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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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サンタは宗教的シンボル

 クリスマスメニューを意識しているようで、目の前に運ばれてきたワッフルは星型のチョコスプレーが散らされていた。


 ゆったりと音楽が流れる、クラッシックな雰囲気のいつものカフェ。

 私はワッフルにフォークを差しこむ前に宣言した。


「というわけでクリスマスパーティをします! ラチイさんも今月の二十五日はあけておいてね!」


 目の前には銀色の髪をゆったりと一つに結んだ異国の顔立ちをした男性。琥珀色の瞳がとても甘やかなのに、水色のシャツと黒のスラックスで仕事のできる雰囲気を醸し出しているイケメンさん。


 そう、私のアルバイト先の店長さん的ポジションのコンドラチイさんです!

 冬なのに薄手なんですけど寒くないんですか!?


 ホットコーヒーのカップを優雅に傾けるラチイさんは、カップをソーサーに置くとにっこりと微笑んだ。その笑顔だけで周りの女性客たちから黄色い声が上がるんだから、イケメンってすごいよね。


「分かりました。日本はイベントが多くて興味深いですね。聖夜というのも素敵な表現です」

「ラチイさんはサンタさんって知ってる? 赤い三角帽と赤い服着て、白いおヒゲをしたサンタさん!」


 ラチイさんはちょっと考えるようにシーリンファンが回る天井を見ると、ぽんっと手を打つ。


「あぁ、もしかしてアレでしょうか。ここに来る途中、似たようなモニュメントを見かけました」


 クリスマスシーズンだもんね。あちこちにサンタさんは出没しています。これがクリスマスイヴとかになると、サンタさんが軒先でケーキを叩き売りし始めるんですけど。


 そんな日本の風景を知らないだろうラチイさんに、私はにっこりと聞いてみたり。


「その人、何をする人だと思う?」

「さて……聖夜といいますし、宗教的な儀式をする人でしょうか」


 頭がかたーい!

 いやまぁ、クリスマス自体は宗教的なものからくるイベントではあるんですけど。


「夜のうちに枕元にやってきてね、良い子にはプレゼントをくれる、不思議なおじさんだよ」

「それは……不法侵入では?」


 そう言われちゃうと、確かにそうなんだけどさぁ……!


 子どもたちは年に一度やってくるこのサンタさんを待ち遠しく思っているので、そんな身も蓋もないこと言わないであげてほしい。


 それに。


「実際には子どものお父さんやお母さんの役割だからセーフ!」

「なるほど。それは楽しい催しですね」


 私の言葉が一番身も蓋もない気がするけどね!


 そうは言いつつ、大人な私たちにサンタさんはやってこない。やってこないならどうするか。それはもちろん、サンタさんにかこつけて私たちはクリスマスパーティで楽しむわけですから。


「クリスマスパーティでは、みんながサンタさんになった気持ちでプレゼントを持ち合って交換会します! ラチイさんもプレゼントを用意してね!」

「分かりました」


 ラチイさんから快いお返事がいただけたので大満足。私はクリスマス仕様のワッフルをひと口頬張った。あぁー、テスト勉強でパンクしそうだった頭に糖分が染み渡る……。


 ラチイさんがどんなプレゼントを選ぶのかがすごく気になる。さすがにレッドドラゴンの頭とかはしないよね? 白大蛇(ホワイトサーペント)の抜け殻も嫌だよ? 私は嬉しいけど、クリスマスパーティには麻理子とジローも呼ぶから、そんなものがプレゼントに出されても困ると思う。


「そういえばラチイさん。知ってたらでいいんだけどさ」

「はい」

「ジロー・山田・バルテレミーって覚えてる?」


 クリスマスパーティに呼ぶメンバーを思い返したついでに聞いてみる。実家の用事が長引いているらしいジローは一週間まるっと欠席中。連絡がつかないせいで、麻理子がだいぶ心配してるんだよね。


 私はジローの実家がどうして電波の届かないのかを知っているから、ラチイさんに聞いてみたんだけど。


 ラチイさんがジローと直接会ったのは文化祭が最期だったはず。覚えてるかどうか微妙かな〜と思ってたのに、ラチイさんはこっくりと頷いてくれて。


「覚えていますよ。智華さんのご友人ですよね。赤狼族の」


 良かった、覚えていた。

 そうです、赤狼族とかいうすごくファンタジーな人種のジローくんです。


「うん。そのジローがさ、最近、学校に着ていないの。ラチイさんなら、何か知らない?」

「そうですねぇ……」


 顎に手をやりながら考えるポーズ。

 私はワッフルをもぐもぐしながら、ラチイさんの言葉を待って。


「獣人の国はラゼテジュから少し離れているので、風の噂程度にはなりますが。どうやら獣人の国で少々、揉めごとが起きているようです」

「揉めごと?」


 前に獣人の国の近くまで行った時も、ラゼテジュから遠いって聞いた気がする。国を一つか二つくらい越えるんだっけ。それでも風の噂が届くような距離みたい。


 そういえば獣人の国ってジローの故郷っていうことくらいしか知らないから、詳しくは知らないんだよね。揉めごとって言われてもピンとこないでいれば、ラチイさんが説明してくれる。


「獣人の国は連邦国で、各獣人族が小規模な単位で縄張りを作っています。その縄張りの単位を部族と言うのですが……何やら部族同士で争いあっているとか」

「そんな。どうして?」

「風の噂ですからね。詳細までは」


 そうだよね、風の噂ならそんなに詳しくは分かんないかぁ。


 でも揉めごとだって言われると少し不安にもなる。脳内は子ども同士のおもちゃの取り合いみたいな喧嘩から、ギャングの抗争みたいなのまで想像しちゃう。怪我とかしたら麻理子が泣いちゃうよ……!?


 ハラハラしていたら、ラチイさんが一人納得したように頷いている。


「彼は赤狼族の次期首長の子と聞いています。何かしら動いているのかもしれませんね」

「動くって?」

「部族間の争いを調停したり、逆に戦闘行為を伴うものであれば前線にでたり。狼族ですからね。武闘派が多いんですよ」


 武闘派が多いってやんわり言うけどさ、喧嘩っ早いったいうのと同義でいいのかな……?


 頭に赤いケモミミとお尻にふっさふさの尻尾を付けた赤毛の男子高校生を想像する。何かのキャラクターみたい。イケメンだから萌え需要が高そう。顔の良さで争いを止めるとか? 戦闘行為……あぁ、でもなんだか喧嘩が強そうなイメージはある。


「なんだか不思議な感覚」

「日本とは全然違いますからね。獣人族の部族争いは珍しいことではありません。獣人はもともと弱肉強食の概念が強いですから。あまり派手にやると西にあるガラノヴァ帝国が黙っていないでしょうし」


 弱肉強食! なんか野生っぽい! って思っていたら知らない名前が出てきた。


 ガラノヴァ帝国ってどちら様?

 疑問符を頭に浮かべていたら、ラチイさんが補足してくれる。


 ガラノヴァ帝国は大陸で一番苦労性な国家なんだとか。ラゼテジュ王国は大陸の中でも比較的に東寄りにあるけど、ガラノヴァ帝国は大陸に対し北西一帯を支配しているんだって。魔石資源が豊富らしく、それを狙った隣接国家を飲み込んでは成長してきた歴史を持つのだとか。


 実は私が異世界に来るきっかけになった、ラゼテジュの王女様の婚約に物申してきたのもこの国だったり。そう言えば聞いたことのあるような名前の気もしてくるね! 完全に忘れていたよ!


「ガラノヴァ帝国と獣人連邦国は砂漠に隔たれて隣接しています。砂漠の一部に住む獣人族もいますので、ガラノヴァ帝国も常に警戒しているはずですよ」

「おお……地球だと普通に戦争が起きそうな感じの……」


 ちょっと怖くて身が震える。

 ジロー、そんなところに居たら、危険なんじゃない……? はやく日本に帰っておいでよ。日本は平和だからさ。


 戦々恐々としていたら、ラチイさんがくすりと笑う。


「心配しなくても大丈夫ですよ。赤狼族の里は獣人連邦国の中でも、ガラノヴァ帝国から一番遠いところに位置していますから。それに戦争が起きたという話もまだ出ていません。ジローさんはちょっとした喧嘩に巻きこまれたくらいの考えでいいですよ」

「そう……?」


 それならいいけどさぁ。

 でも麻理子は心配してるんだよ。

 ジローは早く帰ってきて、麻理子の心配を払拭してあげてよね!


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