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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
サンライズ・サンキャッチャー

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異世界で会いたくない人No.1

 ロランさんはもう少しイネッサ様のところに残るそうなので、私とラチイさんはひと足先に帰ることに。


 私、自由登校とはいえ、さすがに休むわけにいかないからね! 午後からは文化祭準備に合流する予定だからね!


 気分良く馬車に乗り、ラチイさんのお家へと帰る。

 移動に時間がかかるから、そろそろお昼が過ぎる頃。麻理子たち、文化祭の準備どれくらい進んでるかな?


 日本の文化祭チームに思いを馳せながらラチイさん家に着くと、家の前に馬車が一台停まっていた。


 私たちの馬車を遮るように停まっている馬車にラチイさんは不審そうに眉間を細めたあと、なにかに気がついたようにハッと表情を強ばらせた。


「智華さんは馬車の中にいてください。話をしてきます」

「ラチイさん?」


 思わず馬車を降りようとしたラチイさんの袖を引いちゃう。ラチイさんは私のほうを見て、ちょっと目を瞠ったけど、すぐにいつもの柔らかい表情を浮かべて。


「安心してください、知り合いですから。智華さんはあまり得意ではない方だと思いますし、待っていてください」

「得意じゃない?」

「あれはフォミナ侯爵の馬車ですから」


 あああ! 異世界で会いたくない人ナンバー・ワンの人!

 それなら私は大人しく馬車の中にひっこんでいます!


 しゅぱっと袖から手を離せば、苦笑しながらラチイさんは馬車を降りていく。とはいえ、何を話すのかは気になるから、そっと小窓を開けて、前の馬車の様子をうかがってみる。


 ラチイさんが前方の馬車に近づいて、馬車の扉をノックした。中にいる人は窓を開けたようで、ラチイさんが挨拶の礼を取るのもそこそこに、威圧的な声が聞こえてきた。


「ヴァンピーア伯爵家に魔宝石を融通したそうだな。報告がまだ来ていないが」


 この声! 忘れるべからずこの憎っくき声!

 まさしく私の宿敵・フォミナ侯爵じゃん!


 まったくもって嫌味な物言い。私がじりじりとタンスの角に小指をぶつける呪いを送っていると、ラチイさんが柔らかな姿勢のまま切り返す。


「今回は個人的なものでしたから。経費を使用したわけでもないので、ご報告は控えておりました」

「あの未熟な職人に作らせたのなら、のちほど報告書をあげるように。経費もきちんとあげたまえ。制服を着用しているのなら、仕事だと思って行動させよ」

「申し訳ありません。ご配慮ありがとうございます」

「それと例の件。あの職人にもよくよく目を配っておけ。奪われたら厄介だ」

「承知しております」


 殊勝に頷くラチイさん。

 さらに容赦なく、フォミナ侯爵がラチイさんに何か言ったみたいなんだけど、私はもう、むっきー! とその言い方が気に食わなくて頬をふくらませた。それから少しもしないうちに、フォミナ侯爵の馬車は去っていき。


 私は馬車から飛び降りた。もちろん、激おこですとも!


「結局なんだったの!? 嫌味を言いに来ただけ!?」

「違うと思いますよ。今回の件で使ったお金を、もろもろ経費として落としても良いとのお達しです」


 ラチイさん曰く、ヴァンピーア伯爵家とフォミナ侯爵家は家同士でなにかと縁があるのだとか。だから今回のイネッサ様の件で私とラチイさんが動いているのが、フォミナ侯爵の耳に入ってしまったのかもしれないそう。


「それでフォミナ侯爵が、融通を効かせてくれたのでしょう。貴重素材、諸々を経費で落とせるのは良いんですけど、魔宝石が完成したあとなので、ちょっと遅かったです。まぁ、バレてしまった以上、報告書はあげないといけないのですが……」


 ほんとうに、間の悪い! 最初から協力してくれるなら協力してほしかったよねー!


 ぷんすこしている私と違い、はぁとため息をつくラチイさん。そんなラチイさんに、今聞いた言葉でふと気になったことを聞いてみる。


「そういえばラチイさん。報告ってあげていいの? 今回の魔宝石、なんか危ないからどうのこうの言ってなかった?」

「結果的にはそれほど大事にはなりませんでしたからね。魔宝石の魔法は、美容目的の生活魔法として報告をしますよ。それに直接フォミナ侯爵に俺から報告するのであれば、悪いようにはならないでしょう。あの人は、魔法に関して誰よりも公明正大ですから」


 しっかりと頷くラチイさん。

 私にとってはいけ好かないおじさんでも、ラチイさんにとってはそこそこ良い上司……なのかな? 口が悪いけどさ!


 私がまだちょっともにょっているのが分かっているのか、ラチイさんはちょっと苦笑気味。


 それどもまぁ、これでようやく一段落かな?


「さぁ、そろそろ日本へ送りましょう。明日はいよいよ文化祭と言っていましたね。がんばってください」


 家の中に入り、工房へ。

 魔法陣の座標を学校に調整してくれているラチイさんに激励された私は、意を決して顔をあげた。


「あの、ラチイさん! 文化祭なんだけどさ……!」


 それは、ほんの少しの勇気。

 魔宝石の仕事とは関係ないけど。

 たまにはこういうのも、ありだよね!



   ◇   ◇   ◇



「智華〜! こっちもって!」

「笠江ちゃんごめんっ、私も手伝って〜!」

「はいはい、いくよー!」


 文化祭当日、家庭部はめちゃくちゃ大忙し!

 展示班の私はなんとか自分の展示品の設置ができたんだけど、ステージ発表班の手が回ってなくて、当日もドッタバタ!


 合間に模擬店班が家庭科準備室に駆け込みに来る中、私はこれからステージ発表がある部員の着付けのお手伝いをしています!


「ありがと〜! あっ、私のメイク道具どこっ」

「そっちにポーチあったよ!」

「ナイス〜!」


 てんやわんやになりながら、ふう、とひと息。

 タイムテーブル十五分前、なんとか着付けが完了ー!


 家庭部の手芸チームの中でも、パリコレ張りの衣装を作った面々が学校の廊下を歩いていくのは、なんというか、パレードみたいだった。最近、本物のドレスにも見慣れてきたからか、ちょっとこういう芸術的? な衣装はちょっとおもしろく見える。展示を見に来たお客さんたちが廊下ですれ違ってざわつくのも、仕方ないよね!


 ステージ発表班を見送って、家庭科準備室から家庭科室へと戻れば、家庭部の展示品を見に来ているお客さんがちらほらといた。うちの学校の生徒だけじゃなくて、外部の人もいる。


 こうして自分の作品を見てもらえるのって、やっぱり好きだなぁ。


 パーテーションの隙間からそっと様子を伺ってにんまりしていると、その中に見知った顔が一人。


「麻理子!」

「ジロー」


 一緒にステージ発表班の着付けの手伝いをしていた麻理子が私のあとから出てくると、案の定、ジローに見つかった。パーテーションの裏なのによく気づくよね? ほんと、目ざとい!


「ちょっと、山田ジローくんは、クラス発表のお手伝いしなくていいのかなー?」

「当番制なの知ってるだろ。俺は今日一日フリーだ。だから麻理子、一緒に回るぞ!」

「そういう約束だったもんね。ごめんね、智華ちゃん。またあとで」

「はいはーい。いいよー、いってらっしゃーい」


 まぁ知ってましたけど! 麻理子がジローと文化祭デートするのは知ってましたけど!


 ひと目もはばからないいちゃいちゃカップルを見送って、私もいい加減パーテーションの裏から出ることに。


 家庭科室の入口にまで移動すると、スマホの時計を見た。

 約束の時間まではまだ少しある。どうしようかなぁと手持ち無沙汰にしていると、廊下の向こうが少しざわついた。


 なんだろう? 女子の声?

 ちょっと気になって、廊下の向こうをのぞきに行けば、あー! なるほど!


「あ、智華さん。待ち合わせ場所はここで会っていますか?」


 一つにくくられた見慣れた銀の髪に、優しい琥珀色の瞳。いつだってレディ・ファーストのイケメン紳士さんが、校内の女子の視線を独り占めしていて。


「ラチイさん!」


 誘ったのは私だけど、ちょっとこの注目はやばいね!?


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