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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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赤狼族の里【後編】

 ここ、異世界だよね?


 思わず周囲を見渡す。

 ラゼテジュの町とも日本の町とも違う、山里の風景。視線をちょっと前へ向ければ、ウッドハウスのような家が立ち並び、後ろを振り向けばすぐそこは森。


 そして目の前にいるのは、限りなく赤に近い茶髪と犬耳、そして同じ色の犬の尻尾を装備している、ジロー。


 そう、私の同級生、ジロー・山田・バルテレミー。

 夏休み中は実家に帰っているって言っていた、あのジローだよ!?


「えっ!? なんでジローがいるの!? ていうかなにそれコスプレ!?」

「はっ!? マジでお前笠江か!? お前こそなんでここに、つうかどっから現れたんだ!?」


 私もジローもパニックパニックで二人して指さし合って叫ぶ。


 隣りにいるラチイさんは周囲を見渡して、フィールはくるんと一回転してから、私の頭の上に落ち着いた。


『チーカ、知り合いン?』

「知り合いっていうか、同級生っていうか……えっ、ここ地球!?」

「地球じゃねぇよ! くっそ、マジでお前笠江かよ! 父さんが言ってたお前似の女ってマジでお前だったのか……!」


 そういえば随分前に、ジローのお父さんから目撃情報があったような話を振られたね。忘れてたけど!


「……予定の座標と少々ズレましたね。智華さんの存在定義の術式がご友人の存在に引かれて、着地座標がズレたようです。智華さん、そちらの方は赤狼族の方ですか?」

「えっ、知らない! ちょっとジロー、どういうこと!?」

「あーあー、うるせー、とりあえず、黙れ」


 ジローに詰め寄ったら、むぎゅっと頭ごと押し返されてしまう。無言で抗議の視線を向ければ、ジローは赤い三角耳をぴくりと動かして、私から視線をそらした。


「あんたは魔術師か? それでこの女を連れて転移してきた?」

「そうです。改めまして、俺はラゼテジュ王国第三魔法研究室所属のコンドラチイ・フォミナと申します。ずっと探していた妖精がこの近くに生まれると聞きまして、転移してきた次第です」

「あー……あんたが笠江のバイト先の」


 ジローが納得したように頷く。ため息交じりに髪をかき混ぜると、それからすっと背筋を伸ばしてラチイさんに向き合った。


「俺は赤狼族族長、ライデン・バルテレミーが第一子、ジロー・山田・バルテレミーだ。一応そこの宝石女とは知り合いなんだけど……うわ、説明めんどくせぇ」

「いや、説明めんどくさくてもして! なんでジローがここにいるの!?」

「あー……まぁ、それは休み明けに話すわ。とりあえず俺、これから仕事があるから」


 なんで異世界にジローが! という話に食い下がろうとしたのに、ガン無視される。私の代わりに、ラチイさんがジローの言葉に反応した。


「仕事ですか?」

「森の中に妖精の魔力が集中してんだよ。このままだと月ノ路になって、森に遊びに行く子供が迷い込みかねない。それの処理だ」


 なんか耳と尻尾のせいか、普段のジローとは全然違う人に見える。でもでも、話してる言葉も、あの顔も間違いなくジローで、私はものすごく混乱中。


『アラ、それなら大丈夫ン。今回は月ノ路にはならないワ』

「あぁ? どういうことだ?」

『半分、生まれてるノン。だから、もうすぐ生まれるワ』


 フィールが意味深なことを言う。

 私が頭の上のフィールに視線を向けようにも、彼女が頭の上でくつろいでるって感触しか伝わってこない。


 ラチイさんがハッとしたように視線を森へと向けた。


「なるほど……これから生まれる妖精は、月ノ路の力を持つ妖精なんですね?」

『ソウイウコト。さ、早く行かないと、消えちゃうわン』


 早く早く、とフィールが私の頭を叩く。

 私は仕方なく頷いた。


「なんだか分からねぇけど、魔力が集まっているところに行くんだな? 俺も行く」

「いいけど、邪魔はしないでよね」

「つか邪魔なのはお前たちだろうが。勝手に俺らの里に入ってきやがって……」


 ぼやくジロー。

 こっちだってジローがこんなところにいるなんて思ってなかったんだから、おあいこだよ。


「申し訳ありません。族長へは後ほど、俺から説明をさせていただきますから」

「……いや、いい。そっちのほうがめんどくせぇ。いいな、お前らは用事終わったらさっさと帰れ。説明も何も全部面倒だし」


 いやいやいや! 待ってよ山田ジロー!


「説明くらいは頂戴よ!? このこと麻理子には話してるの!?」

「くっそ、それ含めて説明が面倒なんだって! 笠江はとにかく黙ってろ!」

「そんな言い方ないじゃん! 大事な親友に隠しごとされてるほうが嫌だよ!」

「まぁまぁ、智華さん」


 ヒートアップする私とジローの言い合いを止めたのはラチイさんだ。

 ラチイさんはジローを見ると、優しく微笑む。


「なんとなくですが、貴方の立場は想像できました。智華さんには俺から説明しておきましょう」

「……なんか、すまねぇ。丸投げして。俺もまさかこんなことになるなんて思ってなかったから……あー……どうしよ……」


 なんかジローが落ち込んだように髪をかきまぜてる。耳と尻尾が垂れて、まるでその姿は。


「落ち込んだ犬」

「うるせぇ噛み殺すぞ」

「ラチイさん! ラチイさん聞いた!? めっちゃ凶暴なんだけど!?」

「狼族の獣人はプライドが高いですからね。智華さん、ご友人とはいえ、気をつけてくださいね」

「え!? 私が悪いの!?」

「悪口にならねぇと思ってるなら幼稚園からやり直してこい」


 ラチイさんからたしなめられるだけじゃなくて、ジローからも睨まれた。私そんな悪口言ったの!?


「いや、でも、耳と尻尾……あれ? というかそれ本物?」

「それ含めて全部パス。ほらさっさと用事終わらせに行け」


 しっしとジローに追い払われる。

 むっ、としていれば、ラチイさんに肩を抑えられた。


「智華さん、急ぎましょう。せっかく来たのに間に合わなくなれば、後悔するのは智華さんですよ」

「そうだった! 急がなきゃ!」


 ジローのことも気になりすぎるけど、今は横に置いておいて、フィールの案内で噂の妖精さんが生まれるという場所へと向かう。


 どんどんフィールは森の奥へと進んでいく。ジローも私たちの後ろからついてきた。


『偶然ダケド、転移先が近くて良かったワ』

「そうですね。まぁ、術師としてはこの失敗を重く受け止めるべきですが……」


 フィールとラチイさんがポツポツと話してる。

 私は二人の背中について行きながら、ちょっと歩く速度を緩めて、ジローの隣を歩く。


「ねぇ、ジロー。聞くけどさ」

「なんだよ」

「もしかしなくえも、ジローの実家って異世界(こっち)?」

「……そうだよ。文句あるか」

「文句っていうか……」


 正直、このままでいいのかなとは思う。

 だってこいつ。


「まだ麻理子にこのこと話してないんでしょ?」

「……話しては、いる」

「えっ? でも、麻理子、あんたの実家知らないって」

「信じてもらえなかったんだよ、俺の話。ぶっちゃけ、麻理子の天然っぷりに振り回されてる。そこも可愛いけど」


 ため息をつきながらもちゃっかり惚気けるジロー。

 私はついつい半眼になっちゃうけど、でもジローの言い分にも共感はできた。


「麻理子、ふわふわしているけど、ばりばりの現実主義だからね……」

「そうなんだよなぁ……それで今に至る。高校卒業までになんとか説得しねぇと、俺もヤバいし……」

「何がヤバいの?」

「男のジジョー。笠江は知らなくていい」

「言いなよ。隠しごとしてたっていいことないよ」

「うるせー。お節介はやめろ。これは俺と麻理子の問題。笠江には関係ない」


 じろりと睨まれてしまえば、私は肩をすくめるだけ。

 そんな拒絶しなくてもいいじゃん。

 私だって大切な親友のことだもの、知る権利あると思うのに。


「……いいし。今は聞かないでおいてあげるけどさ。麻理子の嫌がることをしたら、承知しないから」

「……おう」


 一応そこはわきまえているのか、ジローは静かに頷く。


 ついでにジローには話したいこと、聞きたいことがいっぱいあったんだけど……話しているうちに、目的の場所についてしまったようで。


 もう太陽も沈み、月が出始め、周囲も藍色に染まる時間。そんな森の木々の中、まばゆい銀の粒子が漂う場所があって。


 そこに近づくたび、私の胸がドキドキと脈を打ち始める。


「ら、ラチイさん……っ」

「おい、笠江?」

「智華さん?」


 思わず心臓がドキドキしすぎて、痛くなっちゃって。


 私がその場でうずくまると、ジローも一緒に足を止めてくれる。ラチイさんもこちらの様子に気がついて、顔色を変えた。


「智華さん、どうしましたか」

「ど、ドキドキしすぎて……心臓痛い……」


 戻ってきてくれたラチイさんもしゃがんでくれる。

 私の顔色を覗いて、うずくまる私の手を取った。


「……魔力の乱気流に、過敏反応しているようです」

「過敏反応? 地球人のこいつが?」

「智華さんは珍しく、魔力がなくても魔力を感知する能力を持っているんです。それも魔宝石の素材に宿る極小の魔力ですら感知できるくらいの感知能力を。その能力が今、妖精を形成しようと活性化しているこの場の魔力に、過剰に反応しているのかと」

「おい、大丈夫かよ、笠江」


 だんだん心臓の痛みが強くなってきて、冷や汗をかき始めた私に、ジローが声をかけてくれる。

 だけど私は、その言葉に返せるような余裕もなくて。


「少し距離を取りましょう。フィール・フォール・リー。かの妖精が生まれたら、呼んでください」

『わかったワ。チカ、待ってて頂戴ン』


 フィールが銀の粒子が集まる場所へと飛んでいく。

 それをなんとか見送ろうとすると、不意に視界が持ち上がった。


「う、わぁっ」

「智華さん、一旦離れましょう。過剰反応を起こしたまま、魔力を浴び続けると身体に負担がかかってしまいますから」


 気がついたら、ラチイさんに横抱きにされて運ばれていた。まさかまさか、これはもしかして……!?


「お姫様抱っこ……!? えっ、別の意味でも心臓痛くなる!」

「大丈夫ですか?」

「馬鹿やってろ」


 私がテンパっていると、さらにラチイさんに心配をかけさせてしまう。なのに横のジローは半眼で冷たい反応。


「ジロー、それ、麻理子にも同じこと言えるの?」

「言うわけねー」

「智華さん、無理はしないほうが」


 ラチイさんにたしなめられてしまったので、私は大人しくすることにした。


 うぅ〜それにしても心臓、めちゃくちゃ痛い。ラチイさんは過敏症だのなんだのって言ってたけど、私の体、大丈夫?


 来た道を引き返してくれたラチイさん。なんだかんだいって、ジローも一緒に着いてきてくれる。少しすればだんだんと心臓の痛みも落ち着いて、私は強張っていた身体から力を抜いた。


「智華さん、だいぶ離れましたが、体調はどうですか?」

「もう平気。びっくりしちゃった。ありがとう、ラチイさん。そろそろ歩けるよ」

「いえ、このままで。足元も暗くなってきましたし、触れているほうが、魔力の調整をして差し上げられるので」


 お、おぉう……こんなところでラチイさんの紳士力が爆発したよ! いいよ! そこまでしなくても大丈夫だよ!


 そう主張したいけれども、私の中でその主張をするのがものすごく恥ずかしいっていうのもあって葛藤してしまう。これは好意、ただの好意……!


『アナタたち、月光と夜風のが生まれたわよン』


 自分に言い聞かせていたら、ちょうど良いタイミングでフィールが戻ってきた!


「だって、ラチイさん! 作業しなきゃだし、やっぱりおろしてくれるかな?」

「分かりました。智華さん、気分が悪くなったらすぐに言うように」


 ラチイさんと約束をして下ろしてもらう。やった、地面さん、さっきぶりです!


「笠江、お前も結構……」

「なに?」

「いや、過保護なやつがいるもんだなと。お前、あいつに幼稚園レベルに見られてんじゃね?」

「ぐっ!? そ、そんなはずはないと思うよ!?」


 ちょっと空気読んで黙っていたと思ったら、その言様はひどいんじゃないかな山田ジローくん!

 さすがにそこまで子供には見られてないと思うよ!?


 そう思いつつも、私の今までのアレコレを思い返してみて……うん、大丈夫、ラチイさんより多少子供っぽくても、幼稚園レベルでは断じてないよ!


「ま、お前らがそれでいいなら、俺も口出さねぇけど」


 なんだかジローが意味深なことをこぼした。


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