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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
サンライズ・サンキャッチャー

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66/105

私にとって、特別な

 女子のちょっとホットな視線を浴びながら、私はラチイさんのもとへ近づいた。うーん、視線が突き刺さる!


「ラチイさん、ほんとうに来てくれたんだ」

「約束しましたからね。それに、智華さんが作るものはすべて美しいので、この目で見ておかないともったいないですから」

「そんなおおげさだよ〜」


 にっこりと微笑まれながらべた褒めされちゃうと、照れちゃうじゃん!


 手をひらひらさせながらいつものノリで話していると、近くの人たちがひそひそしている気配がひしひしと感じられた。うん、知ってるよ。超かっこいいイケメン外国人いたら、みんなそわそわしちゃうよね。私もラチイさんじゃなかったらそっち側の人間だよ。でも残念ながら身内なんですぅ!


「ラチイさん、こっち。私の部活の展示室はこっちで――ひゃわ!?」

「ちょっと笠江ちゃん! このイケメン誰よ!」

「せ、せんぱぁいっ!」


 ラチイさんを家庭科室のほうまで案内したところで、背中側からガバっと抱きつかれてめちゃくちゃ変な声が出た!


 誰! って思ったら部活の先輩で、家庭科室の中からも廊下からも、先輩や後輩が私とラチイさんを息をひそめて見ている。


 私がぎょっとすれば、ラチイさんもちょっと苦笑気味だし!


「誰って……バイト先の人です」

「バイト先って、笠江ちゃんのレジンアクセ売ってもらってる?」

「そうそう」

「うっそ、こんなテライケメンなの!?」


 はぁ〜、とため息をついている先輩。

 他の部員のメンバーもラチイさんに見とれているんだけど、あのね、気づいて! ラチイさん、めっちゃ困ってる!


「じろじろ見すぎです! 失礼でしょ!」

「ハッ、つい、本能のままに」

「銀色の髪って、これ地毛……? 染め?」

「背が高い〜」


 あ〜! きゃっきゃっしていて収拾がつかなくなりそう!


 この内気なくせにミーハーな集まりの部員たちをどうしてくれようかと私が考えをまとめるよりも早く、ラチイさんがにこりと綺麗に微笑んで。


「皆さん、智華さんの御学友の方々でしょうか。俺はコンドラチイと申します。智華さんにはいつもお世話になっております」


 ラチイさんの声はにぎやかだった廊下にも綺麗に静かにのびていった。ちゃんとしっかり耳に届いた言葉に、興奮気味だった部員たちのおしゃべりも止まる。


 す、すごい。みんなが一斉に、ラチイさんに注目した。


 ちょっとドキドキしながらラチイさんを見上げれば、その形の良い唇がゆっくりと言葉をつむいで。


「智華さんが素敵な作品を作れるのも、皆さんと日々、切磋琢磨しているからこそでしょう。今日はそんな智華さんと、皆さんの素敵な作品を見るのをとても楽しみにして来たのです」


 これが、大人の余裕……!

 ラチイさんのかっこよさがいつもの三割増くらいに見える! ここ学校なのに! いや、学校だから!? ラチイさんの顔に見慣れている私の胸もドキドキしちゃう――って、あれ?


 ラチイさんが私の肩に触れた瞬間、急に胸のドキドキが落ちついた。えっ、そんな熱しやすく冷めやすいみたいな心臓ある?


「智華さん、案内してもらえませんか?」

「えっ、あ、うん」

「皆さんも、またお会いしたらお話しましょう。きちんと感想をお伝えできるよう、ゆっくり見てきますね」


 ラチイさんがそう言えば、さっきまでにぎやかだった部員たちがどうぞどうぞとラチイさんを展示室に促す。この変わり身の早さにびっくりなのは私だったり!


「ラチイさん?」

「少しだけ魔力を使いました。ただ単純に魔力を放出するだけの『威圧』と呼ばれるようなものですが、出力はかなり抑えているので、興奮している人に冷や水をかけるくらいの効果はあるんですよ」


 内緒ですよ、と言ってそっと耳もとに顔を寄せてくるラチイさん。私の心臓がうっかりランニングし始めてる。


 私が思いっきり顔をそらせば、ラチイさんは不思議そうに首を傾けて。


「智華さん?」

「ちょっとラチイさんもう少し距離感保って! ドキドキしちゃうから!」

「ドキドキ……? まさか魔力感知が? 智華さんに影響がないようにしたんですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫! 大丈夫だからー!」


 たぶんこのドキドキは違うと思ったけど、そう言われると魔力感知能力の気もして、いやでも完全に私がバカみたいな気もするし、あぁ、もう、ラチイさんやっぱり離れよう!? その距離感がやっぱりバグってるのがいけないと思うよ!?


「ラチイさん、ほら、中入ろう! 私たちの展示を見に来てくれたんでしょう!」

「はい。誰でもない、智華さんのお誘いですから」


 私はラチイさんの背中をぐいぐい押すと、周囲の視線から逃げるように家庭科室の中へ!


 パーテーションで区切られた家庭科室は、順路ごとに備え付けの大きい机が一つずつある。その広い机の上に、一人か二人の作品が置いてあって。


 受付でバインダーとアンケート用紙を渡すと、ラチイさんは興味深そうにしきりに頷いた。品評会みたいで、気合いが入ったみたい。


 ラチイさんはじっくりと、その作品たちを眺めながら順路を進んでいく。


「どれも温かくて、優しい作品ですね」

「手作りだからね!」


 順路の前半は布ものの作品が多い。

 見るだけで愛くるしいぬいぐるみやあみぐるみ。おしゃれな布を使ったポーチやカバン。大胆な刺繍を縫いつけたタペストリー。どれもこれも、誰かの心がこもった渾身のひと作品!


 狭い通路の中、作品だけじゃなくて、作品に添えられた制作者のコメントに目を通しながら順路を進む。

 ラチイさんは作品一つ一つに丁寧なコメントを寄せてくれた。まだ半分しか進んでいないのに、ラチイさんのアンケート用紙には文字がびっしり!


 そしてやってきました、うちの部活一番の目玉作品!


 真ん中の折り返し地点に配置されたそれは、正面からラチイさんを出迎えて。


「これは素晴らしいですね」


 ラチイさんからも、今までとはちょっと違う、思わずというような感嘆の声がもれた。

 私はうんうん、とラチイさんに同意する。


「これね、麻理子のドレスなんだ」

「智華さんのご友人ですね。丁寧に作られているのが分かります」


 麻理子のドレスは向日葵のように陽気なイエローのカラードレス。


 白い布をベースに、ウエストにはいくつもの種類の黄色の糸で華やかな模様が刺繍されている。裾は裏地の黄色を魅せるように、たっぷりのドレープで黄色の薔薇をかたどった。そんな薔薇にまぶされた朝露のように、裾で光を散らしているのは透明度の高いオーロラビーズで。


 デザイナーさんも絶賛に違いない、素敵なドレスなんだけどね。


 本当は、ね。


「……先生たちはさ、これとは別に作ってたドレスを着て、麻理子にステージに立ってもらいたかったんだって。そうしたら内申がもっとよくなるからって」


 でも麻理子は嫌がった。これはジローのためのドレスだからって。一番最初に見せるのは、ジローがいいのって。


 だから麻理子は、もう一着、ドレスを仕立てたんだ。


 文化祭のためだけの、綺麗なドレス。自分が着ることを考えなくていいからっていって、色々と遊び心をこめたって笑ってた。


「このドレスはもう少し手を加えたら、秋のコンクールに出せるって先生は言ってた。でも麻理子、コンクールに出て、進路を服飾に決めていいのかどうか、まだ迷ってるみたい」


 もう二年生の秋。

 なんとなく、麻理子は皆と同じように進学して良いのかをためらっているような気がしてる。それはたぶん、ジローが卒業後どうするつもりなのか分からないのが理由の一つだと、私は思ってる。


 まぁ、麻理子もそうやって真剣に悩んでいるわけなんですが。


 じゃあ、私は?

 私も麻理子と同じ二年生。進路指導でのらりくらりとかわしているのは、私も一緒。ううん、私のほうが、もっとひどいかも。


「麻理子はやりたいことがあるかこその葛藤だけど、私ってまだやりたいこと決まってないから……これを見るたび、すごいなぁって思うよ」


 麻理子の作品タイトルは「エール」。

 誰への励ましなのか、聞いてみたいなって思ったり。


 ちょっぴり眩しいものを見たような気持ちでドレスを見ていれば、ラチイさんがくすりと声を立てて笑った。


「智華さんも悩ましいお年頃なんですね」

「これでも思春期なんで!」


 そうなんですよ、私、思春期なんです!

 多感なお年頃ってやつなのです!


 私がぶんぶん首を縦に振っていれば、ラチイさんはしみじみとした様子で、ドレスを眺めて。


「日本はラゼテジュと違って、子供たちの未来への道しるべがたくさんあります。贅沢な悩みですが、だからこそ勤勉である必要もある。難しい悩みですが、この世界で生きる智華さんの特権ですよ」


 思ってもみないアドバイス。

 日本で生きる私の、特権。


 ……ラチイさんの言うとおりかもしれない。世界には自分で自分の人生を選べない人だっている。イネッサ様のように、生まれつきハンデを持っている人だっているし、ラゼテジュの王女様のように将来を決められている人もいる。


 人生を選べるのは、たしかに贅沢かも。

 その贅沢を享受するために勉強することすら、贅沢かもしれない。


 それをもてあそんで、ただいたずらに時間を過ごしているだけの私って、なんだかもったいないし――それになにより、私だけ取り残されたような気持ちになって、焦ってる。


「ごめん、ラチイさん! 変なこと言っちゃったね! ほら、次行こっか!」


 話を切って順路を進む。

 センチメンタルなのって私に似合わないからね!

 ささっと水に流しちゃってください!


 ラチイさんはくすくすと笑いながら、後半の順路もじっくりと作品を見ながら進んでいった。一歩進むごとに私の心臓が一つずつ大きく鼓動していく。


 そして、とうとう。


 つやつやしてて、きらきらしてる、小さくて蒼い薔薇で飾りつけられたヘッドドレスが、ラチイさんの目に留まる。


「これは……」

「私のだよ」


 言われる前に、答えちゃいますけども!

 太陽の樹液じゃなくて、UVレジンで作ったハンドメイドアクセサリー。青い薔薇の花びら一枚一枚、型を取って、薄くレジンを硬化させて、組み立てて。失敗も多かった一作品。


 タイトルは「奇跡」。

 私にとって、一番特別なモチーフ。


 ラチイさんはじっくりと私の作品を眺めると、ぽつりとつぶやく。


「どうしてこれにしたんですか」

「えっ、恥ずかしい。コメントにも書いてあるよ?」

「智華さんの言葉で聞きたいんです」


 そう言われちゃうと、私は弱い。

 照れるのを誤魔化すようにちょっと笑いながら、ラチイさんに教えてあげる。


「青い薔薇、好きなんだ。花言葉は夢叶うとか、奇跡。前は不可能とか存在しないって言われていたんだけどね、品種改良を重ねて、花言葉も変わったんだって。……それに、ラチイさんと出会えた、幸運のモチーフだからね!」


 長い時間をかけて、不可能を可能に、多くの人に奇跡を見せてくれた青い薔薇。その青い薔薇が紡いでくれた奇跡は、私にとってきっと一生物の宝物みたいなものだったり。


 だから、とっておき!


 そう伝えれば、ラチイさんは面食らったようにちょっと目を瞠ったけど、すぐにはにかんで。

 イケメンの照れ顔、プライスレス!


 つやつやしてて、きらきらしてて。

 夢を叶える人たちに奇跡を見せてくれる、青い薔薇の宝石。


 私の夢はまだ決まってないけど、でもいつか、この花言葉に相応しくなれるようになりたいな。






【サンライズ・サンキャッチャー 完】


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