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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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これはいわゆる異世界チート

 オディロンさんをティターニアさんに会わせてあげたい。

 ティターニアさんをオディロンさんに会わせてあげたい。


 だからプレゼントは、オディロンさんとティターニアさんを会わせてあげられるようにする、そんな魔宝石にしたいんだけど。


「ラチイさんって、妖精界がどこにあるのか知ってる?」

『残念ながら。前にもお伝えしたように、妖精界については分からないことが多いのです』

「そっかぁ。じゃあ検証のしようもないねぇ」

『何か確認したかったことがあるんですか?』


 麻里子たちと浦島太郎の話をした日の夜。

 明日から夏休みだ〜、とベッドでごろごろしながら、今日、麻里子たちと話していた「ウラシマ効果」の話をラチイさんに相談してみたんだけど。


『地球の科学は本当にすごいですね。なるほど光の速さと体感時間の関係ですか……とても興味深いですが、これを証明するには、智華さんの考えるように、人間界と妖精界の物理的距離を測るしかないですね』

「だよね〜。行ったことある人はいるのに、場所は分かんないものなの? フィールとかに聞いてもだめ?」

『物理的な距離までは把握できないでしょうね。少し調べましたが、人間が妖精界に迷い込むのは月ノ路を使うときだそうです。妖精の場合は彼らが使う路を使うようで、移動手段としては異世界転移に近いもののようですよ』

「そうなんだ」


 やっぱり普通に道を歩いたら行けるようなものじゃないんだね。


「じゃあ、過去に戻れるような魔宝石を作るしかないかなぁ。ねねね、ラチイさん。そういう魔宝石って、できると思う?」

『そうですねぇ……。魔術よりも複雑な魔法を発現することもある魔宝石なら可能だとは思いますが……』


 ラチイさんの歯切れが悪くなる。

 なにか問題でもあるのかな?


 ごろりと寝返りをうちながら次の言葉を待っていると、ラチイさんはおもむろに答えてくれた。


『魔法のルールとして、時間を操るようなものは禁忌とされるものが多いです。特に過去に行くようなものは、未来への影響を及ぼすとされているので、禁術指定が入るでしょう』


 それこそ、もし私がそんなものを作っちゃったら、危険物として封印されかねないと言われてしまう。そんなことになったら、贈り物どころじゃないよ!?


『ですので妖精界から戻るときに、単純に過去へと戻るだけの魔法を魔宝石にこめるというのは、現実的に考えて辞めたほうがいいかと』


 電話越しに聞こえるラチイさんの声。

 結構いいアイディアだったと思ったから、残念。


「分かった。過去に戻るような感じの魔宝石は諦めるけど……でもさ、ラチイさん。前に日本に来るとき、時差があるからちょっと時間をいじってるって言ってたじゃない? あれはいいの?」

『智華さんは鋭いですね。正直に言えば、かなり黒寄りのグレーゾーンです』

「だめじゃん! え、大丈夫なの!?」


 ははは、とスマホの向こうからラチイさんの笑い声が聞こえるけど、それ、笑い事じゃないよね!?


『ざっと単純計算で、日本とラゼテジュの間には六時間の時差がありまして、それを常に魔法で調整してます。他の方には内緒ですよ』

「わ、わぁ……」

『この時差を調整しなかった頃……俺がまだ智華さんと出会う前なのですが。ラゼテジュに帰ったときの時差ボケがひどかった記憶があります。懐かしいですね』

「え!? そうだったの!?」


 時差があるとはふわっと聞いてたけど、時差ボケが起きるくらいあったの!?


『それで智華さんとお会いするようになって、この時差ボケをどうにかしたくて、禁術スレスレの魔法を組み込みました。幸い、俺の魔力はこういったものと相性が良く。俺の工房の転移用の魔法陣を経由することで、常に日本からは六時間後のラゼテジュへ。ラゼテジュからは六時間前の日本へとアクセスができるようにしています』

「わぁ……」


 なんかとりあえず、ラチイさんがすごいことをしてるのがわかった。日本からは未来のラゼテジュに、ラゼテジュからは過去の日本にアクセス……つまりは過去と未来を行ったり来たり……。


「えっ、じゃあこれとおんなじことしてあげたら、オディロンさんを妖精界に連れて行ってあげたりできるんじゃ!?」

『無理です。先に言いましたが、まず前提として、俺がやってることは禁術指定ぎりぎりの行為です。その上、俺が今現在負っているリスクを考えると、そう簡単にやるものではありません』


 うん……うん? どういうこと? リスクって?


『転移魔法陣そのものが危険なんですよ。智華さんはどうやってラゼテジュと日本を行ったり来たりしていると思いますか?』

「ほわっつ」


 そんなのわかりません!

 魔法陣が足元でピカッて光ったら、あら不思議、もうラゼテジュに到着! ってのがもう定番になってるよね!


『魔法学的に言えば肉体を魔力化し、魔力化した肉体を別座標に転移させています。座標の指定には確率的な要素が強く、魔法発動時にその確率部分をいかにコントロールするかが鍵になります。なのでその確率を固定するためにも、前提として俺が行ったことのある場所である必要があります。また座標指定がうまくいっても、転移後の肉体再構築に必要な存在定義に失敗すると悲惨なことになりかねません』

「ええと……そんざいていぎ?」


 ラチイさん、流暢に話してくれるけど、言ってることが半分も理解できないよう!


 肉体を魔力化? つまりはワープはしてるんだね? その位置はかくりつ? ん? 確率? ええと、それで肉体を? 存在定義?


『有り体に言えば、再構築後の姿を強くイメージできるかどうかです。座標の指定と存在定義、これらが不完全だと、転移後、人体欠損や記憶欠如、最悪の場合、魔力化したまま自然界に溶けることもあるといいますから』

「こわっ! 時間云々よりも転移のほうが危険じゃない!?」


 思わずガバッと跳ね起きる。近くのクッションを抱きしめながら抗議の声を上げれば、ラチイさんは。


『安心してください。俺、本当に転移魔法は国一番どころかこの世界一と自負できるくらいには得意なので』

「めっちゃ自信満々じゃん。そんなに言うなら、まぁ……」

『智華さんに出会う前も、座標指定無しで他の異世界とか別の国へと転移であちこち行っていましたが、ほとんど失敗したことはありません』

「待って、ほとんどってところに不安を覚えるんですけど!?」


 飄々と言ってるけど、本当に大丈夫なの!? 私、めっちゃ危ない橋を渡ってる!? 綱が切れそうなギリギリな感じの吊り橋的な!?


 一人ではわはわしていると、ラチイさんの落ち着いた声がスマホから聞こえてくる。


『本当に大丈夫ですから。智華さんの転移に関しては制御に失敗しないよう、万全を期しています。俺が失敗することはありえません。神に誓ってもいい』


 真剣なラチイさんの声が耳元をくすぐる。

 その声に、ちょっとドキッとしてしまった。

 宝石とは違う胸の高鳴りに、私が何も言わずに黙っていると。


『……智華さん? やはり、不安でしょうか。王女殿下の一件依頼、俺も依頼しやすいからと気軽にお誘いしてましたが……もし不安であれば、今後は自重するようにします』


 少しだけ気落ちしたような、そんな声。

 私はまた慌てた。


「違う違う! 大丈夫だから。ちょっとびっくりしちゃっただけ。私も異世界行くの楽しいし、またフィールにも会いたいし、何よりラチイさんの工房のほうが居心地よくて作業もはかどるし! できるならドラゴンの生首は撤去してほしいけどね!」


 あわててラチイさんに答えつつ、ちょっとお茶目を交えながら主張すれば、スマホ越しにラチイさんの安堵する吐息が聞こえてきて。


『……俺も、智華さんのいる工房は明るくて、気持ちのよい風が吹き込むように、居心地がとてもいいんです。なので仕事があろうとなかろうと、遊びに来たければいつでも来てくださってかまいません』

「またまたー。そんなこと言っちゃうと、夏休み中、そっちに入り浸っちゃうよ?」


 ちょっとしんみりしちゃった空気。

 そんな空気、私らしくない! この空気を一掃したくて、冗談のつもりで、ついついお調子者のようなことを言ったら。


『いいですよ』

「え?」

『ティターニアの魔宝石について、こちらにいらっしゃってくださったほうが俺としてもやりやすいですし。一泊とは言わず、好きなだけ泊まって頂いて大丈夫ですよ』

「ほ、ほんと?」


 ラチイさんの気軽さがすごい。

 冗談のつもりだったのに。

 そんなこと言われちゃったらさぁっ!


「行くよ! 行く行く! 私行く! あっ、ちょっとまって! 学校の部活もあるから、スケジュール確認する!」


 ベッドからクッションを放り投げる勢いで飛び出して、スマホ片手にスケジュール帳をスクールバックから取り出した。部活の予定とか、友達との予定とか、確認してみる。


「ラチイさん!」

『はい』

「ティターニアさんの贈り物の日って、次の満月だよね? あと何日?」

『まだ半月ほどありますよ』

「じゃあ決めた! 明後日は部活があるから、その後からしばらくラチイさんのとこ行って、ティターニアさんの贈り物作りに集中する! このプランでどう!?」

『いいですよ。是非お待ちしています』


 スマホ越しに、ラチイさんが楽しそうに笑う声が聞こえた。

 そうと決まったら、私も楽しみになってきた!


『あ、智華さん。長期外泊ということで、お迎えに上がるとき、ご両親にご挨拶させてくださいね』

「えぇー、そんなのいいよー」

『大切なお子さんをお預かりするのですから、当然です』


 もー、ラチイさんったら、子ども扱いー!


「私からちゃんと説明するのに」

『俺なりのけじめですよ』


 むぅ、そんなにまで言うならいいけどさぁ。


「今回はお仕事じゃなくて、友達としてラチイさんのところに行くのに?」

『……友達?』


 えっ、なんで聞き返されたの!?

 はっ、まさかっ! ラチイさんの中で実は私って友達未満……!? 仕事のみのギブアンドテイクな関係だった!? 遊びにきての言葉ってやっぱり社交辞令的な!?


 そう思ったら、私の早とちりが急に恥ずかしくなっちゃって。


「ごめんごめん、私の言葉のあや! ちゃんとお仕事するよ! ティターニアの魔宝石作らないとだもんね! デザインも方向性も全く決まってないんだから、お仕事頑張らないとね! フィールに呆れられちゃうよね!」


 あ〜〜〜! 恥ずかし、恥ずかし!

 この恥ずかしさを紛らわすように早口に喋っていたら、ラチイさんから呼びかけられた。


『智華さん』

「ふぁい!?」

『ふふ。友達ですよ。仕事のこと以外に、もともと俺がフィールの件で相談をかけたんです。俺も智華さんのこと、友人だと思っています。……改めていうと、照れくさいものですね』


 私は思わず耳元からスマホを外して、液晶を顔見した。残念、ビデオ通話ではないのでラチイさんの表情は見えません! 知ってた!


 今、ラチイさんはどんな顔していたんだろう。

 ちょっぴり頬を赤くしてるのかな。それとも、優しく微笑んでいるのかな。


 液晶にちらりと反射している私の表情は。


「〜〜〜っ! そうだね! 私たち、友達だから!」


 嬉しさを全面にだした満面の笑顔。

 ラチイさんの友達! ラチイさん公認!


 なんだか嬉しくって、ほっぺがゆるゆるとゆるんでしまった。


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