サンライズ・サンキャッチャー
文化祭目前。
準備日で自由登校になったのを良いことに、私は作った魔宝石を持って、イネッサ様のお屋敷へ行くことにした。
最初はラチイさんに魔宝石を預けて届けてもらおうと思ったんだけどね。イネッサ様が私にも会いたいと言ってくれたそうで、忙しい合間をぬって異世界へ行くことに。文化祭が終わったあとでも良かったかもしれないけど、こういうのは早いほうがいいからね!
そういうわけで、ラチイさんとロランさんと一緒にイネッサ様のお屋敷へ。
イネッサ様のお部屋は相変わらず、ちょっと日当たりの悪いお部屋。お部屋についた私は、ラチイさんにお願いして、持ってきた魔宝石を一つ、窓際に吊るしてもらう。うんうん、僅かな太陽光でもキラキラ光って綺麗!
私が笑顔でピースサインすれば、ラチイさんも微笑んで準備が終わる。
さて、では本日の主役のもとへ!
「イネッサ様、おまたせしましたー!」
イネッサ様がお昼の間、過ごされている地下のお部屋。
ロランさんの案内で行くと、前よりも顔色の良くなったイネッサ様が私たちを出迎えてくれた。
「いらっしゃい、チカ。ロランとコンドラチイ様も、ようこそいらっしゃいました」
以前よりふっくらして血色の良くなったイネッサさんは、ふんわりと微笑んで出迎えてくれた。前は儚い、という雰囲気が全面に出ていたけど、今は神々しいというか、女神というか……すごく美人!
「イネッサ様、すみませんでした。私の軽はずみな言葉で、イネッサ様に怪我をさせてしまって……」
「ふふ、気にしないでくださいませ。その件で咎めるよりも、チカの持ってきてくださったお薬や食べ物のおかげでとても調子がいいのよ。怪我も、いつもよりはやく治りましたの」
お咎めがなくても、私は気にしちゃう。それでもあんまり引きずりすぎても、失礼になるとラチイさんから教えてもらったので、反省会はここまで!
「えっと、それで今日はこちらを持ってきたんです! どうぞ!」
「まぁ。開けてもよろしいかしら?」
「もちろん!」
ロランさんに預けていた贈り物。イネッサ様の隣に立ったロランさんが少し腰を折って、イネッサ様にその贈り物を手渡す。うーん、美男美女! 眼福!
私が眼の前の光景にドキドキしていると、イネッサ様が渡された箱の蓋を開けた。
中には小さなサンキャッチャー。
遊色効果を持つブルーオパール色のステンドグラスをドリームキャッチャーにはめこんだものに、菱形にカットされた小粒のエメラルドのような石が二つ吊るされている。そのさらに先には大粒の球体水晶が光を反射して、虹色のプリズムを生んでいて。
手のひらくらいの長さのサンキャッチャー。
これが私の自信作。ラチイさんのお墨付き!
「まぁ、きれい……」
気に入ってくれたのか、うっとりするイネッサ様。
箱の中に収まっている魔宝石を眺めながら、イネッサ様は小首をかしげる。
「これはどうやって使うものなのかしら」
「サンキャッチャーっていって、窓辺に吊るして太陽の光を楽しむインテリアなんです! これは魔宝石なので、普通のサンキャッチャーとは違って、窓から入る太陽の光からイネッサさんを守ってくれます!」
「ほんとう?」
本当ですとも!
ちゃんとラチイさんに鑑定してもらったので、私が狙っていた効果はちゃんと発揮されているのは確認済み!
でも、私が持ってきたサンキャッチャーはこれ一つだけではなく。
「この魔宝石はお出かけ用です。傘とか帽子とかに吊るしてもらえれば、イネッサ様を外でも守ってくれます。これより大きいものをイネッサさんのお部屋の窓に吊るしました。なので、今から外に出てみませんか?」
私はそう言って、イネッサ様を誘う。
不安げにロランさんを見上げるイネッサ様。
そんなイネッサ様へ、ロランさんが微笑みながら手を差し伸べた。
「どうぞお手を。私の麗しい貴婦人」
イネッサ様はその差し伸べられた手を見ると、持っていた魔宝石を執事さんに渡して、ロランさんの手を取った。
絵に描いたような、騎士様とお姫様の立ち姿のような一場面に、私はどっきどき!
うずうずしてるのを見抜かれちゃって、ラチイさんに肘でつつかれちゃったけど、だってだって、ほんとうにお似合いの二人なんだもん! これが暗いお部屋じゃなくて、明るくて華やかな太陽の下とかだったら写真バチバチに取っちゃう自信しかないよ!
ロランさんがイネッサ様をエスコートして、部屋を出る。地下から地上へと上がる階段を登るイネッサ様は、やっぱり不安なのか歩みは遅かった。
それでも、最後の一段を登りきったイネッサ様は一度深呼吸すると、毅然と前を向いて。
「開けてくださる?」
「喜んで」
ロランさんが、地上へと続く扉を開く。
ゆっくりと暗闇の中に、白い光が差し込んだ。
数回目をまたたいて、太陽の光に目を慣らすと、イネッサ様の小さなつぶやきが聞こえて。
「――痛く、ないわ」
そう聞こえた次の瞬間には、イネッサ様はお部屋の中へと歩き出す。
ゆっくりと窓辺に近づいて、瞳を輝かせる。
「まぁ……これがチカの魔宝石なのね。とても綺麗だわ」
イネッサ様の感嘆に私は嬉しくなる。
太陽の光を反射して、七色に輝くサンキャッチャー。
サンキャッチャーを通した光は、壁や床にその七色の光を落としこんでいて、それが見ている人たちの目を楽しませてくれる。
オパールの遊色効果は、宝石が持つ光学効果の一つ。
その中でもブルーオパールは、幸せを運ぶ青い石。
大変だったけど、いくつかの虹色光沢のある青いシェルを使えばなんとか再現できて、私は満足!
そのブルーオパールで作ったドリームキャッチャーは悪夢を捕まえて、朝日で浄化してくれる意味を持つ。
それから小粒の緑の魔宝石にこめた願いは「幸運と健康」。エメラルドをイメージして磨きに磨いたその魔宝石。エメラルドには健康という意味の宝石言葉もあるから、少しでもイネッサ様の身体を丈夫にしてくれたらいいなと思ってる。
それから大きな球体にカットされた、虹色の光を反射する水晶のような魔宝石。
これが一番大変だった。白大蛇の抜け殻を小さく筋のないように切り取って、正三角錐の中に一枚だけ貼りつけた。それを組み合わせ、何度も組み立てを試行錯誤して、光の屈折を生み出したサンキャッチャー。
もともとは日照時間の少ない北欧で生まれたインテリアだそう。太陽の光を楽しむために作られたサンキャッチャーが、イネッサ様を明るい世界にいざなってくれるように願いをこめた。
夜にしか生きられない吸血鬼が、太陽が昇るのを望むサンキャッチャー。
これが、イネッサ様の願いを叶える、私の魔宝石!
「青空だわ……とても澄んでいるわね」
イネッサ様が眩しそうに窓の外の世界を見つめる。
ロランさんがそんなイネッサ様に寄り添い、お伺いを立てた。
「イネッサ、外に出てみないかい。もうすぐ花の季節も終わってしまうからね」
ロランさんのお誘いに、少しだけイネッサ様は表情を不安げに曇らせる。でも執事さんが、私がさっき手渡した小さな魔宝石を吊るした傘を持ってくると、不安と期待を混ぜたような表情で、おずおずと頷いて。
イネッサ様は傘を差すと、ロランさんと一緒に庭へゆっくりと下りた。私とラチイさんはテラスでその様子を遠くからそっと見守る。
外の空気に感動しているのかな。見たことないくらい素敵な笑顔を浮かべていて、私も自然と嬉しくなっちゃう。
庭を一周して満足したのか、イネッサ様はロランさんと一緒にテラスへと戻ってきた。その頬はほんのり赤く色づいている。日焼けじゃない、その頬の色の変化は、イネッサ様の胸の中を雄弁に語っているみたい。
「土と花の、生きる匂いがしたわ。それに風が温かいの。生き物の声も、まるで音楽のようにあちこちから聞こえてくるわ。こうしてまた、太陽の下を歩けるなんて……ありがとう、ロラン……っ」
「お礼はチカ嬢へ。彼女のおかげだ。僕はなにも出来なかった」
感極まってしまったらしいイネッサ様が、とうとう涙ぐんでしまうのにおろおろしていたら、ロランさんが私のほうへ矛先を向けてきた!
「そんなことないです! この魔宝石の材料をとってこれたのはロランさんがいてこそだし、ロランさんが声を上げてくれなければ、イネッサ様とも出会えなかったですもん!」
私一人で作った魔宝石じゃないよ! って主張すれば、イネッサ様が傘をほうり投げるようにして一歩を踏みこんできて。
ぎょっとすれば、イネッサ様が手放した傘をロランさんが余裕でキャッチし、そっとイネッサ様へと傾ける。傘を手放したイネッサ様は、両腕を広げて、私を抱きしめて。
「ありがとう、この御恩は一生忘れないわ」
「おおげさですっ。……でも、イネッサ様が喜んでくれるなら嬉しい! 作って良かったです」
胸の中に温かいものが広がっていく。
私の魔宝石がまた一つ、誰かの幸せに繋がったんだという実感が、私の胸にあふれている。
えへへと笑いながら、イネッサ様を抱きしめ返す。
それからすぐに、まだ身体にどれほどの負担がかかるから分からないからと、執事さんに部屋の中へ戻るように促された。
イネッサ様は少しだけ残念そうだったけれど、ロランさんが今度は自分の屋敷の庭を見に来てほしいと約束すれば、それはもうめちゃくちゃ可憐に微笑んでいて、私はついきゅんきゅんしちゃったよ! 美人の笑顔プライスレス!
そうして部屋に戻る途中、ふと顔を上げると、隣を歩いていたラチイさんとばっちり目があってしまって。
「俺の負けです。やはり智華さんには、かないませんね」
そう言ってはにかむものだから、私の心臓がさらにキュンキュンしちゃったんだよ! もー、ラチイさんもイケメンなんだって! この世界の人の顔面偏差が私を殺しにくるよー!
まぁ、なにはともあれ。
これで大団円ってことで!
と、締めくくろうと思ってたんですが……。
そのすぐ直後、とってもめんどくさい、もとい二度と会いたくない人と最後の最後に鉢合わせてしまいました。
なんでー!




