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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
サンライズ・サンキャッチャー

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奇跡のプリズムを

 次の日、私は前の日の疲れが出てしまったのかちょっと寝坊してしまった。


 慌てて着替えて階下に行けば、ラチイさんが朝ご飯兼、お昼ご飯を作ってくれていたよ。オムライスー!


「朝からオムライスとか贅沢!」

「もうお昼に近いですからね。はい、こちらもどうぞ」


 一緒に差し出されたマグカッブにはオニオンスープが。うーん、見事に食べ慣れた味!


「ちなみに日本産のは?」

「ケチャップとオニオンスープの素ですかね。今こちらのスープシリーズにはまってます」


 ラチイさんが見事に日本のインスタントにはまっていらっしゃる……! まぁ、私もよく家でお世話になってるよ、そのスープの素!


 わちゃわちゃとご飯を食べたら、昨日干した白大蛇(ホワイトサーペント)の抜け殻の様子を見に行く。やった、お天道様が朝からカラッとしていたみたいで、いい感じに乾いてるー!


「ラチイさん、良さげ?」

「はい。あとはこれを使いやすいように切ったら使えますよ。切る作業は俺がやっておきますので、智華さんは」

「はいはいはーい! 魔宝石を作ります!」


 ラチイさんの言葉に甘えて工房へ!

 ラチイさんも工房に白大蛇(ホワイトサーペント)の抜け殻を持ってきて、お互いに作業を始めた。


 私が用意するのは簡単。

 太陽の樹液と、ミラーボールみたいな正二十面体の球体が作れるモールド! ラチイさんに聞いてみたら、ばっちり持ってたのでこれを使わせてもらうよ!


「智華さん、ホログラムはどのように切りますか?」

「フレークくらい細かく切ってほしい! 私も手伝うよー!」


 大きかった抜け殻を折り紙サイズくらいにまでカットしたラチイさんが、そのうちの一枚を手にとって聞いてくる。


 私はその一枚を半分に切ってもらうと、ラチイさんと仲良く二人でショキ、ショキ、ショキ……。


「これくらいでしょうか」

「もう少し小さくないと、モールドからはみ出ちゃいそう」

「たしかに」


 ショキ、ショキ、ショキ。


「うん、良い感じ!」

「けっこう小さくしましたね」


 くしゃみしたら吹き飛びそうなくらい細かく切った白大蛇(ホワイトサーペント)の抜け殻。うん、こうやって重なっているのを見ると、たしかにオーロラフレークっぽい!


「それじゃ、モールドに流しこむよー!」

「樹液に魔力の付与はしないのですか?」

「うん! オーロラフレークが光の角度で虹色に見えるからね!」


 太陽の樹液に色をつけちゃうと、その良さが出なくなっちゃう。だから今回、樹液には魔力を付与しないのです!


 さくさくっと樹液を二つある半球モールドに流して、白大蛇(ホワイトサーペント)の抜け殻を敷きつめていく……んだけど。


「……? んー……?」


 なんか、しっくりこない。

 いつも感じる魔宝石を作ってる時の胸のときめきみたいなのがなくて、もぞもぞと樹液の量や内包物(インクルージョン)をかき混ぜる。


「智華さん? 硬化はしないのですか?」

「んー……うん! 一回硬化してみます!」


 ラチイさんが不思議そうに聞いてきたので、一度硬化することに。しっくりこないままだけど、まぁ、だめならだめで、ラチイさんにアドバイスをもらえたら!


 というわけで、UVランプにモールドをスタンバイ!

 ポチッとスイッチをいれて、硬化待機!


 その間にちょいちょいと、金具やらなんやらを準備して。

 硬化ができたら、二つのモールドの間に太陽の樹液を塗って、合体!


 合体したモールドをさらに硬化!


「おや……?」

「んんー?」


 硬化待機中、ラチイさんが怪訝そうな表情に。

 私もつられて、うーんと首を傾げてしまう。


 なんだか微妙な雰囲気の中、硬化が終わったモールドを取り出して、中の魔宝石を取り出した。


 うん、見た目は綺麗。

 これをひたすら磨いて、磨いて、磨いて。


 水晶の中に閉じこめられたオーロラホログラムがちゃんと透き通って見えるくらいに磨きまして。


「うーん……?」


 金具と鎖を取りつけて出来上がったのは、サンキャッチャー。大きな水晶がこだわりで、窓辺に置けば太陽の光を色鮮やかに反射してくれる……んだけど。


 なんか、思ってたのと、ちがう。

 出来上がった魔宝石を見ても、なんというか……まったく、ときめかない。


「ラチイさん、どう?」


 なんだかもやもやしながらラチイさんに出来上がった魔宝石を渡せば、ラチイさんは魔力をこめて鑑定をしてくれる。


 目をつむって、両手のひらで包むように魔宝石を持ったラチイさん。その眉間に、若干のしわが寄る。


 ん、んんん? その顔はどういう顔!?


 作る時とか、魔宝石に感じるのとは違うドキドキが襲ってくる。ひぇー、テスト返却のときのドキドキと一緒! ヤダ!


 そうしてまぶたを押し上げたラチイさんは、困ったように眉をほんのりと下げて。


「失敗ですね」


 やっぱり!?


「なんで〜。なにがダメだったんだろう」

「魔力の動き方を視た感じでは、素材が白大蛇(ホワイトサーペント)のせいか魔力を通しづらく、通しても、まるで鏡の迷宮のように魔宝石の中で乱反射して、魔法にならずに不発しているような印象です」


 ラチイさんの言ってることはよく分からないけど、つまり魔法の発動すらしないらしい。


「一般の魔宝石職人が失敗する理由と同じです。発動させたい魔法と素材の相性が悪い、または素材を配置して成立させるための回路が違うのかもしれませんね」


 私は頭を抱えてしまった。

 やっぱりあれかな〜! もやもやしたまま硬化させちゃったからかな〜! でもあれ以上いじっても納得できる形に落ちつくか微妙だったし〜!


「……抜け殻じゃ、だめなのかな。でもサンキャッチャーのプリズムを出すなら、ホログラムが一番いいと思ったんだけど……」


 うーん、と頭を悩ませる。


内包物(インクルージョン)って難しいね」

「それを研究しているのが、我々、第三魔研ですから」


 すごいなぁ。

 ラチイさんはいつもこういうことに頭を悩ませて、魔宝石のことを考えているんだ。


 国の発展のために、誰かの願い事のために。


 それなら私も、さ。

 一回の失敗で諦めるわけにはいかないよね!


 うん! そうと決まれば覚悟は決めた!

 どっしり、しっかり! 気合をいれまして!


 とはいえ、気合を入れたら解決するような問題でもないんだけど。


 うーん、とまた振り出しに戻ってしまった私を見て、ラチイさんがくすくすと笑う。


「智華さんにも、魔宝石職人としての壁が出てきましたね」

「むー。華麗にスパー! っと解決してみたかったんだけどなぁ」


 おっしゃる通り、壁です。

 でもその壁を越えられるのか、めちゃくちゃ不安なんですが。


 誰かいい方法、教えてー!


「……いや、待った。そもそも」


 誰か、じゃなくて、自分で調べれば良いのでは?

 ラチイさんの工房なら、ラチイさんの不思議パワーで日本の電波が通じるから、スマホが使えるんだった!


 私はスマホで検索する。

 分からないこと、一つ、一つ、検索する。

 魔法のことは分からないけれど……そう、例えば。


 プリズムの仕組みって。


「水晶体における、光の屈折、色の透過率……」


 難しい言葉のならぶ、インターネットの百科サイト。


 物理の授業でやりそうな内容のお話。

 それよりもっとハイレベルで、ちんぷんかんなところもあるけれど、それもタップしては検索して、をくり返す。


 けっこう、それなりの時間、ネットサーフィンをしてみた結論。


「……楽しちゃ駄目ってことかぁ」


 私はスマホを置いてため息をつきながら、天井を見上げる。


 でもやるべきことを見つけた。

 作るべき、魔宝石の方向性は決まった。


「よし! ラチイさん、三角錐のモールドある!?」

「三角錐、ですか?」

「そう! あと、素材の持ち帰りしてもいいかな?」


 ラチイさんは目を瞬く。

 急にやる気が出た私にちょっとびっくりしたみたいだけど、すぐに頷いてくれて。


「もちろんです。なにか、思いついたのですね?」

「うん! 形になるかわからないけど……もう一回! 時間かかるけど、やってみる!」


 そう宣言した私は、ひたすら魔宝石作りに専念した。


 やっぱり一日じゃ足りない。

 平日は学校があるから、素材を持ち帰らせてもらって、家でも作る。


 文化祭の準備もしなくちゃだけど、私は合間をぬってちまちまとイネッサさんのための魔宝石を硬化させる。


 ラチイさんから借りた正三角錐のモールド。

 ひたすら透明な太陽の樹液を流しこんで、硬化する。


 白大蛇(ホワイトサーペント)の抜け殻は一枚だけ。鱗模様の筋に沿ってくり抜いたものを、三角に切り取った。


 それをひたすら二十個つくる。

 その二十個を一面ずつ、くっつけて。


 太陽の光が乱反射して、イネッサさんを苦しめるものを優しく反らしてくれるようにと願いをこめる。


 ――七色のプリズムで、奇跡が起こりますように。


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