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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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美人なお姉さんとこんにちは

 煉瓦造りの街並みは、歩いているだけでも見どころがたくさん。


 お店がたくさん並んでいるわけじゃないけれど、赤だけじゃない色とりどりの煉瓦があって、見ているだけで楽しくなってくる。


 しかも。


「すごい、胸のドキドキが止まらない……!」

「街のあちこちに生活用の魔術回路が通っていますからね」


 歩いているとあちらこちらに胸がドキドキする場所があって、なんだろうと思っていれば、石畳に隠された魔術回路を踏んでいたみたい。


 生活用の魔術回路というのは大本の魔石から、要所要所の中継地点である魔法陣を導線でつないで、各家庭へと魔力を供給しているものらしい。数も種類もあるから、大きな街だと石畳の下に回路が設置されているのだとか。


「盗まれたりとかしないの?」

「ないですね。石畳に隠されているだけで、実際に回路が刻まれているのは地面ですから。盗むなら一区画分の大地をえぐらないといけません。少し欠損したくらいでは、自己修復機能が働くので問題はないんですよ」

「なるほどー」


 よくわからないけど、自己再生できる電線みたいなものなのかな?


 うきうきしながら街を歩いて、途中、ラチイさんが見つけた屋台でジュースを買ってくれた。休憩代わりにそれを飲んでいると小腹も空いてしまったので、近くのカフェでちょっとした軽食まで奢ってもらってしまった。


「くぅ、なんか色々お金出してもらってごめんね。ちゃんと領収書きってもらってね」

「智華さんが気にすることではないですよ。それにいつもはそんなこと気にしないでしょう」


 いつもっていうと、カフェでの打ち合わせのこと?


「だっていつものは経費なんでしょ? でもこれは完全にプライベートじゃん。申し訳ないよ」

「俺の懐はこれくらいで痛むようなものではありませんし、この程度で女性から金銭を受け取るようなみみっちいこともしませんよ」


 くすくす笑うラチイさんと並んで、カフェを出る。

 カフェに随分と長居してしまったようで、もうそろそろ夕の鐘が四つ鳴る頃だ。


「もうすっかり夕方だね。個展ってここから近い?」

「ええ。たしか、こちらです」


 ラチイさんの背中を追いかけて、私は歩いていく。新しいブーツのヒールがカツカツと石畳を良い音で鳴らした。


 ラチイさんに着いていくと、一つの建物の前に黒髪の女の人が立っているのを見つける。その建物の前で、立ち止まった。


「ここですね」

「おー! ……おー?」


 美術館って感じのを予想してたんだけど、なんだかちょっとお洒落な雑貨屋さんみたいな雰囲気の建物。

 扉の前に看板が出てて、個展期間中の案内が書かれてた。


「あんまり人いないね?」

「夕方ですしね。小さな個展のようですから。大きな個展だと、もっと大きな建物を借りるでしょう」

「へー」


 あんまり美術に詳しくはないので、ラチイさんの言葉に適当に相槌を打つ。


 そうしている間に、夕の鐘が四つ鳴った。


 ラチイさんが周囲に視線を巡らせる。私もきょろきょろと周りを見ていれば、私達と同じように待ちぼうけしてたらしいショートヘアーでストレートな黒髪の女の人と目が合った。


 うわっ、すごい美人さん。

 お胸も大きくて、腰がキュって細くて、グラビアアイドル並みの体型をしてる。黒のホルターネックにオフショルのトップスを組み合わせて、スリットの入ったタイトなロングスカート。すっごく大人っぽくて、ものすごく似合ってる。


 青い目に口元の黒子が色っぽい。思わず目があっちゃって、ぽっと顔が赤くなっちゃったけど、ハッと気づいた。


「ラチイさん、ラチイさん! あの人じゃない?」

「そのようですね」


 ラチイさんもうなずいてくれる。

 ストレートのボブヘアで黒髪、それから青目! たぶん間違いないよね!


「あの、すみません。キースさんですか?」

「そうだけれど……私にご用? はじめまして、よね?」


 ビンゴ! ちょっと、というか、かなり怪訝そうな顔されたけど、私は持ち前の対人スキルでごり押した!


「はじめまして、綺麗なお姉さん! 私、笠江って言います! 私たち、ダニールさんから伝言を預かってきたのです」

「まぁ」


 美人さんあらため、キースさんは驚いたように目を丸くした。

 私のあとからラチイさんも近づいてきて、私の隣に並ぶ。


「はじめまして。私はコンドラチイと申します。ダニールの同僚なのですが、彼が急な仕事のために、こちらを預かって来ました」

「まぁ、そうでしたの。ご親切にありがとうございます」


 キースさんはラチイさんににこりと微笑むと、差し出されたチケットに視線を落とした。それから苦笑する。


「せっかく来ていただいて申し訳ないけれど、私一人でチケットをもらっても、もてあましてしまうわ。ちょうど二枚だし、あなた達でお使いなさいな」

「いえ、これはあなたへと頼まれたものですので」

「ならそのお駄賃がわりに譲るわ。だめね、軟派な男の誘いに軽々と乗っちゃ。こうしてすっぽかされるんだもの」


 そう言ったキースさんは、私のほうへと視線を向けると、パチリとウインクをしてくれた。


 そのウインクがとっても色っぽくて、思わず私の頬まで火照っちゃったよ! これ、私が男子だったらほいほいナンパしちゃうよ!


「お姉さんが綺麗だから、ダニールさんもナンパしちゃうんだと思います! ダニールさんじゃなくても、私も惚れちゃいそうなくらいかっこいいし、美人ですもん」

「あら、嬉しいことを言ってくれるのね」

「本心ですよ、本心!」


 はいはいはい! って主張すれば、キースさんは面白そうに目元を細めてくすくすと笑ってくれた。その仕草も色っぽくて、一挙一足で人の視線を集めるって、こういう人のことを言うんじゃないかと思ったくらい。


 キースさんはひとしきり笑うと、ラチイさんの持っていたチケットをするりと二枚とも抜き取った。それから抜き取ったチケットを、私のほうに差し出して。


「嬉しいことを言ってくれたお嬢さんにプレゼント。私が一度受け取ったものをどうするのかは、私の自由よね?」

「えっ!? あ、でも、これっ」

「プレゼントのおまけに伝言をお願いできるかしら? あの軟派な人に伝えて頂戴。――女の時間は高くつくわよ、見くびらないで、って」


 にっこり笑顔なのに、なんだか後ろに虎が見えるくらいの迫力!


「ちゃんと伝えます!」

「よろしくね、お嬢さん」

「はい!」

「同僚さんも。ナンパな男を友人にもっと大変ねぇ」


 任されました! って挙手すれば、お姉さんはラチイさんにお疲れ様と言うように手を振って、踵を返して行ってしまった。


 あとに残ったのはチケットを持った私と、苦笑しているラチイさん。


 さてさて。


「ラチイさん。チケットもらっちゃったけど、どうする?」

「そうですね……。智華さんは絵画にご興味は?」


 ラチイさんは考えるように、ジッと個展の案内がされた貼り紙を見ている。私はといえば、ラチイさんに聞かれて「あははー」と誤魔化し笑い。


「興味あるかないかでいえば、微妙。現代アートとかはわかんないし。でも、綺麗な風景の絵を見ると、綺麗だなって思う」

「それなら少し、のぞいてみませんか? どうやら風景画を主に描かれる画家のようで、異世界の絶景……とまでは行きませんが、異世界の景色巡りができるかもしれませんよ」

「あ、それは気になる!」


 異世界の景色巡り! 風景画ならそういうこともできるね! さすがラチイさん、発想の転換が上手!


「では入りましょうか。会期が短いようですので、智華さんの次のお休みには、終わってしまっているでしょうから」

「ダニールさんにチケット勝手に使っちゃうこと、聞かなくて大丈夫?」

「最初に俺たちに譲ろうとしていたくらいなので、遠慮はいらないと思いますが……一報をいれておきましょうか」


 ラチイさんはそう言うと、くるりと指を動かした。

 宙に描かれる魔法陣。

 その魔法陣が淡く輝く。


「コンドラチイです。キースさんからチケットを譲られました、使います」


 それでおしまい、と言わんばかりにラチイさんは魔法陣を消した。


 ……ん?


「あれ? ラチイさん、鳥さんは?」

「伝言鳥はその鳥が近くにいないとできませんから。俺なら魔法で一発です」


 え、そうなの?

 鳥じゃなくても伝言を飛ばせるんだ?


「言っていませんでしたか。俺は空間魔法に特化しているんです。なので言葉を届けるくらいなら魔法でできますよ」

「くうかんまほう」

「一番わかりやすいのは、異世界との往来ですね。他の人にはできませんが、俺は異世界を移動することもできます」

「あ、なんとなく分かった」


 だからラチイさんだけが地球との行き来ができるんだ。それってすごいことじゃん!


「あれ? でもだったら馬車とか使う必要なくない?」

「あくまで魔法が上手なだけで、魔力量自体は何度も転移を繰り返すことができるほどは持っていないんです。智華さんの送り迎えもあるので、基本的に魔力は使わないようにしているんですよ」

「ごめんなさい」


 そっか、私のせいじゃん! 家に帰れなくなるのは困る!


 いつも感謝してますって頭をペコリと下げれば、くすくすとラチイさんが笑う気配がして。


 それからふわっと頭を撫でられた。


「俺がお願いしている立場なんですから、お気になさらず。俺のことは俺が一番よく知っているので、今くらいの魔力は使っても大丈夫だと判断したまでですよ」

「そ、そっか」


 納得、は、したんだけど、ラチイさん?


 ほんの一瞬だけだったけれど、ぽんぽんと子供のように頭を撫でられて、私の心臓がびっくりしてしまった。


 ほんっとーに、ラチイさんのイケメンスキル、どうにかしてくれないと心臓が持たないよ!?


「さぁ、入りましょう。異世界の景色が智華さんの目にどう映るのか、後で感想を聞かせてくださいね」

「ハードル高いこと言わないで〜! 鑑賞会の感想文とか、大変なんだからね!?」


 学校の文化行事みたいに毎年あるやつ! 小中高と続いてきたあのイベント! 演劇とか映画とか、皆で見るあれ! 見るのは楽しいけど、その後の感想文はめちゃくちゃ大変なんだよ!


「では、感想は宿題にしましょう」

「宿題もヤダよ!?」

「残念です。ですが、美術というのは人生を豊かにするものですから、智華さんにとって有意義なものになると良いですね」


 いたずらっぽく笑うラチイさんの言いたいことはよく分かるけど、高校生に求めるにはハードルが高すぎるよ。


 それにさー、そういうことを言うラチイさんだって。


「ラチイさんにとっても有意義な時間になるといいね?」

「おや、揚げ足をとられてしまいました」


 くすりと笑ったラチイさんが、私に手を差し伸べる。


「帰りが遅くなりますから、早く入りましょうか」

「そうだね!」


 ラチイさんの手に指先を重ねれば、私を誘うように個展の入り口へと誘導する。いつものエスコートに胸がちょっぴり跳ねて、やっぱり恥ずかしさがやってきて。


 ……日本の時よりも頻発するこのイケメン紳士っぷりに、そろそろ私も慣れるべきかもしれない。


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