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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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38/105

異世界娘に大変身

 未練たらたらなダニールさんとお別れした私とラチイさんは、行きと同じ馬車に乗り込むと、いざ王都へと向けて出発した。


「服を買うまでは、これを羽織っていてください。少し暑いでしょうが、着替えるまではそのままで」


 馬車に乗り込む前に、ラチイさんが自分の研究室から長いマントみたいなのを取ってきてくれて、私は今それを着てる。ラチイさんいわく、第三魔研の裏にある森に行く時、制服を汚さないように着てるものらしい。


 そんな旅人ルックで馬車に揺られてしばらく。


 行きの砂利道とは違い、石畳が続く道を進んでいく。ちょっとした山があって、そこをくり抜くトンネルが見えた。


 トンネルは赤煉瓦で作られていて、そのトンネルをくぐり抜けた向こうには――たくさんの建物が並んでる街!


「わぁあ! すごい! ヨーロッパみたい! イタリアとかドイツとか! 異国情緒だ!」

「珍しいですか?」

「日本にはない雰囲気だよね! でも外国の綺麗な街並みとか歴史のある街とかだとこんな感じかな。車の代わりに馬車が走ってるのが異世界って感じがするけど。すごく素敵だよね」


 窓の外を見ながらラチイさんに答えれば、ラチイさんがくすりと笑った。


「智華さんの国と比べると劣るように見えてしまいがちですが……そう言っていただけると、嬉しいものですね」

「日本はなんていうか、無機質じゃん。ビルが多い大都市になると排気ガスとかもひどいし。だからこういう街並みは綺麗だって思うし、温かみあるよね」


 街並みを夢中で見ていれば、人が増えていくにつれて、ラチイさんとダニールさんが言っていたことも理解しだした。


 なるほど、女の人はロングスカートが多いし、半袖の人は歩いていない。ジーンズ生地はないし、私みたいなラフな格好の人はいない。これは悪目立ちそう。


「ラチイさん、思うんだけどさ」

「はい」

「……私にロングスカート、似合うと思う?」

「似合うと思いますが」

「うっそだぁ〜!」


 私、ロングスカートなんて着たことないよ!?


 この街並みで歩く人たちは皆メルヘンの世界の住人のようで可愛いけど、私が同じ格好をして歩くのはすごく違和感ありそう。たぶん私、この国の服似合わない自信しかない。


 ちょっぴり不安になっていれば、ラチイさんがくすりと笑う。


「大丈夫ですよ。智華さんは可愛い人ですから。きっと何を着てもお似合いになります」

「お世辞はいいよぅ」

「本心ですよ」


 きらきらっとイケメンスマイルなラチイさんが憎たらしい。こんな平々凡々な私に可愛いとか言えるあたり、さすが外国紳士……いや異世界紳士って言うべき?


 そんな感じでおしゃべりをしながら街の中を進んでいく馬車から外を見ていると、馬車が止まった。

 御者さんから着いたと声をかけられて、ラチイさんが馬車から降りる。


「どうぞ、智華さん」


 差し出されるラチイさんの手。

 王宮行きの馬車でも思ったけど、やっぱりこういうレディ・ファーストみたいなところはまだ慣れないや。


 ちょっと照れつつ、お礼を言いながら手を握れば、ラチイさんが目元をやんわりとゆるめて微笑む。くぅ、イケメンて得だね!


 御者さんは私たちが降りるのを見ると、またガタゴトと動き出して大通りの向こうへ消えていった。どこに行くんだろうと首をひねっていれば、ラチイさんが帰りは別の馬車を捕まえて帰るんだって教えてくれる。


「さて、では智華さん。こちらでまずは服の調達をしましょう」

「はーい。……って、あ、待った! 私、異世界のお金なんて持ってない!」

「俺が出しますよ?」

「いや、私の着るやつだし! ラチイさんに悪いよ!」


 さて買い物だー、と思って今更ながらふと思い出した事実にあわあわしていれば、ラチイさんが困ったように眉を下げる。


「女性にドレスを贈るのは紳士の嗜みだと言っても駄目ですか?」

「えっ!? き、気がひける……」


 そんな嗜みが異世界にはあるの?

 それでもさすがに、人に服を買ってもらうのって抵抗があるので渋れば、ラチイさんは残念そうに肩を落とした。


「では、智華さんのこれまでの報酬料から出すというのは? 立て替えておきますので、領収書をきってもらって、あとで精算しましょう」

「あっ、ありがとう! 助かる!」


 そうだ、こないだ王女殿下の魔宝石作った時の報酬もある! 私が日本円以外で受け取ってないお金があるってラチイさんが言ってた!


 ぱぁっと目の前が開けてにっこにこになったけど、そういえば。


「この世界で私の使えるお金ってどれくらいあるの?」

「詳しい金額は貸し金庫……智華さんの世界でいう銀行のような機関に確認しないと分かりませんが……先日の王女殿下の報酬を足せば、おそらく小さな家が一軒建つくらいかと」

「んんん?」


 家?


「家って、えっ? 家? こっちの世界って気軽に家が買えるの?」

「……相場としてはおそらく、智華さんの世界の感覚のものと変わりありません。かなりの額です」


 ひぃえ……!? そ、そんなにあるの……!?


「ど、どどどうしよう、ラチイさん……! 私そんな金額持つの怖いんだけど!?」

「日本円への換金にも時間がかかるので、近いうちに相談しようと思っていたのですが……一時的に俺のほうで管理しています。ちゃんと帳簿も付けてあるので、一度確認しますか? もちろん、持ち帰って親御さんとご相談されても構いません」

「も、持ち帰り案件でお願いします……」

「分かりました」


 良い笑顔でうなずくラチイさん。

 うー、ちょっとびっくりしすぎて胃がひっくり返るかと思ったじゃん!


 ラチイさんを恨みがましく思いながら、とりあえずお金に困らないことだけは理解したので、お店に入ってみる。


 店内はたくさんの布であふれていた。

 フリル、レース、ギャザー。

 可愛いお洋服やドレスが、棚やラックに飾られているのはもちろん、天井からも吊り下げられていて、まるでドレスの国に来たみたいでわくわくしてくる。


「すごーい!」

「智華さん、こちらへ」


 ラチイさんに呼ばれて着いていけば、可愛いアリスカラーなエプロンドレスを着た店員さんに紹介された。


「いらっしゃいませ。当店にご来店いただき、まことにありがとうございます」

「こ、こんにちわ」

「本日はお嬢様のお洋服をお探しだとか。採寸いたしますのでこちらへどうぞ」


 さ、採寸から!?

 びっくりしてラチイさんを見上げていると、ラチイさんはいつものように微笑んでいる。


「可愛いくなってきてください」


 そういうことを言ってほしかったわけじゃないんだけどな!?


 ラチイさんのイケメンっぷりにおののいていると、笑顔を浮かべた店員さんに更衣室のような場所へ誘われる。採寸用にマントを脱ぐと、店員さんが私の格好に興味津々だった。やっぱり異世界の服って目立つんだね?


「お嬢様にはこちらのものがお似合いかと」


 お嬢様って!

 慣れない待遇にドギマギしながら採寸を終えると、いくつかの服を店員さんが持ってきてくれる。ブラウスにベスト、ロングスカートのコーデが主流みたい。普段着ない大人っぽい服装にそわそわしちゃう。


「……本当に似合う?」

「ええ。お好きなお色がなければ、別のものもご用意しますが」

「うーん……」


 いやでも店員さんが似合うだろうって持ってきた物だし……でもロングスカートかぁ……。


「こういう服は大人っぽくて、なんだか気恥ずかしくて。もうちょっと動きやすい服とかはありませんか」

「そうでしたか。そうですね……ではお靴も併せて少々お値段も上がりますが、こちらはいかがでしょう?」


 店員さんが別の服を用意してくれる。

 バルーン袖の白いトップスに、ウエストがきゅっと絞られた藍色のジャンパースカート。膝丈だからこれに編み上げのロングブーツをあわせるようで、クラシックロリータに近いけど、大人きれいなロングスカートよりは私に似合いそう。


「これにします!」

「かしこまりました。他はいかがいたしますか?」

「一着で大丈夫です〜。これ、このまま着ていってもいいですか?」

「はい。では着ていらしたものは包んでおきますね」

「ありがとうございます!」


 よーし、これでお買い物おしまい!

 着替えさせてもらって、るんるんと更衣室を出ると、私が着替えている間にラチイさんがお会計をしてくれていたみたいで、レジカウンターっぽいところで店員さんとお話していた。


「ラチイさん、お待たせ!」

「ああ、よくお似合いです。智華さんの愛らしさが引き立ってますね」

「うぐっ」


 あ、愛らしさって……!

 そんなこと、人生で一度も言われたことないから、一瞬だけ言葉がつまっちゃう。そわそわと落ち着かなくなって視線をうろつかせていれば、ラチイさんの腕に箱があるのに気がついた。


「ラチイさん、その箱どうしたの?」

「ああ、ここに智華さんの服が入っていますよ」

「あっ、私の荷物か! 私持つよ!」

「大丈夫です。女性に荷物を持たせるなんて、俺に恥をかかせないでください」


 それでも自分の服をラチイさんに持たせるには……と思っていれば、ラチイさんが琥珀色の瞳をゆるりとゆるめた。


「それに俺が買い物した物も一緒に包んでもらってますので。家に着いたら開封してお渡ししますよ」

「あっ、そうだったんだ。ラチイさんは何を買ったの?」

「内緒です」


 しぃ、と立てた人差し指を口元に当てるラチイさんは、もう少し自分の顔の良さを自覚してほしい。店員さんの顔がポッと赤くなってるよ。


「さて。では行きましょうか。約束の時間にはまだありますが、街を歩いてみたいでしょう?」

「はーい!」


 やったー! 街歩き!

 うきうきし始めた私を見て、ラチイさんが目を細めて微笑む。


 店員さんも笑顔で送り出してくれて、私は異世界の街並みへと踏み出した。


2022/4/1 追記

エイプリルフール企画、別途投稿してます。

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