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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
サンライズ・サンキャッチャー

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53/105

騎士様の頼みごと

 水色のブラウスは肌触りがさらさらで、黒のプリーツスカートには前に買った編み上げブーツがいい感じなテイストに。それからなにより黒いケープが素敵で、姿見にはいつもと雰囲気が違う私が映って、なんだかドキドキしちゃう!


 そわそわしながら着替えて部屋を出れば、ラチイさんとムーンはひとあし先に庭に出ていたみたい。


「お待たせー!」


 手を振りながら庭にいる二人に駆け寄れば、ラチイさんが満足気に目を細めた。


「智華さん、とてもお似合いです」

『チカ。すてき』

「ほ、誉められても何もでないからねっ」


 ちょっと照れくさくってそんなことを言えば、二人はにこにこと笑うものだから、私もつられて笑っちゃった!


 それから三人でピクニックのように敷布を広げた。私とムーンはそこに二人で座ると、さっそくムーンの身体から妖精の鱗粉を採取する。


 銀色にきらめく鱗粉は、私が作る魔宝石に欠かせないもの。とっても貴重なんだけど、その使い勝手の良さはぴかいち!


「くすぐったいところはありませんかー?」

『んひゅひゅ。ないよぅ』


 笑い方がちょっと変なムーンが可愛くて、私は笑顔で採取を続けた。リンデンの葉で優しくムーンの身体を撫でれば、きらきらと銀色の粉が落ちていく。


 ラチイさんはそんな私たちの様子を微笑ましげに見ながら、なにか紙の束に目を通している。


「ラチイさん、なに読んでるの?」

「報告書ですよ。最近、他国からも魔宝石の需要が高まっているようで、研究が活発化しているんです。色々と報告があがってきているのですが……」


 紙束に目を通していたラチイさんがちょっと苦笑する。


「やはりあまり上手くは行ってないようですね。魔力の貯蔵に特化しているか、できても発動するのは簡易な魔法だけ。やはり、智華さんの魔宝石は別格です」


 魔宝石は、魔法が籠められたアクセサリー。手間やその美しさから貴重なものなんだけど、ただ作るだけじゃ思うような魔法は生まれない。


 私は複雑な魔法を魔宝石にこめられるということで、ラチイさんの研究に力を貸してるわけなんだけど……他の魔宝石と比べたことってあんまりないから、その基準はよく分かんない。


 今分かっていることと言えば。


「他の魔宝石と、私の魔宝石の違いってたしか、魔力の雑味だっけ?」

「そうです。智華さんは魔力を持ちませんが、魔力感知の能力がずば抜けて高い。それが繊細な魔宝石に高度な魔法をこめられる理由の一つだと考えていますが……この世界で智華さんと同じ条件の人なんて、なかなかいないものですから」


 そういうわけで、魔宝石を研究しているラチイさんにとって私はとても貴重な人材。私も、つやつやしてて、きらきらしてて、心がときめいちゃう宝石のような魔宝石に触れられるのは幸せだから、こうしてギブアンドテイクな関係になっているのが現状です!


『んにゅふにゅふ』

「ムーン、その笑い方ちょっとおかしい」

『にゅふー?』


 にこにこしてるムーンが可愛くてくすくす笑っていれば、ラチイさんも小さく肩を揺らして笑って、手元の紙束にまた視線を落とす。


 三人で温かい日差しの下、のんびりと過ごす。まだまだ蒸し暑い日本と違って、気持ちの良い暖かさだから眠たくなっちゃう。


 うとうとしたくなるのを堪えていたら、突然、馬のいななきが聞こえた。


「おや?」


 ラチイさんが視線を庭の生け垣のほうに向けたので、私も同じようにそっちを見てみれば、馬が一頭止まった。


 その馬の上から、ひらりと誰かが降りてきて。

 背が高くて体格も良いのに、物腰は柔らかで、男らしいゴツさを感じない男の人。肩で切りそろえられた金の髪が風に揺れているのがとっても絵になる、この人は。


「ロランさん!」

「おや、先客がいたようだ」


 ちょっと驚いたように目を丸くするのは、ラチイさんの幼馴染みで、このラゼテジュ王国の騎士様!


「お久しぶりです! 私のこと、覚えてますか?」

「もちろんだとも。こんな可愛いお嬢さんが僕らの命を助けてくれる魔宝石の職人だってことは、忘れようがないさ」


 ラチイさんと一緒にロランさんを出迎えれば、ロランさんは馬の手綱を引いて庭へと入ってくる。手綱を庭の柵に繋げば、馬はのんびりとくつろぎはじめた。


 ムーンがその様子に興味津々だったから、採取道具を片付けてあげると、馬のほうへ行っておいでと送り出した。ムーンは小さな子みたいに、おっかなびっくり馬のほうへ近づいていく。うーん、その様子も可愛い!


「ロラン。珍しいですね、貴方がうちに来るなんて。最近、騎士団を休みがちだと聞いてますが、大丈夫ですか?」


 一度家の中へとロランさんと入っていったラチイさんが、居間にある庭に面した大きな窓を開けてくれた。私はそこからラチイさんに採取道具を預けると、道具を回収してくれる。


 馬と戯れるムーンの姿を見守るため、縁側で日向ぼっこをするように窓べりにすとんと座れば、ラチイさんからコップを渡された。中には冷たいジュースが入っている。外でぽかぽかになってた身体にちょうどいいやと思って口をつけたら、ラチイさんがちょっと不穏なことを言ったのが聞こえた。


 ロランさんが騎士団をお休みしてる?

 言われてみれば、前に見たときは白と赤の騎士服を着ていたけど、今日は私服っぽい。


 ラチイさんに促されて居間のソファーに腰かけたロランさんが、困ったように眉をたれ下げた。


「耳が早いね。でも、うん……あんまり大丈夫とは言えないかもしれないな。最後の望みだと思って、君を頼るくらいには」


 力なくため息をつくロランさんは、どこか切なげに目を伏せた。男の人らしいしっかりとした身体が、少しだけ小さく見える。


 ラチイさんはロランさんと自分の前にも飲み物の入ったグラスを置くと、ロランさんの向かいのソファーに座った。


 私はちびちびとジュースを飲んで、部屋の中を見てみる。時折ムーンのほうにも目をやれば、ムーンはくるくると馬の尻尾を追いかけて遊んでいて、ほっこり和んじゃったり。


 そんな中、やがてロランさんは大きく息をつくと、思い切りラチイさんへと頭を下げた。


「コンドラチイ。魔宝石を作って欲しい。もらった魔宝石を返してもいい。お金がいるのであれば、この身を売ってでも用意する。だから、願いを叶える魔宝石を、僕に作ってもらえないだろうか」


 願いを叶える魔宝石。

 その言葉に私も目を丸くする。


 ラチイさんもそうくるとは思っていなかったのか、一瞬だけ目を瞠ったけれど、すぐに真剣な表情になって。


「いったいどういうつもりで? 第三魔研の魔宝石は売り物ではありませんよ」

「分かっているよ。それでも、もう最後の望みはここにしかないと思ったんだ」


 ラチイさんの厳しい言葉に、ロランさんは頭を下げたまま。

 ラチイさんはそんなロランさんをじっと見つめている。


「魔宝石を手に入れて、どうするつもりですか」

「イネッサを、助けたい」


 ロランさんの声に力がこもる。

 ゆっくりと顔をあげたロランさんは、絶対にひかない、強い意志のようなものが垣間見えて。


 静かに視線を交えているラチイさんとロランさんに、私はお邪魔かなぁと思いつつも、窓からそろっと挙手をした。


「あの、イネッサさんって?」


 私の声に、先に視線をそらしたのはラチイさんだ。

 ラチイさんはちょっと眉間にしわを寄せながら、私に説明してくれる。


「ロランの婚約者です。ヴァンピーア伯爵令嬢で、病弱な方なんです」

「病気なの? それとも体調を崩しやすい体質の人?」

「病気ではありません。そうですね、先祖返りとでもいえばいいのでしょうか……」

「彼女の血には亜人の血が混じってるんだ」


 あじん?


 また聞き慣れない言葉。

 先祖返りっていうのも、なんだか普通に使わない言葉だよね?


 きょとんとしていれば、ラチイさんがもう少し詳しく教えてくれる。


「獣人のようなものです。ですが獣ではなく、ヴァンピーア伯爵家の場合はもう少し特殊な血が混ざっています」

「特殊な血?」

「吸血鬼の血が入っているんだよ」

「えっ、吸血鬼!?」


 吸血鬼ってあの吸血鬼!? 血を吸っちゃったり、にんにくとか十字架がだめな吸血鬼!?

 つまりそのイネッサさんは、吸血鬼の末裔的な!? なんてファンタジー!


 うっかりファンタジー展開に目を輝かせていれば、ロランさんの次の言葉で、冷水を浴びせられたかのようにきゅっと心臓が止まりかけた。


「でもそのせいで、陽の光が彼女を傷つける。最近、その体質が酷く悪化しているみたいで、カーテン越しでも日光を浴びると火傷のような症状を起こすんだ。ここひと月ほど、風も入らない、陽の光もない、牢獄のような地下で彼女は過ごしている。どうにかしてあげたいんだ」


 そんな……。


 ロランさんの婚約者さんの状況に愕然とした。

 吸血鬼は日光がだめっていうのも鉄板だけど……ほんとうに吸血鬼の子孫の人にとって、それは地獄のようなものだと言われたような気がした。


 風も、陽の光もない、地下室で過ごしているロランさんの婚約者さんのことを思うと、きゅっと胸が締めつけられる。


 なんとかしてあげられないのかなって思ってラチイさんを見たけど、ラチイさんは首を振った。


「状況は分かりましたが……魔宝石を売ることは難しいでしょう」

「そんなっ」

「第三魔研の魔宝石は国の管轄です。俺の個人的な資材では限りもありますし……何より、種族の性質を変えるほどの魔宝石は、倫理的な理由で許可が降りないでしょう」

「分っている、分かっているけれど、それじゃあイネッサが……っ」


 ラチイさんの厳しい意見に食い下がろうとしたロランさん。だけど、声を荒らげてすぐにうつむいてしまって。


「いや……駄目元で来ただけなんだ。君が無理だというのなら、難しいんだろうね。分かってたよ」


 ロランさんの拳が、激情を抑えるように膝の上で震えているのが見える。

 でもロランさんは顔をあげると、いつもの穏やかな表情になっていて。すっと立ち上がると、グラスに口をつけることなく、暇を告げた。


 馬と戯れていたムーンを呼ぶ。ロランさんは馬にまたがると、颯爽と去っていった。


2025/1/5

最新話に合わせ、コンドラチイがイネッサと顔見知りであるように修正しました。

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