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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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42/105

夏休み前の教室で

 太陽燦々、真夏の季節。

 先週ちょうど中間テストも終わり、気がつけばもう、こんな時期。


「なーつやすみだー!」

「だねー」


 成績表をもらい、明日から夏休みですよと先生から夏休みの心得を聞いたショートホームルーム。

 それが終わって、いえい! っと麻理子とハイタッチ!


「おーおー、笠江勝負しようぜ。成績表、合計点数勝ったほうが、夏休み麻理子を独り占めな」

「はぁ? そんなのいやだし。万年オールファイブの山田ジローと勝負とか無謀すぎる」

「うっし、じゃあ笠江はリタイアってことで、不戦勝の俺の勝ち! 麻理子、デートしよう!!」

「ジロー、落ち着いて?」


 白い歯を見せてニカッと笑うジロー。まるで尻尾を振る犬のよう。その笑顔にあてられて、クラスメートの頬が赤くなっているよ! このイケメンめ!

 だがしかぁしっ!


「山田ジロー、忘れているようだね」

「は? 何が?」

「私と麻理子は同じ部活だもん。夏休み独り占めとか言ってるけど、部活がある日は私は麻理子と会えるからね!」

「し、しまった!」


 夏休みも部活あるからね! というか、夏休みは麻理子も作品制作に忙しいでしょ!


「コンクールは、秋の文化祭終わったあとだよね? 夏休みはやっぱり部活に通う?」

「うん。作ってたドレスはやっぱりコンクールに出したくなくて、新しいやつを一から作るつもりなの。文化祭の準備もあるし……。だからごめんね、ジロー。毎日は会えないかなぁ」

「嘘だろ……!? 俺、麻理子さそって実家に帰ろうと思ってたのに……!」

「何ちゃっかりしてるのさ」


 夏休み、しれっとご両親に麻理子を紹介する算段だったとみた! 残念でしたー!


「くそ、夏休みくらい長い休みじゃないと、実家に帰れねぇのに……」

「いい加減教えてほしいんだけど、ジローの実家ってどこなの?」

「大気圏突破してもいけないとこ」

「ふざけるのも大概にしなって!」

「ふざけてねーしー」


 ジローはいつも実家の話になると話をそらす。

 仕方ねぇなーとか言いながら、ジローは手に持っていた成績表はブレザーのポケットへ。麻理子の背後に回ると、麻理子を背中からバックハグした。麻理子の顔がぽんっと赤くなる。


「ちょっ、しれっとイチャつかないでよ!」

「うるせぇ宝石女。俺はしばらく麻理子から離れねぇ。実家に帰る前に麻理子を補充する」


 そんなこと言っちゃって、ジローはすりすりと麻理子にすり寄る。視界の暴力! いま夏! 見ているだけでもその密着は暑いんですけど!?


「ジロー、夏休みは実家に帰るの?」

「そ。ごめんな、麻理子。本当は麻理子も連れて帰りたかったんだけど……やりたいことあるんだろ?」

「うん……ごめんね、ジロー」

「大丈夫だ。お守りは持ってるだろ?」


 抱きつかれている麻理子はひっついているジローを邪険にすることなく、むしろよしよしとちょっと後ろを向いて頭を撫でてあげている。麻理子優しすぎる、とか思っていたら、私の知らない話。


 なになに、お守りって?


「持ってるよ、大丈夫」

「なら平気だ。俺は麻理子のところに帰ってくる。一ヶ月の間、麻理子に会えないのが寂しいよ」

「私もだよ、ジロー」


 ジローが麻理子になにかをあげたらしい。私、その話知らないんだけど。ちょっと麻理子、仲間はずれにしないで〜!


「そうだ、智華ちゃん」

「んはぁいっ!?」

「何だその返事」


 私の麻理子に何をあげたんだ〜っ! ってジローにジェラっとしていたら、急に麻理子に話しかけられた。浅ましい私の内心に気づかれたのかと思っちゃって多少オーバーなリアクションをとってしまったら、呆れたようにジローに突っ込まれる。


「普通だし」

「普通の女はそんな悲鳴あげねー」

「あげるし!」


 山田ジローくんは女子に夢見過ぎだよ! 麻理子を基準にしたら肉食系ヤバヤバ女子見た瞬間、卒倒しかねないよ!


「ジロー、ごめんね。私ちょっと、智華ちゃんと大事なお話したいんだ」

「仕方ないなぁ。少しだけだぞ」


 ちゅ、とジローが麻理子の頬にキスをして離れた。

 私は半眼。周りのクラスメートは騒然。


「じ、ジロー……っ」

「これくらいいいだろ。マーキング。笠江ばっかかまってんなっていう俺の主張」

「もうっ」


 麻理子が顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

 もうこれジロー処していいかな。

 決闘だよ、決闘。決闘種目は何がお望みか。


 そんなことを思っていたら、麻理子が机の横にかけていたスクールバックからごそごそと何かを取り出して。


「智華ちゃん、この間、ティターニアさんへのプレゼントに悩んでいたでしょう? まだ決まってないなら、これ、参考にならないかなって」


 そう言って渡されたのは、一冊の雑誌。

 麻理子がよく買ってる、手芸雑誌だ。

 受け取ってパラパラめくってみると、麻理子が目次のページで指をさす。


「ここ、妖精モチーフ集。ちょうどティターニアさんの話をしてたじゃない? 妖精女王の名前からとった人なら、こういう妖精イメージのアクセサリーとか、どうかなって」

「わぁ、麻理子、頼りになる〜!」


 そういう麻理子の気がきくところ、愛してる!

 えへへ、と笑ってる麻理子に抱きつけば、ぐいっと身体が後ろに剥がされた。


「笠江、それは俺の特権だっ」

「心がせまいやつは嫌われるよ、山田ジローくん」

「麻理子はこんなことで嫌わねぇよ、この宝石女」

「宝石女って言うなし!」

「じゃあてめぇもいい加減ミドルとファースト繋げて読むのをやめやがれ!」


 わぁきゃあとジロー騒いでいると、麻理子がおっとりと笑った。


「仲良しだね、二人とも」

「「仲良くない!」」


 こんなやつとハモるなんて!

 ますます仲がいいねと笑われてしまって、ちょっと遺憾の意!


 むむむ、とジローを睨みつければ、向こうもこっちを睨みつけてくる。本当、私とジローは相性悪い!


「そうだ、智華ちゃん。この間コンドラチイさんのところでティターニアさんのこと聞いてきたんだよね。好みとかって聞けた?」

「好みは聞けたけど……なんというか、博愛主義者みたいな人で、人間大好きーみたいな人だったなぁ」

「なんだ、ちゃっかり本人に会ってきたのか」

「たまたまね。あ、そうそう、これもまた偶然だったんだけど、ティターニアさんの恋人っぽい人にも会ったんだ!」


 ぽんっと手を叩いて思い出せば、麻理子とジローが、首を傾げる。


「恋人っぽい人?」

「恋人じゃねぇのか」


 私も首を傾げる。


「相手の人からティターニアさんに片思いしてるって聞いたんだ。また会いに行くってティターニアさんと約束して、ティターニアさんもその人をずっと待ってるみたいだったの。だけどティターニアさんのいる場所はとても遠くて、相手の人も今の生活も手放せなくて、会いに行けずに葛藤してるみたいだった。前に会ってから、もう三十年くらい経つって」

「おっさんか」

「こら、ジロー」


 本人から直接、恋人って聞いたわけじゃないけどさ。かくかくしかじかでと、どういう状況なのか話したら、ジローが悪態をついて麻理子に怒られた。


「でも智華ちゃん、二人に会ったんでしょう? 恋の架け橋、かけてあげたらどうかな」

「そうしてあげたいんだけど〜。それが簡単にできたら苦労しないよ〜」


 妖精界のことを話してもいいけど、前にラチイのところでの話をしたら、完全に流されちゃったからなぁ。お父さんとかお母さんみたいに、私が異世界に行ったり来たりした瞬間を見てもらえれば信じてもらえるだろうけど、難しそうだし。


「んー……そうだ。例えば麻理子はさ、浦島太郎になっちゃったらどうする? 乙姫様に会いに行く?」

「どうして急に浦島太郎なの?」

「えぇと……ティターニアさんめちゃくちゃ見た目若くって。でもそのお相手の方はすごく年相応の見た目になっちゃったから……?」


 突拍子もない話だし、理由にしてはなんか微妙なラインな気がするけれど、とりあえず参考までに。

 麻理子は首をひねりながらも、真剣に考え込んだ。


「とりあえず、亀は助けるよ」

「だよね」

「でもそれって当然のことだし、お礼をもらわない」

「まさかの序章で終わっちゃったし、乙姫様にも会えてない!」


 私が聞きたかったところまでいかなかったよ!

 そこが麻理子のいいところだけと!


 思わず天井を仰げば、視界の端でジローが麻理子の頭を撫でているのが見えた。


「麻理子は可愛いな」

「えっ、なんで?」

「そういうとこ。だけどこの場合、笠江が聞きたかったのは、玉手箱開けた後に乙姫に会うかどうかじゃねぇの? 浦島太郎といえば、だし」

「ナイスフォロー。悔しいけどその通りだよ、次郎くん」

「なんか今発音がおかしくなかったか?」

「気のせいだよ」


 小さいことを気にしてたら世界は回らなくなっちゃうよ!

 うんうんと頷いていれば、麻理子は「え〜」と困ったちゃったと眉を下げてしまった。


「竜宮城に行っちゃったら、百年経っちゃうんだよね……自分の知っている人がみんないなくなるほうが嫌だな……。乙姫様と恋はできないと思うけど、優しい浦島太郎なら村でも素敵な恋ができると思うの」

「そっかぁ」


 結論、浦島太郎は竜宮城にいかないほうが幸せだった。

 はい、哲学です。


 麻理子の言葉に同意していれば、ジローが麻理子の頭を撫でながら、とんでもないことを言い出した。


「つうかそもそも、玉手箱がタイムマシンだったら良かったんだろ」

「はい? どういうこと?」

「だからタイムマシン。竜宮城と浦島太郎のいた陸は時間の流れが違うんだろ? そのまま返してやるんじゃなくて、時間を遡って返してやればよかったじゃないか」

「そんな無茶な」

「無茶でもないぞ。玉手箱を開けたら歳を取れるなら、遡れるんじゃないのか?」


 いやいやいや。

 そんなの暴論すぎる。


「そういえば、なんで年をとっちゃう玉手箱なんだろうね。贈り物するなら、もっといい物もあったと思うのに」


 麻理子がふと気になったようにぽつりと呟く。

 そう言われてみれば、私も気になってくる。


「海なら真珠とか珊瑚とか、宝物になりそうなのにね。ジローはそういうの知ってる?」

「おい、俺が何でも知ってると思うなよ。自分でググれ」

「冷たーい。麻理子、こんな男でいいの?」

「一言余計だ、宝石女」


 がるるる、とジローとまたまたにらみ合う。

 にらみ合っている間、おもむろに自分のスマホをだした麻理子が「あっ」と声を上げた。


「ちょっと面白いもの見つけたよ」

「え、なになに?」

「玉手箱とはちょっと違う話なんだけど、ウラシマ効果って知ってる?」

「全然わかんない」


 私とジローが言い合っている間に、麻理子がスマホで浦島太郎をググってたみたい。麻理子が素直すぎて心配になっちゃうよ。


 でもでも、麻理子がスマホで見つけたらしい面白い情報のこと、私は何も知らなくて。癪だけどジローを見てみたら、ジローも首をひねっていた。


「ウラシマ効果ってなんだ?」

「えっとね、光の速さのお話なんだけど。例えば光の速さで動くと、周りは時間が止まっているように感じるんだって」


 えぇ?

 麻理子がスマホで見ていた記事を読んでくれる。


 要約すると、光の速さで一年分の距離をロケットで行ったら、地球では五十年経っているっていう物理科学のお話だった。それこそ浦島太郎の亀が実は光速で泳いでいたら、竜宮城と陸で流れる時間が違うように見えるよねっていう原理なんだって。


 な、なるほど〜!


「じゃあ、昔話とかでどこかに行っていたら時間が経っちゃってた系のお話の種明かしは、距離がめちゃくちゃあって、実際にはその人が光速で移動しているってこと?」

「物理学的には?」

「ほー、地球の物理学ってやっぱおもしれぇーな!」

「そんなこと言えるのは成績優秀のあんただけだよ……」

「あはは……」


 私と麻理子がちんぷんかんぷんになりながら受け流してるお話を面白いと言えるのは、ひとえにジローの頭が良すぎるからだよね! 私がひねくれるのはいつものことだけど、麻理子もさすがに苦笑いしてるし!


「とゆーか! なんで物理の話になってるの!」

「いや、お前が浦島太郎の話を振ったんだろ」

「しゃらーっぷ! 勉強の話をしたかったわけじゃないー! テストは終わったんだよ!?」

「ごめんね、智華ちゃん」

「うーん、麻理子が可愛いし許す!」


 むぎゅーっと麻理子に抱きついちゃう! まぁまたベリッとジローに引きはがされちゃったけどね!


「で、智華ちゃん、これ、ティターニアさんのプレゼントに役立ちそうなの?」

「……ちょっと考える!」

「おいこら宝石女。麻理子の手を煩わせておきながら何もねぇとかはしねぇよな?」

「いやいやいや、ちゃんと参考になったし!」


 ちょっとよく分かんなかったけど、でもなんとなく渡したいもののプレゼントの方向性は決まったよ!


「ティターニアさんのプレゼントは、やっぱりオディロンさんだ!」

「オディロンさん?」

「誰だそれ」

「ティターニアさんの恋人っぽい人」


 そういえばオディロンさんの名前だしてなかったね。


 ごめんね!


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