはほんとうに薄っすらと赤く染めた太陽の樹液をいれる。上のほうはほんとうに薄っすらと青く染めた太陽の樹液を少しだけ投入してなじませておく。これで三分の二。硬化。
最後にうっすらと青い太陽の樹液でモールドを埋める。一番底と同じように。針金も忘れない。でもこちらは球に沿わさないで、蓋をするような感じでぐるぐるを置くだけ。硬化。
最後の硬化を始めると、深夜を回りそうだった。研磨は明日でもいいかな? 私はラチイさんに完成のメッセージを送っておく。寝てても明日返信くればいいかな、と思ってたら秒で返信が来た。明日取りに来るって。早い。
麻理子にもメッセージを送っておく。こちらも返信が帰ってきた。みんな、金曜日だからって夜ふかししすぎだよ。私もだけど。
『智華ちゃん? どうしたの?』
『学校でちょっと言い忘れたことがあって。ジローのこと』
『ジローのこと?』
『ジローには話すなって言われてたんだけどさ。やっぱり麻理子は知っておいたほうがいいと思って』
『どういうこと……?』
困惑気味の麻理子のメッセージ。
そうだよね、こんなこと急に言われたら困るよね。
でもさ、ジロー。
私は麻理子の味方だからさ。
私は机の上に鎮座する魔宝石を見つめる。胸がドキドキと高鳴る魔宝石。つやつやしてて、きらきらしてて、私が誰かの願いのために作る宝石たち。
UVランプはまだぴかぴかと照っている。スマホにメッセージを打ちこんだ。
これは私の自己満足。楽しくクリスマスパーティがしたいから。だからジローに口止めされていたけど、もう限界です。
『聞いても信じられないと思うからさ、直接見て欲しいの。明日、ラチイさんがうちに来るから、麻理子も一緒に話を聞こうよ、っていうお誘い』
少しドキドキする。麻理子がなんて言うのかな。トーク画面に既読がつかないとちょっと緊張しちゃう。
しゅぽん、とメッセージが届いた。
『えぇ……? お仕事のお話でしょう?』
『お仕事の話だけど、ついでにジローのことを聞いてみるつもりなの。ラチイさんはジローの実家を知ってるから』
『ほんと?』
文面だけじゃ伝わらないけど、麻理子はきっとびっくりしているんだろうな。あれだけ教えてもらえなかったジローの実家を、私のアルバイト先の人が知ってるんだもん。世界は狭いというか、広すぎるというか。
しみじみと思っていると、麻理子からメッセージが続けて送られてくる。
『智華ちゃんも、ジローの家がどこにあるか知ってるの?』
『知ってるっていうか、知らないっていうか……近くに行ったことはあって、その時たまたま知った、みたいな?』
『いつから?』
麻理子がぐいぐいくる。
ちょっと珍しいな、と思いながら私はメッセージを打ちこんで。
『今年の夏休みに、ラチイさんところで泊まりでバイトした時。ジローには黙ってろって口止めされてたの』
『そうだったんだ……』
あれは本当に偶然だった。そういえばジローのお父さんが私に似た人を見かけた気がするって言ってたことがあったよなぁ、って後から思い出して聞き直したもんね。ビンゴだよ。私だったよ。
『ずるい』
麻理子から送られてくるメッセージ。
この三文字が、ずっと隠していた麻理子の本心だと感じた。
『ごめんね』
いくら口止めされてたからって、黙っててごめんね。
今さら言おうと思ったのは、このままだともやもやしたまま冬休みになって、麻理子はまた悶々として過ごすことになるから。冬休み前にはクリスマスパーティだってするんだからさ、ジローには早々に連絡とりたいわけで。
私は麻理子へとメッセージを送る。
『明日暇なら、うちに来れる?』
『行く』
私はほっとした。
『待ってるね』
お節介上等。
ラチイさんも巻きこんじゃってごめんなさいだけど。思ったら吉日、だからね。
やろうと思ったら即行動するのが私ですから!




