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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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共同制作、しませんか?

 夏休みが始まり、四日目。

 私は約束通り、ラチイさんのお家にお泊まりに来ました!


 いつもの魔法陣でラチイさんの工房に着地した私は、意を決してまぶたを開く。眼の前の棚には、やっぱりドラゴンの生首。


「……そろそろあのレッドドラゴンにも慣れてきたかもしれない。慣れたくないけど」

「ははは。それは良かったです。狩ってきた騎士団も報われます」


 そういえばこのレッドドラゴン、ラチイさんのお友達のロランさんの部隊が狩ってきたんだっけ? 前にそんなことをふわっと聞いた気がする。ロランさん、騎士団で元気にしてるかなぁ。


「じゃあ智華さん、荷物はいつもの部屋にどうぞ」

「はーい」


 ぱぱっと荷物を借りている部屋に置きに行く。

 荷ほどきとかは特にしないけど、着替えとかとは別で持っていたトートバックだけ持って、ラチイさんのいる居間へと戻る。


「ラチイさん! さっそくだけど、デザイン確認して!」

「一服しなくても大丈夫ですか? 魔力酔いとかは」

「全然! それよりデザイン見てほしい」


 居間にある簡易キッチンでマグカップに珈琲をいれていたらしいラチイさん。笑いながらも、注いだ珈琲を持ってきてソファーに座る。


 私もその隣に座ると、ラチイさんはローテーブルにマグカップを置いた。私の分の珈琲はカフェオレにしてくれたみたい。ありがとう!


「デザインを確認してほしいとのことですが、どのような感じでしょうか」

「これ! どうかな?」


 私はスケッチブックのページの一つを開く。


 私がティターニアさんへのプレゼントとして考えた魔宝石。

 それは、蝶々のイヤリング。


 なん通りもの蝶々がスケッチブックに描かれていて、そのうちの二つに赤丸がついてる。

 一つは花の蜜を吸っているときのような蝶の姿。

 もう一つは羽を広げて空を飛んでいるイメージの蝶。

 羽の模様のパターンも何通りか考えているから、ここは要相談したいところ。


 スケッチブックごと手渡せば、ラチイさんはじっくりとデザイン画を見定め始める。


「デザインは素敵だと思います。ただ、智華さんはこの魔宝石にどんな願いを込めたいんですか?」

「ティターニアさんが、オディロンさんと会えるように。オディロンさんが、ティターニアさんと会えるように、って」

「そうですか……智華さんらしいですね」


 ラチイさんはそう言って目を細めると、まぶしそうに私を見る。

 だけど、それもすぐに真面目な表情に切り替わった。


「先日も言いましたが、人間が妖精界に行くというのは、現実的に無理難題に近いものがあります。転移の魔法を使って行けたとしても、時間の流れが違えば、着地座標に対する確率も変動し、失敗する確率もあがります」

「ちょっと待ってラチイさん! 私その話聞いていない!」

「転移魔法の仕組みをこの間、話しませんでしたか?」

「そっちじゃなくて、時間のほう! 禁術云々は聞いたけど、時間の流れが違うと、転移魔法って失敗しやすいの!?」

「そうですよ。時間と空間の関係は話していませんでしたか。すみません」


 ラチイさんから、あれ? と珍しく目を瞬かせているレアショットをいただきましたが、大事なとこ抜けてたね!


 禁術だからダメダメ言われていたんだと思ったんだけど、他にもリスクがあるなら、ラチイさんが渋るのも納得。


 でも、私は。


「できるかどうかは分からないけどね。でもラチイさん、私、挑戦してみたい。やる前から諦めたら成功はゼロだけど、やってみたら案外できるかもしれないし!」


 だからお願い、と手を合わせて頼み込めば。

 ラチイさんは困ったように眉尻を下げて笑った。


「仕方ありませんね。そもそも、俺が智華さんを巻き込んだものですし……いいでしょう。智華さんのやりたいようにやってください。智華さんの願いが魔宝石の魔法を創るのですから」

「やった! ありがとう、ラチイさん!」


 正直、無謀なことはやめろって言われそうだったから、もしそうなったらまた一から考え直しするつもりだった。でも、ラチイさんが理解のある人だったからオッケー出たよ!


「それでこれらの素材ですが」

「うん。樹液はできれば紫のがほしい。あとラメパウダー……えぇと、妖精の鱗粉! これ、銀色はまだないんだよね?」

「残念ながら。フィール・フォール・リーも言っていましたが、やはり銀の鱗粉の妖精はまだ会ったことがないそうです」


 首をふるラチイさんに、私はあらかじめ想定していた代案を提案してみる。


「じゃあ、せめて銀に近い妖精の鱗粉採取したいな。白とかは?」

「白なら大丈夫かと」


 よし、それなら白でいこうかな。

 銀色がないなら仕方ないもんね。


「他に必要なものはありますか?」

「型! 蝶々の型ってある?」

「モールドですか? 枠ですか?」

「モールド!」

「モールドはありませんね……あ、そうです。丁度いいので、型の発注をしに行きましょう」


 えっ、型の発注?


「なかったら、私が適当にシリコン粘土で作ろうと思ってたんだけど」

「こういうのはプロに任せたほうがいいですよ。それに智華さんの蝶、デザインはいっぱいありますが、どれも近いものを感じます。ティターニアの頭の蝶ですよね?」

「あ、バレてた」


 あちゃー、記憶を頼りになんとなくでデザインしてたのに、ラチイさんにはお見通しだったらしい。さすがだね!


「この蝶のデザインであれば、とても相応しい人がいらっしゃいますよ」

「え、だれ?」

「智華さんもこの間、会ったではありませんか。その人のために、この魔宝石を考えたんですよね」


 私が会ったことあって、その人のために魔宝石作りたい人……あっ!


「オディロンさん!」


 そうだね! あの人ならきっと、ティターニアさんの頭の蝶を綺麗に描いてくれるかも!


「では早速ですが、オディロンさんの元へと行きましょうか」

「でも、個展は終わっちゃったんだよね。オディロンさん、もう帰っちゃったんじゃない?」

「ティターニアの生誕祭が近々ありますとお伝えしたら、しばらく王都に滞在するとおっしゃっていましたよ。できることなら、妖精に預けてでも自分も贈り物がしたいと言って」

「そっか! なら会えるね!」


 さすがラチイさん! 手際がいいというか、気配り上手!


 じゃあ突然のお宅訪問だけど、オディロンさんのところに行っちゃおう! デザイン起こしてもらうなら、早いほうがいいもんね!



   ◇   ◇   ◇



 オディロンさんの下宿先は、前に連れて行ってもらったパスタ屋さんの店主の家らしい。


 ラチイさんの案内で訪ねてみれば、ちょうど食事をしたときに案内してくれた店員さんがその家の人だったらしく、快くオディロンさんの泊まっている部屋まで案内してくれた。


「オディロンさん、こんにち……うわぁっ!?」

「おやおや」


 ノックをして、どうぞの声が上がったので扉を開けてみれば、お部屋がとんでもないことになっていた。


「ん……? ああ、コンドラチイくんと、チカさんか。すまないね、今ちょっと散らかっていて」


 そう言うオディロンさんは、部屋の奥のテーブルにいるんだけど……部屋中の床が紙で埋まっていて、足のふみ場がないんだよね。第三魔研の、ダニールさんの部屋みたいだよ。あれよりはマシだけどね!


「お邪魔します……?」

「お忙しいようなら、出直しますが」

「いや、大丈夫だよ。私一人だと行き詰まっていたところだから」


 足元にまで届いていた紙を拾いながら、オディロンさんの部屋に入っていく。拾った紙を見ていると、全部同じ女の人の絵ばかりで。


「これ全部ティターニアさんだ」

「こんなに書き散らして、一体何を?」


 ラチイさんも手近な紙を拾い集めながら部屋に入ってくる。ようやくオディロンさんのいるテーブルのところまで近づけば、オディロンさんは困ったように笑いながら、頬をかいた。


「ティターニアへの贈り物をね、考えていたんだよ。彼女が喜ぶものは何か、似合うものは何か……。頭の中だけだとあれもこれもよくて決められなかったから、こうして描いて、見比べていたんだよ」


 オディロンさんの行動力とティターニアさんへの愛がすごすぎて、思わずラチイさんと顔を見合わせてしまう。ラチイさんもびっくりだったらしくて、目がちょっと丸くなってる。


「見比べるっていっても、これだけ描いちゃうと決められなさそう……」

「チカさんの言う通りだよ。女性への贈り物なんて何十年ぶりだからね……王都の流行も変わりすぎていて、男の私にはもう分からないよ」


 困ったように笑うオディロンさん。

 そんなオディロンさんに朗報です!


「じゃあ、ってわけでもないんですけど、オディロンさん。プレゼントが決まってないなら、私と共同制作しませんか!」


 そんな状況なら、私達がここに来た理由もお願いがしやすいというもの! さっそくオディロンさんに、ここに来た目的を話してみる。


「私、魔宝石を作ってるんです。その魔宝石をティターニアさんへの贈り物にしようと思っているんですけど、うまくデザインが描けなくて」

「デザイン?」

「はい! というのも、ティターニアさんの頭の蝶をモチーフにしたいんですけど、一回だけしか会ったことなくてですね……それでオディロンさんにそれを描いてもらえないかな〜、って思いまして」


 オディロンさんは納得したようにうなずく。

 それから散らばっている絵の紙を一枚手にとった。

 なにか考えるように絵を見つめている。


「私一人じゃ限界があって、このままだと納得できる作品にはなりそうにないし。それにこの魔宝石は、オディロンさんのためでもあるんです。だからどうか、お願いできませんか!?」


 誠心誠意、心を込めて頭を下げる。


 多分私の作るデザインじゃ、思ったような魔宝石にならない。

 いつもなら真っ直ぐに心がときめくようなデザインがイメージできるのに、ティターニアさんのために作りたい魔宝石のイメージに、まだ靄がかかってるんだ。


 その靄を、オディロンさんなら払ってくれそうな気がして。


 オディロンさんが視線をあげる。

 そこには優しい微笑みが浮かんでいた。


「いいだろう。手伝ってあげるよ。私のデザインをチカさんが魔宝石にしてくれる……とても素敵な贈り物になりそうだ」

「やったぁ! ありがとうございます!」


 オディロンさんからイエスのお返事をいただきました!

 満面笑顔でラチイさんを振り向けば、ラチイさんもにこにこと笑顔。


「良かったですね、智華さん」

「うん! オディロンさん、よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくね」


 ここにチーム智華・結成!

 素材担当のラチイさんと、魔宝石担当の私、そこに加わった最強助っ人、デザイン担当のオディロンさん!


 ティターニアさんの贈り物、素敵なものが作れるといいな!


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