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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
サンライズ・サンキャッチャー

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騎士様の婚約者

 じっとしているのは私らしくない!

 ということで夏休み最終日、私はラチイさんにゴリ押しして異世界に行くことに!


「ラチイさんありがとう!」

「あまりよくはないんですが……まぁ、話し相手になるだけでしたら」


 朝、私の家の玄関まで迎えに来てくれたラチイさんにお礼を言えば、ラチイさんはちょっと苦笑気味だった。迷惑かけちゃってると思うものの、何もしないなんて選択肢、私にはないから。ごめんねラチイさん!


 いつものようにラチイさんにぎゅっと抱えこまれて、異世界へ。紫色の魔法陣が足元でぱぁっと輝いたかと思ったら、次の瞬間には見慣れたラチイさんの工房に着地していた。ふっ、レッドドラゴンの生首さん、こんにちわ!


「ロランはもう着いていますから、居間へどうぞ」


 ラチイさんに促されて工房から居間へ移動すると、ラチイさんの言うとおり、私服姿のロランさんがソファーに座っているのが見えた。


「ロランさん、こんにちは!」

「こんにちは」


 ロランさんはこの間見せたような力ない姿じゃなくて、初めて見た時の王子様然というか、優しい騎士様然というか、そういう雰囲気をまとっていた。


 元気そう? とも思ったけど、よくよく見ればやっぱりどこか作り物めいていて、大丈夫ではなさそうな気がする。こう、心の距離感に壁ができているみたいな。


「コンドラチイから連絡がきて、チカさんも一緒にって。いったいなんだい?」


 ロランさんと向かい合うようにしてラチイさんと一緒にソファーに座る。

 ラチイさんが私の背中を叩いてうながしてきたので、私は遠慮なくロランさんに主張した。


「あのですね、ちょっと折り入って頼みがありまして」

「そんな急にあらたまって、どうしたんだい」


 ちょっと面白そうに目を細めるロランさん。

 私はちょっとドキドキしながら、ロランさんをまっすぐに見つめ返して。


「婚約者さんに会わせててほしいの。魔宝石がなくてもできることがあるかもしれないし」


 目を瞠るロランさん。

 だけどすぐに、諦めたかのように首を振った。


「……気持ちはありがたいけれど、大丈夫さ。ここに来るまでに手は尽くした。医者や魔術師に何十人と診てもらったけれど、だめだったんだ。コンドラチイに断れた時点で、諦めるしかないのは分かっていたんだよ」

「ほんとうに全部やり尽くしたんですか? 魔宝石だって作ってないじゃないですか!」

「その魔宝石をコンドラチイがだめだと」

「ラチイさんを通すからだめなんですよ!」


 私はビシッとロランさんに指を突きつけた。

 そう、ロランさんの敗因はラチイさんにお願いしたこと!


「魔宝石を作るのは私です! それに私なら、ロランさんがまだ試したことのない方法を持ってるかもしれないじゃないですか!」

「それはどういう……?」

「だって私、異世界――むぎゅ」

「智華さん、そこまで」


 ヒートアップしてきたところで、ラチイさんにおくちミッフィーされてしまった! もごもごしてれば、ラチイさんがしょうがないというように代弁してくれて。


「たしかに智華さんの国の技術なら、もしかしたら魔宝石がなくともイネッサ嬢を助けられるかもしれません」

「そんなことが……ありえるのかい? 僕はこの国だけじゃなく、他国でも手立てを探して、あらゆる方法を試したというのに」


 その言葉だけでも、ロランさんがどれほど必死に婚約者さんを助けたくて、その方法を探し回ったのが伝わってきた。


 でも、そんなロランさんだけど、まだ見つけてないものがきっとあるはず。たとえば、私の世界のものとか!


 ラチイさんが私の言いたいことを代弁するかのように、話を引き継いでくれる。


「ロラン、残念なことに世界の定義が狭いです。少なくとも、貴方は智華さんの国の技術に触れてはないでしょう」

「それはつまり」

「彼女は俺が転移でしか連れてこられないような場所に住んでいます。おそらく、この世界の地図を広げても、彼女の国は載っていないでしょうね」


 ほとんど答えのようなことを言ってるラチイさん。

 そういえばロランさんには私が異世界人ってことは内緒にしてるんだっけ? でもラチイさんの言い方だと、察しの良いロランさんなら……。


「なんてことだろう。そんなことが……そうか、そうなんだね」


 目を丸くしたロランさんの表情が崩れる。

 作り物のように張りつけていた表情が、泣き笑いのようなものに変わって。


「それは、僕に言っても良いことだったのかな?」

「もちろん、良くはありませんよ。ですからこのことは他言無用で。智華さんも」

「ひゃいっ!?」


 良い感じに話がまとまりそう! って思ってたら、矛先がこっちに!?


「智華さんの国のことはできるだけ秘密にしてください。それと魔宝石のことも、最終手段ですからね。人の口に戸は立てられない、というのは智華さんの国の言葉ですから」

「はーい。でも、そんなに警戒しなくても……」

「警戒してください」


 いつにも増して強気なラチイさんの言葉に、私はこくこくと頷いた。






 善は急げということで、ロランさんの婚約者さんの家へレッツ・ゴー!


 ええ、あの乗り心地最悪な馬車での移動です。ラチイさんのお家のクッションをありったけ敷きつめて欲しいくらいに、お尻にダイレクトに振動がくる馬車です。


 ロランさんが今日は馬じゃなくて馬車で来ていたので、それに便乗させてもらう形になりました!


 がたごとと馬車に揺られること二時間ほど。

 思ったより遠い〜、と思っていたところで馬車は停まった。


「ご、豪邸……っ!」


 ラゼテジュの王宮はファンタジーな王宮! って感じがしたけれど、ここはまさに貴族のお屋敷! って感じで、お庭も広くて綺麗で、建物もなんかファビュラスな感じ! 語彙力が仕事しない! 貴族っぽい貴族のお屋敷!


 婚約者さんのお屋敷ってことで、ロランさんが出てきた黒いスーツっぽい服装の人に来訪を告げてくれる。この家の執事さんらしい。リアル執事さんにちょっと感動しちゃった!


 その執事さんに案内されて、私たちはお屋敷の中に入る。外観通りに内装も素敵。派手すぎず、質素すぎず、レトロな感じでセンスが良い内装で、テンションが上がっちゃう! 他所様のお家だから、我慢するけどね!


 お屋敷の中を進んでいくと、だんだんと窓の数が減ってくる。奥のほうにロランさんの婚約者さんのお部屋はあるみたい。体質のせいで、日当たりが悪い部屋がお嬢様の部屋なのだと、執事さんが教えてくれた。


「こんなところにいたら、よけい病気になりそう。人間って生きるために太陽の光も必要なんだって、偉い人が言ってたよ」

「彼女にとって日光は毒だからね。仕方ないんだ」


 案内された部屋はお嬢様らしいお部屋だった。

 ここで普段過ごしているのかなって思ったのに、お嬢様の姿は部屋にない?


 あれ?


「お嬢様はこちらにいらっしゃいます」


 執事さんが部屋の中にあるもう一つの扉を開けた。

 寝室へ続く扉かと思ってたその向こうには階段があって。


「お嬢様は日中、こちらで過ごされております。夜にはこちらにお戻りになることもありますが、ここ最近はあまり……」


 心配そうな執事さんに、私もちょっぴり不安になる。


 なんというか、事前に聞いてはいたけど……ほんとうに、太陽から隔絶された生活をしている人なんだ。


 執事さんが地下階段の入口にあるスイッチのようなものを押すと、地下階段に明かりが灯る。ちょっぴり胸がときめいてラチイさんを見上げたら、生活用の魔術回路なんだって教えてくれた。


 階段を降りていくと、一つの扉に行き着く。

 執事さんががノックをすれば、優しい声が返事をした。


 扉を開けてくれる。部屋の中は地上のお部屋と同じくらい素敵な内装で、階段のところとは違って本も読めてしまうくらいに明るかった。


 そして、この部屋の真ん中、テーブルに座っている綺麗な女性が。


「ロラン、ごきげんよう」

「イネッサ、久しぶり。元気だったかい?」

「ええ、とても」


 ふわりと微笑んだ白髪の女性。赤い瞳が嬉しそうにゆるむと、ロランさんが女性のもとへと大きな歩みで近づいてそっと抱きしめた。


 わぁ、わぁ! 絵になる美男美女!

 ドキドキしながらその二人の様子を見ていれば、抱擁をといたロランさんに寄り添われながら、女性がこちらを向く。


「コンドラチイ様もお久しぶりです。それと……」

「チカ嬢だ。コンドラチイの……恋人?」

「こいびと!?」

「違います」


 ロランさんが茶目っ気たっぷりにそんなことを言うけど、全然違うからね!? ラチイさんも笑顔でバッサリ言い切ったし!


「智華さんは……、………………」

「お仕事仲間です!」

「まぁ、そうなの」


 ラチイさんが何故か、説明しようとして黙っちゃったので、私が代わりに代弁しておく! ちょっとラチイさんが微妙な顔になってるけど、でもお仕事仲間が一番いい――じゃないね!


「ごめんラチイさん! 違った! 今はバイトだけどバイトじゃなかったね」

「智華さん?」

「改めまして! 第三魔研所属、ラチイさんの部下になりました笠江智華です! よろしくお願いします!」


 びしっとご挨拶すれば、ラチイさんが顔に手を当てて天を仰いでしまった。え? 違う? そういうことじゃない?


 ラチイさんの意外な反応に首をかしげていれば、目を丸くしていた女性にロランさんが何ごとか耳打ちをして。


「ふふ。コンドラチイ様ったら、隅におけないですわね」

「イネッサ嬢? ロラン、彼女に何を吹き込んだんですか」

「いや、君と智華さんの関係を補足してあげただけだよ」

「ほんとうにそれだけですか?」


 ちょっとラチイさんの笑顔に圧が出た。

 この雲行きを見守っていると、ロランさんの腕から女性が抜け出して、私のそばに来てくれる。


「チカ様、ようこそいらっしゃいました。私はイネッサ・ヴァンピーアと申します。以後お見知りおきを」


 ドレスの裾をちょんっとつまんでお辞儀をするイネッサ様。その肌は青白くて、今にも消えてしまいそうなくらい、儚い印象を与えてきて。


「こちらこそ、よろしくです! 私のことはどうぞ智華って呼び捨ててください! あっ、あと私、貴族の人に失礼しちゃうこともあると思うんですが、そうなったら問答無用でお屋敷叩き出しちゃってください! ご迷惑はおかけしないようにしますけど!」


 そう元気よく主張すれば、イネッサ様はくすくすと微笑んでくれた。


 よっし、第一印象はばっちしかも!


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