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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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異世界は新事実がいっぱい

 昨日は色んなことがあって、ドタバタしていた一日だったなぁ。


 疲れちゃって、帰宅早々、ベッドにバタンキューした私は、気がついたら朝を迎えてしまっていた。

 ハッと目が覚めて時計を見れば、そろそろオディロンさんのところに行かないといけない時間で、私は慌てて跳ね起きる。


「ごめんラチイさん! 寝坊しちゃった!」

「おはようございます、智華さん。さ、まずは朝ごはんをどうぞ」

「美味しそう〜!」


 今日の朝ご飯はフレンチトースト! 贅沢ぅ〜!

 フレッシュサラダに、見覚えのある日本産のカップヨーグルト。……何気にラチイさんの食生活が着々と日本色に染まっていっているのに気づいてしまった。


 もぐもぐと美味しくいただけば、ラチイさんは食後の珈琲で一服している。


「智華さん、クローゼットは見ましたか?」

「クローゼット?」


 そういえば借りてる部屋にクローゼットがあったね。荷ほどきとかは特にしてなくて、昨日も今日も、旅行カバンから直接着替えは出し入れしてるし。


「智華さんがこちらで活動しやすいように、こちらの服を何着か用意しておきました。今後は王宮以外にも外出される機会が増えると思いますので、よろしければそちらの服を着てください」

「えっ!? そんなの、いつの間に?」

「先日智華さんと服屋に行ったときに少々。必要経費ということで受け取ってください」


 うわぁ、ラチイさんの気づかいが完璧すぎて隙がない! 本当はそういうのすごく気が引けちゃうんだけど……買っちゃったものは仕方ない。

 それに今日着て行く服、ちょっと困ってたし。一応日本からはこっちでも浮かなさそうな服を持ってきたけど……基本パンツスタイルの私の服は、あんまりラゼテジュっぽいとは言えないもんなぁ。


「ありがとう、ラチイさん。クローゼット、見てみるね」


 ということで、朝ご飯を食べた後はクローゼットチェック!


 どんなメルヘンファッションが置かれているのかと、おそるおそる見てみたんだけど、私でも着れそうなカジュアルなワンピースがほとんどでほっとした。


 今日のチョイスはタンザナイトみたいな落ち着いた青色のブラウスワンピース。セーラー服っぽさがありつつ、袖やスカートにワントーン明るい糸で花の刺繍がされていて可愛い。膝丈だけど、前に買った編み上げブーツを合わせれば、町ではギリギリ浮かないと思う。


 髪はいつものようにハーフアップで。鏡を見ながら髪を結んでいると、見慣れない服装をした自分にちょっと照れる。普段着ないタイプの服を着こなすのは緊張するなぁ。


 でもTシャツとジーンズじゃ浮いちゃうんだから仕方ない。


「お待たせ、ラチイさん!」

「あぁ、良かったです。よくお似合いですよ」


 居間で待ってもらっていたラチイさんの元に戻れば、ラチイさんがとってもいい笑顔で褒めてくれた。うわぁい、恥ずかしくてほっぺがゆるむ……!


「では行きましょうか」

「はーい!」


 昨日途中やりになっちゃった、デザイン案。

 制作にも入りたいし、急いでオディロンさんのところへ行こう! 



   ◇   ◇   ◇



 馬車で移動する道中、ラチイさんにジローの話を簡単に聞いた。


 それがまた、なんともファンタジーなお話で。


「赤狼族含め、獣人族には『ツガイの本能』というものがあります。いわゆる運命の人というものですね」


 緋色の耳に、緋色の尻尾。それから赤い髪が赤狼族という獣人の特徴らしい。ジローの耳と尻尾も赤かったけど、髪と同じで、ちょっと茶色っぽい感じの色だった。


 それでも特徴的には赤狼族で間違いないらしい。本人もそう名乗っていたし。


「ツガイには出会えることも、出会えないこともあります。昨今ではツガイの本能に対してそれほど重要視はしないようですが、直系氏族の獣人はツガイ探しをすることが多いようです」

「そうなんだ。その本能で、ジローは麻理子をツガイってのにしちゃったの?」

「おそらくは」


 なるほど……ジローが麻理子をお嫁さんにしたい理由は分かった。

 でもでも。


「なんでジローは日本にまで来ちゃったの? ラチイさんみたいに異世界転移って簡単にできちゃうの?」


 これが一番の疑問! そんな簡単に異世界転移ってできちゃうのかな?

 そう尋ねてみれば、ラチイさんはちょっと困ったように首を振って。


「おそらくは俺みたいに空間魔力に適正を持つ魔術師がいるのでしょう。ツガイは基本的に、同じ世界の魂で結ばれます。その境界を越えて運命がつながったのなら、ジロー君の血筋に地球の方がいたのかもしれません」


 そう言われて、ピンと来る。

 ジローのお母さんが日本人だって聞いたから、たぶんそういえことなんだろうな。


 そのことを伝えたら、ラチイさんも納得したようにうなずいて。


「どういった経緯でジロー君のご両親が出会ったのかまでは分かりませんが……ジロー君に関しては、地球の方がツガイになる可能性はおおいにあったわけですね」

「しかもそれが私の親友の麻理子とか……世界って狭すぎる!」


 むしろ異世界規模だよ! 宇宙より広いよ! なのに私の交友関係の規模がとんでもなく隣接してたよ!


「才能と適性さえあれば、異世界転移はできますから。ただ、自分が行ったことのない場所へのリスクはとてつもなく大きい。それこそ自己蒸発してもおかしくはない中で、そんな無謀をすることができる人が、俺以外にもいたんですね」

「怖い! ラチイさんめっちゃ怖いことしてる! えっ、なんでラチイさんそんな無謀なことしちゃったの!?」

「若気の至りですよ。それがあったからこそ、こうして第三魔研に引き立ててもらえたんですから。終わりよければ全てよし、です」

「楽観的すぎる!」


 にっこり笑ってるけどさ! たまに昔のラチイさんが心配になるよ!

 一体どういう子供時代を過ごしてたの!


「ですので、他にももしかしたら、智華さんの周りに異世界人がいるかもしれませんね」

「こわっ! そんなほいほい異世界人がいたらびっくりする!」


 えぇぇと唸っていれば、ラチイさんはそれ以上は話すつもりがないのか、にこりと笑ってこの話を打ち切った。ちょうど馬車も町の中に入って、オディロンさんの下宿先に近くなってたから、いいけどさ!


 ガタゴトと石畳を進んでいく馬車。

 ガラガラとなる車輪の音がゆっくりと消えていって、馬車が停まった。


 私たちは馬車から降りて、オディロンさんの下宿先を尋ねる。昨日と同じようにオディロンさんのお部屋に通してもらうと、オディロンさんは机の上で書き物をしていた。


「こんにちは、オディロンさん!」

「やぁ。きたね、チカさん。待ってたよ」

「お待たせしちゃいました!」


 オディロンさんのお部屋はずいぶんと綺麗になっていた。まぁ昨日、私とオディロンさんがデザイン談義してる間に、ラチイさんがお片付けしてくれてたしね! その後もオディロンさんはお片付けを進めたようで、部屋の隅に積まれていた紙の束は随分と減っていた。


 オディロンさんは私を手招きして机のほうへと誘うと、机の上に広げていた紙を指さした。

 あ、これ!


「僕が使うってなるとどうも気後れしてしまってねぇ……あまり派手な飾りにはできないし……それにどうしても、自分よりも彼女に似合うものを考えたくてだね」


 オディロンさんの言う通り、机の上に広げられていた紙には女性向けのアクセサリーデザイン案が描き連ねられていた。どれも素敵なんだけど……ううん……。


「難しいねぇ」

「気に入るものはないかい?」

「うーん……こう、ビビ! っとアンテナがこないっていうか……モチーフが足りないのかなぁ」


 デザイン画だけでこんなに悩むことになろうとは。

 久々のスランプ到来かも!?


「やっぱりオディロンさんに使ってほしいものだしなぁ……」

「そうか……僕がねぇ……でも僕はティターニアへの贈り物を作って欲しい」

「そうなんですけどぉ」


 というか、当初の目的はそれだったんだけど!

 贈り物と、私がしたいことと、オディロンさんの気持ちの方向性が一致しない! どうしよう〜!


 到着早々、頭を悩ませる私に、ラチイさんがデザイン案をトントンと指で叩いて注目を集める。


「それなら二つ、作るのはどうでしょうか」

「二つ?」

「ペアアクセサリーと言いましたか。智華さんの国の、恋人の習慣と聞きました」

「あ〜、なるほど。そういうのもありかぁ」


 それなら私の希望とオディロンさんの希望、二つとも叶えられるデザインを作れるね!


 その案でいこうかともう一回デザイン案を見回そうとしたら、ラチイさんがさらに言葉を続けて。


「それに、智華さんが込めたい魔法の構築にも、そちらのほうが都合がいい気がしますよ」

「えっ、どういうこと?」


 なんだかよく分からないことを言われて疑問符を飛ばせば、ラチイさんはにこやかに笑う。


「転移魔法の基本ですよ。ある場所からある場所へ移動する場合、座標の取得が必要です。俺は記憶から座標の取得をしています。智華さんの魔宝石にも転移魔法を籠めたいのであれば、何か目印となる指標が必要でしょう」


 んん? え、わかんない。どういうこと?

 言われたことが難しくて、疑問符を頭から飛ばしていると、ラチイさんはかみ砕いて教えてくれる。


「智華さん、ボールを投げるのを想像してください。ボールを何の目印もなく二十メートル投げてくださいと言われるのと、二十メートル先の赤いリングのゴールに投げてくださいと言われるの、どちらが正確に狙えますか?」

「ゴールを狙うほう! なるほど、そういうこと!」


 だからペアアクセサリーは都合がいいんだね!

 それなら!

 私はオディロンさんのデザイン画を見る。


「オディロンさん!」

「なんだい」

「このデザインの蝶々をイヤリングにしたいです! それで、右耳はティターニアさん用、左耳はオディロンさん用にします!」

「一つのイヤリングを二人で分け合うのかい?」

「そう! 対のイヤリング! あ、なんかいけそう!」


 きたきたきた! イメージが来た!


「雌雄の蝶は惹かれ合う。時を越え、風を越え、路を越え……月光に照らされて、神秘の再会を果たす」


 瞼の裏に浮かぶのは、夜の湖で逢瀬をしていたティターニアさんとオディロンさん。


 そう、コンセプトはこれだよ!


「オディロンさん、お願い! これで作りたい!」

「そうか……。うん、そうか。私がこだわるように、チカさんにもこだわりがあるだろうね。いいよ、このデザインを活かそうか」

「ありがとう、オディロンさん!」


 満面笑顔でお礼を言えば、オディロンさんも目元を和らげてくれて。


「いや、私も君が作るものに興味があるんだ。この作品は君が主役だよ。好きなように作りなさい」

「やったぁ! ありがとう、オディロンさん!」


 よしよし! デザインは決まったよ!

 じゃあこれを型に起こさないといけないから……。


「オディロンさんって、彫刻は得意?」

「彫刻かい?」

「この蝶々を型におこしてほしいの」

「ちなみに型として使用する素材はこちらです」


 めちゃくちゃ手際のいいラチイさんが、どこから出したのかはよくわかんないけど、机の上にぽんっと何かを置いた。


 透明のぷるぷるしたこれは――


「スライム!?」

「ああ、よくご存知でしたね、智華さん」

「え、このスライムが型!?」


 私も知らない新事実!


 ぷるん、ぷるるん、ぷるぷるん。

 ぷるぷるっとしている透明なスライムは、透明な瓶の中に詰められている。


 え、このスライム、まだ生きてない!?


「このスライムを板状に伸ばして乾燥させたものに、版画のように絵を描いていただければ、それが型になります。可能でしょうか」

「描くだけならできるが……版画絵師のような技巧は、私には難しいよ」

「大丈夫です。あんまり緻密過ぎても、それはそれで智華さんのイメージとは離れるでしょうし……この絵の通りに描いてくださればいいんですよね、智華さん?」

「へぁ!? え、あ! うん! そうだよ!」


 スライムに気を取られていたら、急に話を振られちゃって驚いたよ!


 うんうんと頷きながらも、人生初の生きてるスライムから目を離せないでいれば、オディロンさんの苦笑が聞こえてきた。


「いいよ、引き受けた」

「ありがとう、オディロンさん!」


 やったー!

 頼んでみるものだね!


 これで理想の贈り物に近づける。

 私はわくわくしながら、オディロンさんの手にスライムの瓶を乗せてあげた。


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