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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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閑話 * Summer Vacation!

 夏って言えば海だよね!

 というわけでやってきたよ、海水浴!


 一度しかない高校二年生の夏休み。

 来年には受験勉強できっと泣きべそかいているんだろうな……とか思うのも嫌だから、今年くらいは精一杯遊びたい!


 なので、夏休みも終わりがけ、麻理子とジローと、そして保護者代わりのラチイさんと一緒に海水浴にやってきました!


 ……なぜ?


「なんでラチイさんがいるの?」

「何故と言われましても……智華さんのご両親に頼まれたので……」


 いつのまにと思ったら、異世界転移というラノベチックでファンタジーな現象に大興奮したお父さんとお母さんが、個別でラチイさんと連絡先を交換していたらしい。それも、前にお姫様のために魔宝石を作って深夜に呼び出しをされた、あのすぐあとに。


「せっかくだから地球のことをもう少し楽しんでみてはと。ついでに智華さんたちが羽目を外しすぎないようにのお目付け役ですね」

「お母さんたち、根回し良すぎるよ」


 まさかまさかの夏のパラダイスにラチイさんと一緒に来ることになろうとは。


 基本的に日本(こっち)で会うときは、お仕事のことばかりだから、プライベートにラチイさんがいるっていうのは新鮮だ。


 まぁ、とりあえず!


「荷物番は俺がしますから。智華さんたちは、みずぎ? というものに着替えてきていいですよ」

「いいの? ラチイさん?」

「俺は結局、みずぎというものを持ってきていませんし……これだけ人が多いと、荷物番が必要でしょう」


 そう言ってラチイさんが見渡す周りは人、人、人だらけ! 夏休みも終わりがけとはいえ、さすが夏の定番だよね!


 それじゃあ麻理子を誘って更衣室に……と思ったら、麻理子がその場で服を脱ぎだした!


「よいしょ」

「麻理子!?」

「ちょっ、まっ! ……見るんじゃねぇぞ!!」


 この炎天下の中でも麻理子のひっつき虫になっていたジローが、周囲に威嚇し始めたし!


 ちなみにラチイさんは紳士らしく、微笑を浮かべつつも視線をそらしている。周囲はいきなり服を脱ぎだした麻理子よりも、ジローの威嚇を見て、一歩引いてるし。


 そんな中でも麻理子はマイペースに服を脱いでしまった。と言っても、ブラウスワンピースのボタンを全開にしただけなんだけど。


 なんと、その下には。


「更衣室混んでるかなって思って、着てきたんだ〜」


 かわいいワンピースタイプの水着を着ていた麻理子。すごい! 頭いい! そしてジローが逆上せてひっくり返った!


「麻理子の水着……はだ……うわ……おれ、しぬ?」

「ちょ、ジロー、死ぬな。死ぬなって!」


 ぺちぺちと顔を叩くと、ジローが顔を覆ってしまう。


「俺のツガイが最高に可愛い……!」

「分かったから、私たちも着替えに行こうよ。早く着替えて麻理子の隣にスタンバイしないと、麻理子ナンパされちゃうよ? 可愛いから」

「うぃっす」


 すっと起き上がってささっと着替えを持ったジローは、麻理子の耳元に何事かを囁くと、風のように更衣室へとすっとんでいった。あとに残された麻理子の顔が赤いんだけど、何を言ったのかな山田ジローくん!?


「智華ちゃんも早く、早く」

「あ、うん」


 私も自分の着替えを持って更衣室に。

 ささっと着替えて、ラチイさんと麻理子の元へと戻る。その頃にはひと足早く、ジローも戻っていて。


 ……なんというか、すごい目立つね、あの集団。

 というか、男性陣二人のイケメン具合がとびぬけてて、女性の視線を総なめしてる。


 麻理子も麻理子で、親友の色眼鏡抜きでも可愛いから、男性からチラチラ視線を向けられている。ジローがそれにいちいちガンを飛ばしているから、ビビって近寄れないって感じだけどね。


 うーん、あのなかに私が交じるのって、かなり勇気が必要じゃない?


「ああ、智華さん、おかえりなさ――」


 ラチイさんがてこてこと歩いていた私に気づいて声をかけてくる。


 いつものあの水色のシャツに黒のスラックス姿なんだけど、暑いのか、シャツの袖をまくりあげている。うぅん、海水浴なのにスーツっぽいのが違和感!


「ラチイさーん、向こうで水着の貸し出しやってたよ? ラチイさんもちょこっとくらい遊ばない?」


 身振り手振りでどう? って聞きながら三人のところへ戻れば、麻理子もいいね! って手を叩いて喜んだ。


「コンドラチイさんもどうですか? ……コンドラチイさん?」

「あー」


 麻理子がラチイさんを見上げてこてんと首を傾げる。ジローはなんとなく理解したのか、隣でウンウンとうなずいてる。その腕はしっかりと麻理子の腰にそえられつつ。


 笑顔でぴしりと固まってるラチイさん。

 え、なになに? なんかへんなものでもいた??


「ラチイさん? どうしたの?」

「……その、智華、さん?」

「うん」

「……露出が高くないですか? その、足だけじゃなくて、腹部まで……」

「えぇー、だって水着だもん。みんな同じようなもの着てるでしょ?」


 私は自分の格好を見下ろしてみる。

 普通のセパレートタイプの水着だ。ビキニにショートパンツタイプの水着で、智華ちゃんこっちのほうが絶対可愛い!! という麻理子のお墨付き。


 水着でこれくらいの露出なんて、普通だと思う。

 私なんかよりよっぽど際どい水着の人なんて、そこかしこにいるし。


「……事前調査で覚悟はしていましたが……智華さんも、麻理子さんと同じようなたぐいのものを着られるのかと思いこんでいました」

「ワンピースタイプ? 麻理子みたいに可愛く着こなせるならいいけど……無難なのはセパレート(こっち)じゃない?」

「そうですか」


 ラチイさんがちょっと遠い目。

 うーん、まぁ、でもそうか。ラチイさんの世界基準だとロングスカートが主流で、あんまり女の人って露出してなかったから……。


 でもこれが現代日本なので! 慣れてね!


「智華ちゃーん、あそぼー」

「笠江は遠慮しろ。俺に麻理子を譲れ。一ヶ月会えなかった俺に譲れ!」

「うるさいヘタレジロー。うしろめたいことがある人の言うことは聞きませんー! 麻理子、海はいろ!」

「うしろめたいこと……? ジロー何か隠しごと?」

「そ……んなわけないだろ! 笠江の勘違いだ!」


 ジローったら往生際が悪い。

 この夏休み、私はひょんなことからジローが異世界人、しかも狼の獣人だっていうことを知ってしまったわけなんだけど……全く話す素振りすら見せないとは。


 今日、せっかくラチイさんも来ることになって、異世界の話がしやすい環境をお膳立てしてあげたのに、完全に無視なんだよ! 人の好意を無駄にして!


(いいか、バラすんじゃねぇぞ)

(私がうっかり言う前にさっさと言いなよ)

(こういうのには順序ってもんがあんだよ!)


 アイコンタクトを送ってくるジロー。

 私もアイコンタクトを返す。

 脳内補完したメッセージの内容はニュアンスだけどね!


「智華さん。どうぞ、楽しんできてください」

「うん。ありがとう、ラチイさん!」


 ラチイさんに手を振って見送られながら、私は真夏の海へと飛び込んだ!






 海でいっぱい泳いで、ジローと水泳競争して、海の家で焼きそばを食べて、浜辺でビーチボールして、ラチイさんと貝殻を集めて。


 一日が過ぎるのはあっという間。

 夕日が綺麗にオレンジ色に染まるのを見送りながら、私たちはバスと電車を乗り継いで、自分たちの家に帰っていく。


「バスや電車は確かに便利ですが、こうやって荷物が多いと、車が欲しいですね」

「コンドラチイさんは車、持ってないんですか?」

「恥ずかしながら、免許すら持っていないんですよ」

「えぇ〜、珍しいですね!」


 麻理子がラチイさんのぼやきを拾ってる。ラチイさん、異世界人だもんね。確か免許って登録に戸籍が必要なんじゃなかった? それを考えると、ラチイさんが免許を取るのって難しいだろうなぁ。


「私も高校を卒業したら、免許取らないとね」

「麻理子、免許取りたいのか?」

「え〜? あると便利でしょ? こうやって皆と遊びに行くのも、もっと楽に行けるよ?」


 ほっこりとした笑顔を浮かべる麻理子。

 反対に、ジローの顔はほんの少しだけ陰る。


「ねねね、山田ジロー」

「おい、ファーストネームとミドルをつなげんなって、何回言ったら気が済むんだ!」

「いいじゃん。もう、ジローがこっちに住んじゃえば? 山田ジローに改名しちゃえばいいじゃない」


 茶化すように言えば、ジローの喉がぐっとつまる。

 麻理子を尊重するなら日本に残るべきだし、我を通すならちゃんと麻理子に話すべき。


 言外にそれを匂わせれば、ふいっとジローはそっぽを向いてしまった。もー、意気地なし!


「そうだ。智華ちゃん」

「なぁにー?」

「文化祭用のドレスに使うビーズが足りなくなってきたの。明日暇なら、手芸屋さんに行かない?」

「あっ、行く行く! 私もちょうどレジン液ほしかったし!」


 最近ラチイさんのところで魔宝石のお仕事ばっかりで、普通に使うレジン液を買い足すの忘れてたんだよね〜! 試作とか、練習用のアクセサリーを作ってると、どんどん減っちゃうんだもん! 太陽の樹液みたいに、粘性とかもうちょっと融通がきけばいいんだけどなぁ。


「じゃぁ、明日の十三時に駅前ね」

「オッケー!」


 麻理子と明日の約束!

 ジローが羨ましそうにこっちを見てるけど、来たいならこればいいじゃん?


「ジローも来る?」

「行きたいけど……すっげぇ行きたいけど! でも明日は用事がある……」

「そっかぁ。じゃあまたデートしよ?」

「っ、する! 麻理子、俺とデートしてくれ!」

「もちろんだよ」


 ふふふ、と笑ってる麻理子に、ジローが満面の笑顔を浮かべる。あー、なぜかなー、そのジローの背中に、ふさふさの尻尾がぶんぶん振られている幻が見えたような?


 呆れたようにバカップルを見ていれば、ラチイさんがくすりと笑って。


「智華さんは疲れ知らずですね。明日お出かけをなさるなら、今日は早めに休むんですよ?」

「もちろん! ラチイさんこそ無理しないでね? 明日仕事でしょ? なんか巻き込んじゃってごめんね」


 私達も高校生だし、海に行くのに保護者とかは本当はいらないんだけど。


「智華さんのご両親が気を回してくれたのです。せっかくなので、ありがたくお受けするのが礼儀というものでしょう。それに俺としても、貴重な体験ができましたし、ここに来たことで、地球にもわずかですが、魔力資源がありそうなことも分かりました」

「えっ、そうなの?」

「智華さんの住む街や大きな都心では感じられないのですが、この海に触れて、微量ながら水属性の魔力を感知しました。全くないわけではないと思います。ただ、利用するには難しそうですが」


 残念です、と微笑むラチイさん。

 こんなところにまで来てお仕事してるなんて……ラチイさんこそ、今日はゆっくり休もうね? 一歩踏み外すと、ワーカーホリックだよ?


「ラチイさんこそちゃんと休むんだよ? 遊びに来て仕事のことを考えるの良くない!」

「ははは、すみません。つい癖で」

「癖でも禁止です!」


 そうやってわいわい話しながら、でも電車の中だからボリュームは抑えて話していると、ポケットのスマホが振動した。誰?


「お母さんからメッセージだ。……ラチイさん、今日夕飯食べてく? だって」

「お気遣いなく。智華さんを帰したら、その足で帰りますので」

「まぁ、明日お仕事だもんね。長く引きとめちゃ悪いよね」


 もうちょっとラチイさんと一緒にいられると思ったのになー、残念。


 でも今年の夏は異世界に行って半分くらいはラチイさんと一緒だったし。それ考えると、去年と違って不思議な夏休みだったなぁ。


 なーんて。


「来年もこんな感じの夏休みだといいのになぁ」

「おや? 確か智華さんは卒業年度になるので、勉学が忙しくなるのでは?」

「ラチイさんが日本の学生事情に精通していてびっくりだよ」


 ちょっと目を丸くしていると、ラチイさんはくすりと笑って。


「智華さんにお仕事をしてもらうにあたって、智華さんの環境や身分は色々と調べましたから」

「わぁお」


 身辺調査されてたらしい。びっくり!

 むむむ、とうなっていると、ぽん、と頭の上に手が置かれて。


「智華さんといるとどこでも楽しいですから。仕事以外にも、たまにはこうして遊びに誘っていただけるのは大歓迎です。勉学に支障のない範囲で、また遊びに誘ってくれますか?」


 私はぱちぱちと瞬きする。

 その意味を考えて――満面の笑顔!


「もちろん! また遊ぼうね、ラチイさん!」


 不思議な縁で結ばれた、仕事の依頼主。

 でも今は、仕事だけの関係だけじゃなくて、こうして遊べる友達のような関係にもなれたんだから。


 もっともっと、ラチイさんと仲良くなりたいな、って。


 そう思った夏休みでした!



ここまでお読みくださりありがとうございます。

評価、感想等、とても励みになります。


次章「サンライズ・サンキャッチャー」もよろしくお願いします。


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