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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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第三魔研へようこそ【後編】

 とりあえず素材のお話は横において。


「ラチイさん、この魔宝石の魔法、解けそう?」

「たぶん時間経過で解けると思いますよ。ただ、持続力が高いようです。このペースだと、魔宝石に籠められた魔力が空になるのは明日の朝ごろでしょうか」

「だって、ダニールさん」

「のぉぉぉおお! 今日のデートぉぉお!」


 ラチイさんからの分析結果を聞き、バンバンと机を叩くダニールさん。わわっ、机の上に積み上がった紙が雪崩を起こしそうだよ!?


「コンドラチイ! 本当に時間経過以外に手段はないのか!?」

「魔宝石の魔法は、魔力量によって持続や威力等が変わるのはダニールも知っているでしょう」

「そこをなんとか!」

「そう言われても……獣人の毛がこんなにも魔力消費が低いものとは知りませんでしたし。これはあれですね、智華さんの世界の言葉でいう『省エネ』ですね。今後の魔宝石作りの良い参考になります」


 そう言うラチイさんは清々しいくらいにとっても良い笑顔。ダニールさんを元の姿に戻す気はなさそうだね!


 ダニールさんもそのことが分かったのか、がっくしと項垂れて。


「くそう……明日の朝まで椅子にも座れんのは嫌すぎる……やっぱり尻尾出すわ」

「やめてください。智華さんがいるんですから」

「あれもダメこれもダメじゃいけないんだぞコンドラチイ!」


 いそいそとズボンを脱ごうとしたダニールさんに、ラチイさんがすかさずノーと言う。だけどダニールさんはめげすに吠えて威嚇した。まぁ、ラチイさんにはどこ吹く風っぽいんですけど!


「そんなことより、この魔宝石は誰が作ったんです? ダニールではありませんよね?」

「おう。まぁこの獣人の毛もそうなんだが、それも譲りもんだわな」

「譲りもの?」

「そ。出所は秘密。獣人の個人情報的なのもあるしな。それを伏せてで頼みこんで譲ってもらったもんだ」


 飄々とするダニールさんに、ラチイさんはそれも一理あると言わんばかりに殊勝に頷いた。


「職人は獣人です?」

「それは教えてもらえてねぇ。でもこの魔宝石の樹液部分の魔力不純率は相当低い。中身の毛との適合率が良いのかは知らんが、獣人の魔力しか感じられないのは事実だな」


 ふじゅんりつ……てきごうりつ……。

 あぁ〜、ちょっと話が難しくなってきた!


 必死でラチイさんとダニールさんの話を理解しようとするけど、専門用語が多くてわかんない! 不純率って何の不純率!? 適合率って何と何との適合率なのー!


 ちんぷんかんぷんでいると、ラチイさんは一つため息をついて、魔宝石をダニールさんに返した。


「出所は追求しませんが、確保した魔宝石については通常通り仔細に報告してください。どうせ今日は元の体に戻れなさそうですし、明日までに提出してくださいね」

「はぁ!? 断る! 俺の手ぇ見てみ! これだぞ!? 肉球だぞ!?」

「大げさな。獣人だって生活してるんだからダニールもできますよ」

「そんなわけあるかっ! チカちゃん助けてくれぇ〜っ、コンドラチイがいじめる〜!」


 およよと泣き崩れたダニールさんのせいで、机の上に積まれてた書類がまたずりっと雪崩を起こしかける。


 私は腰を浮かせて、今にも落ちそうな書類を積み直しながら愛想笑いをしておいた。だって、私にできることなんてないしね!


「自業自得です。全く……他に用がなければ帰ります」

「くそぅ……。もういい、これやる」


 どんよりとしてダニールさんが差し出したのは二枚のチケット。なんだろう?


「今日行くデート用に取ってたチケット。結構いい感じの画家の個展らしくて、夜までやってるやつ。せっかく仕事前に買ってきたのに……無駄になる前に使ってくれぇ」

「後日、自分で行けばいいじゃないですか」

「一人で行っても楽しくねぇ〜! 美女とは一期一会だったんだよぉぉお!」


 男泣きってこういう事を言うのかもしれない。

 おいおいと泣くダニールさんに、ラチイさんはまたため息をついた。


「ダニール」

「なんだよぉ」

「あなたのことだからどうせ連絡先とかも聞いていないんでしょうね」

「おう。だってそのほうが後腐れないし!」


 ドヤ顔で言うダニールさんだけど、言ってることはサイテー。


「流石に無断で約束を破るのは良くありません。お相手の方を待ちぼうけにさせるつもりですか」

「だから元の体に戻してほしいんだよ」

「それが難しいのは分かってるでしょう」


 ぐうの音も出ないらしいダニールさんがしょんもりする。あ、頭の上のお耳がぺしょって垂れた。


「今日のところは俺のほうでその方に事情説明しておきます。チケットも、その方に差し上げては? もしくは日にちを改めていただくとか」

「いいのか!?」

「仕方ないでしょう。今回だけです」

「うわあぁぁぁ持つべきものは友だな!」

「調子に乗らないでください」


 すっぱりと言い切ったラチイさんだけど、ダニールさんは希望が見えたようで小躍りしそうなくらい喜んでる。これ、尻尾が見えてたらぶんぶん振られてたんじゃないかなぁ。


「それで、約束の時間と場所は?」

「夕の鐘四つ。そのチケットの個展の入り口だ」

「ふむ……どうしましょうか。智華さんを帰してから行ったほうが良いですかね」

「そこ遠いの? その時間なら一緒についてくよ? ラチイさん二度手間でしょ」

「ですが、帰るのが遅くなってしまいます」

「たぶん大丈夫。深夜とかじゃなきゃ平気」


 私はダニールさんに見えないところでポケットからスマホを出して、ちらっと時間を見る。


 もうすぐお昼だ。お昼になると鐘が十二回なる。日本の十三時になれぱ鐘の音がリセットされて一回だけになるので、夕の鐘四つは日本時間の十六時だね。


 ラチイさんところにお泊りしてると分かるけど、九時ぐらいにはもうおやすみしちゃう。だからここで夜遅いって言っても十時とか深夜十二時とかまで出かけてるわけじゃないだろうから、ちょっとくらい帰るの遅くても、日本じゃいつもより帰るの遅かったねくらいになると思う。


 むしろ部活で最終下校ギリギリまで学校にいる方が、家に帰るの遅い時間になるんじゃないかなぁ?


「なら、お相手の方に事情説明して……せっかくですし、王都観光でもしましょうか。智華さんはまだ王都見たことないでしょう」

「わぁ! いいのっ? 楽しみ〜!」


 観光! それはいいね!

 うきうきしながら午後の楽しみに思いを馳せていると、ラチイさんは抜かりなくて、ダニールさんにお会いする予定だった女性の特徴を聞き出していた。


「お相手の方のお名前や特徴を聞いても?」

「キースちゃんだ。髪は黒くて、目は青。そうだなぁ、チカちゃんよりも髪は短かったけど、ストレートヘアーの美人ちゃんだ!」

「そうですか」


 ダニールさんの主張もこともなげにスルーするラチイさん。そんなそっけないと、ダニールさんがまたいじけちゃわない? 大丈夫?


「ストレートいいなぁ〜。うらやましい」

「おや、智華さんの髪型も可愛らしくてお似合いですよ」

「あはは、ラチイさんありがと」


 可愛いなんてお世辞、私にはもったいないよぅ。


 地味にくせっ毛で毛先がハネちゃうから、ショートカットにするとボサボサになっちゃうんだよね。かといって伸ばしても邪魔だから、私はだいたいセミロングでハーフアップにしてる。ちなみにプチ情報ですが、愛用しているシュシュは麻理子の手作りだったり。


 それにしても、ダニールさんがあんまりにも美人美人って連呼するものだから、お約束してる女の人がどれだけ美人なのかすごい気になっちゃうよ。


 王都観光に美人なお姉さん。

 お仕事以外でこの世界を見て回る機会がなかったから、すごく楽しみ!


「あ、でもコンドラチイ。このまま行くならチカちゃんの格好まずくね? 目立つぞ?」

「予備の外套を着せるつもりですが……そうですね、今後のことも考えたら服を買い揃えておいても良いでしょう」


 ダニールさんの言葉にラチイさんもうなずいている。


 私の格好?

 よくあるチュニック風半袖Tシャツに、七分丈のジーンズですが、なにか?


 出かけるにはラフかなとは思うけど、休日の私の私服なんてこんなもの。ラチイさんは水色のシャツに黒のスラックスっていうちょっとかっちりした格好だけど、特別私が横に並んで悪目立ちするような感じではない気がする。


 疑問符を飛ばしていたら、ラチイさんがくすりと笑った。


「王宮内は皆さん制服ですからね。一般的な方々の服は、智華さんの国のものとは少し違いますから」


 ほほう? つまりはあれかな?

 この国の服っていわゆる民族衣装みたいなのがあって、それが一般的ってことなのかな?


 なんとなくイメージがついて納得した。それだと確かにTシャツジーンズは目立っちゃうかも。王都についたら最初に服屋さんに直行したほうがいいかも知れない。そのほうが心置きなく観光ができるからね!


 そうしてラチイさんがダニールさんともう少しだけお話を交わす間、私はにっこにこで待機していたのだった。


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