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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
サンライズ・サンキャッチャー

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吸血鬼の本能【後編】

『ラチイさん、週末そっちに行きたいです! 土曜日朝イチでロランさんと会えますか!』


 昼間の話からその日の夜に、そうラチイさんにメッセージを打ちこんだ。


 ラチイさんからのメッセージは困惑気味だったけれど、オーケーしてくれたので文化祭直前の週末ですが、私は異世界へ!


 私がラチイさんの工房に転移してきたときには、すでにロランさんはラチイさんのお家に来ていて、居間のソファーでくつろいでいた。


 で、私は単刀直入。ロランさんに詰め寄りました!


「よくよく考えたんですけど、イネッサ様が吸血鬼なら、おかしなことがありませんか!?」

「えっ?」

「智華さん?」


 ラチイさんが飲み物を用意している時間も惜しいと言いたいくらいにロランさんの隣に座って、ぐいっと顔を近づけて主張しましたとも!


「ロランさん、ごめんなさい! 私、イネッサ様のことちゃんと理解していなかった。だから私の自己満足で怪我をさせちゃいました。で、いっぱいいっぱい考えたんです!」


 ロランさんが目を丸くして、一瞬だけ私から視線を外す。ラチイさんのほうを見て眉をしかめたんだけど、ラチイさんのほうはといえば肩をすくめただけ。


 もしかしたらロランさんは、イネッサ様の怪我のことをラチイさんに口止めしたのかもしれない。でも、ラチイさんは私がこれ以上暴走しないように赤裸々に教えてくれたんだと思う。


 だから私、悩んだし、苦しかったし、後悔したし、反省もした。


 だけど、だからこそ、私の決意はより一層固くなって。


「青白い肌! 皮と骨だけの身体! 疲労が蓄積したかのような窪んだ目元! どう見ても栄養失調です!」


 私の主張に、ロランさんは苦笑した。

 たぶん呆れているのかもしれない。的はずれなことを言う幼子を見るような、そんな顔をしてる。


 それにちょっとひるみそうになるけど、私はまっすぐにロランさんの瞳を見返した。


「食事はきちんと摂っていると聞いているよ」


 そう答えが返ってくるのも予想済み。

 私はここが正念場、と思って息を吸う。


「違います! 吸血鬼といえば必要な栄養があるんです! ――イネッサ様は血を飲んだことありますか!?」


 そういった瞬間、私の心臓が痛いほど誰かに握りしめられたかのように締めつけられた。


「……それはイネッサを侮辱しているの? 彼女を化け物と誹りたいのかい」


 呼吸が、できない。


 ロランさんの視線が、剣のように鋭くて、私を串刺しにしたかのようで。


 はく、と喉の奥が震える。


「ロラン。智華さんに殺気を向けるのはやめてください」

「イネッサを侮辱したのはこの子だよ。僕が手加減する必要があるのかい?」


 私の肩に、誰かの手がかかる。

 温かいその手は、私をいつもエスコートしてくれる人のもの。


 ラチイさんの言葉に、ようやくこの圧迫感がロランさんから向けられているものだと理解した。これが、殺気。怖くて、痛くて、泣きたくなるけど。


 でも!


「イネッサ様は人間です!」


 ほとんど絶叫に近かったかもしれない。

 ハッ、と次の瞬間には、自分が呼吸できることに気がついた。慌てて空気を肺に取りこめば、ちょっと失敗してむせてしまう。その背中をラチイさんがなだめてくれて。


 ちょっと苦しくて涙目になっちゃったけど、ロランさんをまっすぐに見る。


 そう、イネッサ様は人間だよ。

 外に憧れる、病弱な人。

 イネッサ様は人間なの!


「絶対にイネッサ様に太陽の世界を見せてあげたい! だからラチイさん、ロランさん、もう少し私に協力してくれませんか!」


 そう主張すれば、ロランさんの視線は今まで見たこともないくらいに厳しいもので。


「……協力すると言っても、もう手は尽くしたじゃないか。結局、君の故郷の薬や道具でもだめだったんだ。これ以上は、イネッサを苦しめるだけじゃないかい?」


 そう言われると、私もつらい。事実、そうかもしれない。でもまだ、全部は試してない!


「イネッサ様は、慢性的な貧血持ちだとラチイさんから聞きました」

「そうだけれど、それがなにか……」

「食事を摂っているのに貧血になるのは栄養が足りてないからです。普通の人だって、貧血の状態で太陽の下に出れば倒れます」


 食事をしても、薬を飲んでも、改善しない体質。

 この世界のお医者さんがどれほどの腕前かは知らないけど、ラチイさんに聞いたところじゃ、医療関係は地球よりも随分と遅れてるのだとか。特に、栄養士さんなんていう職業もないって聞いていて。


 これはカフェで働くお母さんが、メニュー考案のために栄養士の資格を持ってたから、その受け売りなんだけど。


 私はばばんと持ってきた荷物を机の上に並べてみせた!


「鉄分に葉酸にタンパク質のサプリ! トマトジュースにレバニラ炒め! 血液ましましメニューでどうかな!?」


 お外にでたい吸血鬼さん寄っといで!

 でも人間の血を吸いたくない吸血鬼さん向けに、食べやすくした栄養食品はこれだ!


 私がざっと出したアイテムたちを見て、ポカンとするロランさん。


 だけど、すぐに首を振って。


「食事の改善は何度もしたよ。でも、結局は……」

「やってみないと分かりません! 私の国のこのサプリはすごいんですから!」


 UVケアグッズだってちょっとは効果あったんだもん。なら、必要な栄養素を圧縮したサプリだって効果期待できるよね!


 それにさ。


「そもそも、吸血鬼全員が太陽を苦手にしてるわけじゃないって聞きました。力の強い吸血鬼は昼間でも活動するって。ご先祖様もそうだったんですよね?」


 ジローを問いつめたら、そう答えてくれた。異世界の吸血鬼は、力が強いと昼間でも活動するって。だから恐れられているのだとも。


 それなら単純に!


「長い年月で血が薄れて、吸血鬼に必要な栄養も摂れなくなったなら、弱体化するのは当然です。強い身体づくりからはじめましょう!」


 ジローが言っていた、種の本能。

 もしイネッサ様がほんとうに吸血鬼の末裔で、その先祖返りであるなら、本当なら血でしか取れない栄養とかもあるのかもしれない。だから身体が弱くて、太陽の光にも負けちゃうんじゃないかな。


 それが、私の考え。

 間違っているかもしれない。ロランさんも一度は考えたかもしれない。けど、でも、言わせてほしい。


 少しでも、少しでも効果はあったんだって。

 私がラチイさんに預けたUVグッズが、全く駄目だったわけじゃないのなら。


「太陽に弱い吸血鬼は、最悪灰になることもあるんですよね。でもイネッサ様は違う。栄養が足りなくて、日焼けしやすい、人間です! でも、私が持ってきたUVケアグッズだけじゃ、たぶん紫外線全部は防げない。だから、ラチイさん!」


 公私混同、ばっちこい!

 後先考えて立ち止まるくらいなら、私は前に進みたい!


 やってみなきゃ、始まらない!


「魔宝石を作る許可をください!」


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