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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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隔てられた恋

 自分でもね、しつこいとはね、思ってます。

 思ってはいますけども。

 親友のことを思うと、やっぱりお節介と言いますかなんと言いますか……何かしてあげたいって思っちゃうんだ。


 話が途切れたのを見計らって、私はスマホ越しにラチイさんへと問いかける。


「前に聞いた獣人族の揉めごとって、まだ終わらなさそう?」


 ラチイさんは私が気にしているのを知っているからか、この間よりもちょっと詳しい話を教えてくれた。


『どうやら次期首長決めによるバトルロイヤルが始まってるようです』

「バトルロイヤル!?」


 どういうこと!?

 頭の中に浮かんでいるのは闘牛士とかボクシングとか柔道とかフェンシングとか。なんで最初が闘牛士だったんだろう。あれかな、バトルロイヤルっていうとなんかコロッセオみたいなのを想像しちゃうからかな?


 ……じゃなくて。

 獣人の国はなんでそんなことしてるのかな!?


 呆気にとられていると、ラチイさんがどうしてこうなったのか経緯を教えてくれた。


『前にも話しましたが、獣人の国は小さな部族の集まりです。部族を束ねる獣人国連邦の代表者を首長というのですが、その首長が魔獣との戦闘で負傷したそうです。それが発端となり、次期首長を決めるべく全部族の責任者たちが集まり、話し合いをしているのだとか』

「待って待って、それがなんでバトルロイヤル?」


 話し合いはどこいっちゃったのー!?

 全力で吹っ飛んだ話題にびっくりしていれば、ラチイさんは私の知らない獣人族の民族的? 性格を教えてくれる。


 曰く。

 獣人族は強者こそ絶対の国。現首長が魔獣との戦闘で敗北してしまったために、我らが長たる資格なしと有力部族から批判されたそうだ。今の現首長も最盛期を過ぎており、首長交代に反論はなかったそう。


 だけどここで問題になったのは次期首長を誰にするのかということ。現首長は黒狼族の出身だそう。首長の息子も名を馳せる強者で、黒狼族を筆頭とした狼族は彼を擁立。これに否と唱えたのが、金獅子族の青年を擁立する獅子族だとか。


『どちらの青年も長として不足ない絶対強者。結果、決闘で次期首長を決めることになったそうです』

「わぁ……脳筋……」

『獣人族の代替わりでは、よくあることだそうですよ』


 すごいアグレッシブな代替わりだね……?

 聞いてるだけならちょっとゲームみたいって思っちゃう。狼族と獅子族、つまりイヌ科とネコ科の勝負ってことだよね? 頭の中でわんことにゃんこがプロレスを始めた。うーん、じゃれてるようにしか見えない。


 それも、ちょっとほんわかとし始めた脳にラチイさんがストップをかけるまでだったけど。


『ちなみに智華さんのご友人のジロー君ですが、赤狼族代表としてバトルロイヤルに参加しているようですよ』

「マジで何やってんの山田ジロー!?」


 わんことにゃんこのじゃれ合いにクラスメートが乱入してるんですけど!? なんで!? 中間考査ガン無視して何してるの!?


 目から鱗が落ちるとはまさにこのこと。思わず声を張り上げちゃったよ。ラチイさん、うるさかったらごめん。


『彼は赤狼族の次期族長と聞いています。ですが赤狼族は次期首長には興味がないようで、自分たちと友好的な黒狼族の援護に回っているようです。なかなか立ち回り上手なようですよ』


 立ち回り上手なようですよ、って。

 普通に生きていたら聞かないよ。


 この気持ちはなんだろう。あれかな。クラスメートが突然選挙活動しているのを見つけたような気持ち?


 うぐいす嬢みたいに選挙カーで「次期首長をよろしくお願いします」と声を流してるジローを思い浮かべる。似合わない。非常に似合わない。いやでも選挙カーじゃなくて、文化祭のイケメンコンテストみたいな感じでマイク持って演説してるのは似合う気がする。腹立たしいことに。腹立たしいことに!


 うっかり思考があさってに飛びかかったのを、寸前でブレーキをかけた。半分手遅れな気もする。ううん、セーフです!


 私はふらっと立ち上がると、ふかふか冬仕様のベッドへとダイブした。


「……ラチイさんはジローと連絡取れる?」

『こちらじゃ電話が繋がりませんからね。手紙を送るくらいはできますが、返信が届くには時間がかかりますよ』


 スマホって本当に便利だよね。地球どこでもすぐに声が聞けるし、話もできるし、なんならメッセージのやり取りもリアルタイム。異世界の通信部分はまだまだ発展途上なんだなぁと思いながら、私は頷いた。


 だってどちみち、私からじゃジローに連絡する手段ないし。


「それでもいいから、ジローに連絡したい。あんた彼女ほっといて何してるのって。あとテスト。今週末はもう中間考査だって伝えて欲しい」

『智華さんは優しいですね』

「べ、別に優しくないし! 麻理子が不安になってるから、さっさとジローには色々と正直に話して欲しいって言うか」


 これは麻理子のため、麻理子のためなんです!

 決してジローなんかのためじゃない! あのいけ好かない顔だけ男のためなんかじゃないし!


 柔らかく話すラチイさんの言葉になんだか小恥ずかしくなる。そんなこと思われるなんて思ってもなかったっていうか。ジローのためだって思われるのが遺憾の意というか。


 うぅ、とうめきながら、あぁそうだと思い出す。

 ずっとずっと、聞きたかったこと。


「ねぇねぇ、ラチイさん」

『はい』

「獣人族の番いって、そんなに大事なもの?」


 私にはその『番い』という感覚が分からない。

 ジローは麻理子のことを、恋人じゃなくて番いと呼ぶ。恋人のような、許嫁のような、夫婦のような関係を差すのは分かる。動物が生物学的に一対になるという意味で使われる言葉だとも理解してる。


 でも日本じゃそんな言い方しない。

 私が過敏なだけなのかもしれないけど。

 ジローが麻理子をどうしたいのかが、分かんなくなる時がある。


「麻理子はさ、異世界のことを信じてないの。本当のことを知らないの。でもジローは何も言わない。このままじゃ、どっちも幸せになれないと思うんだ」


 異世界で、色んな恋の形があると知った。

 国を隔てた恋。

 時間を隔てた恋。

 種族を隔てた恋。

 麻理子とジローはその全部を持ってる。

 その全部を持ったうえで、世界を隔てた恋をしている。


 大好きな親友だからこそ、麻理子には幸せになってほしい。なってほしいのに、その麻理子を任せられる奴が優柔寡断なのが私は嫌なんだ。


 こんなこと話してもラチイさんは困っちゃうかな? 学生の恋バナを大人のラチイさんに聞くのも変な話かも、と慌ててこの話を切ろうとしたけど。


 ラチイさんは静かに答えてくれた。


『ジロー君も、悩んでいるのかもしれませんね』


 ぱちりと瞬く。ごろりと寝返りをうって、天井を見上げる。え?


「悩むって?」

『獣人族は魔法の扱いが不得意な種族です。異世界に渡る技術を持っていたことすら、俺も実は驚いているくらいで……日本の生活を知ると、この世界がいかに劣っているのかがよく分かります』


 もう一回、瞬いた。色々と大変なことを聞いた気がする。


 獣人族は魔法が苦手なの? ジローがこっちの世界に来てることをラチイさんがびっくりするくらい? いやまあ、異世界転移はすごく難しいってラチイさんから聞いたことはあるけど……そんなに驚くことなんだ。


 それだけじゃなくて。


「生活が劣っているなんて、そんなことは」

『ありますよ』


 ラチイさんの返答は秒速だった。びっくりするくらい間がなかった。そんなに食い気味に言われるくらいのこと?


『この電話一つをとってもそうです。魔法に頼らない科学力というものは、便利なものが多すぎる。それを比較したらどうしても、この世界の文明力はまだまだだと痛感させられます。ジロー君もそれに気がついているからこそ、番いをこの不便な世界へ招待していいのか、悩んでいるのかもしれませんね』


 私からすると、魔法がある世界のほうがすごいと思うけどなぁ。


 でも確かに、日本のほうが便利だと思ってしまうものはある。魔法の便利さは魔法が使える人しか使えない。私だって異世界に行ったら便利道具を使えなくて、ラチイさんに頼っちゃうこともある。お湯とかね。お風呂のシャワー、魔力でオンオフしてるようで私はラチイさんに浴槽へお湯をためてもらってお風呂に入るからね。キッチンのコンロもそう。火を点けるには魔力がいるの。


 使える人が限られる便利な世界。

 獣人の国は魔法が不得意なら、色々と工夫とかもされていそうだけど……日本人の私や麻理子にとっては不便で生きづらい可能性はあるのかも。


 はぁ、とため息が出ちゃう。

 たとえそうであってもさ。


「……ほんとジローって自分勝手」


 そういうのは話してから悩んでほしいよね?


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