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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
バタフライ・イアーリング

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35/105

一日の元気は朝ごはんから!

 真夜中に抜け出した翌日。

 昨日の妖精女王のことを思い出して、プレゼントのことを考える。


 はぁー、とっても綺麗な人だった。

 幻想的で、ハリウッド映画でもあそこまで綺麗なシーンって見たことないよ!


 興奮冷めやらずにベッドから起き出して、さっと着替えて身支度を整えてから階下へと降りていく。もう完全にこのお泊り用の部屋にも慣れちゃった。お泊りセットをいちいち持ってくるのも面倒だから、少しくらいお洋服とか置かせてもらえないかな?


 ふんふんと鼻歌混じりで、ソファーと大きな窓のある居間へと踏みこむ。


「ラチイさん、おっはよー!」


 やっほー! と手を上げて挨拶すれば、ちょうど朝食の支度をしていたらしいラチイさんがこちらを振り向く。


「はい、智華さん。おはようございます。今日も元気ですね」

「んふふ、元気だよ! いやもう胸のドキドキが止まらなくって!」


 もー、ずっと頭の中で昨日の妖精女王のこと反芻してるもん! それくらい私にとっては印象的だったんだよね!


 ラチイさんがソファーのあるところのローテーブルに朝ごはんを並べてくれる。

 今日のメニューは、ハニーバタートーストに、フレッシュサラダ。あっ、ソーセージにケチャップが! そしてマグカップに入ったこれはコーンスープ!?


「ふぉお、ケチャップとコーンスープも異世界にあるんだねぇ」

「いえ、これはこちらです」


 ラチイさんがキッチンの方からひょこっと両手に掲げたのは、トマトマークがぎっしり詰められたビニール包装のケチャップと、個包装されたお湯で溶かすタイプのコーンスープ(クルトン入り)。


「日本のじゃん!!」

「日本の食事を食べてしまうとですね、どうもこの世界の食事水準は少々低いのだということを実感してしまいまして、つい」


 買ってしまったのか、日本の便利食品……。

 ラチイさんは日本で私とカフェに行くことも多かったから、食文化の差にやられてしまうのも時間の問題だったのかもしれない……。


 ま、でも?


「ケチャップ買ったなら、いろんなご飯が食べられるようになるね。ピザトーストもオムライスもできちゃう!」

「ふむ。ケチャップをトーストにですか? オムライスとは? レシピを色々調べないとですね」


 ようやく片付けも終わったのか、ラチイさんも楽しそうに目を細めながらソファーへとやってくる。

 お互い向かい合うように座って、ではさっそく。


「いっただっきまーす!」


 ハニーバタートーストうまぁ〜!!

 甘くて、とろとろしてて、じゅわぁ〜ってお口の中が! お口の中が!


「しあわせ……」

「喜んでいただけたなら嬉しいです」


 ラチイさんはそう言いながら、ナイフとフォークを器用に使ってソーセージを一口サイズに切り分けてから食べている。


 私はあんまりナイフが得意ではないので、ソーセージはフォークに刺してからかじりつきます!


「それで、智華さん。昨夜の脱走劇ですが」

「んぐっ」


 は、はなに!

 鼻にサラダのキャベツが逆走した!


 ゲッホゲホとむせた私はぐいっとグラスに注がれたジュースを一息に仰ぐ。ラチイさんが苦笑しながらジュースのお代わりを注いでくれた。


「大丈夫ですか?」

「だ、だいじょぶ……」


 もー! ラチイさんが脱走劇とか言うから!

 ちょっと悪いことが見つかってしまった気分だけど、ラチイさんには現行犯で逮捕されてるので今更なんですが!


「お、お説教ですか……?」

「そうですねぇ。まぁ危ないことはして頂きたくないので」


 やだよ〜、怒られるのはイヤだ〜。

 でもラチイさんに内緒で昨日みたいなことをするのは駄目だってことはよくよく理解したので、甘んじてお説教は受けます。


 高校生だからね! 悪いことしたら反省するよ!


 フォークを置いて神妙な顔でラチイさんの説教に身構えれば、ラチイさんは苦笑いしながら自分もカトラリーを動かす手を休める。


「昨夜もお話したことに念を押すだけですよ。妖精と人間では価値観や使用する魔法など、色々と違うので、妖精と関わるときは十分に気をつけていただければいいんです。俺のいないところで妖精と約束するのも駄目ですよ」

「はい、肝に命じます……って、え? 約束も駄目なの?」


 ちょっと意外なところも気をつけるように言われて、びっくりして顔をあげちゃう。

 ラチイさんは真面目な顔でこっくりと頷いた。


「妖精の約定についてお話しましたが、うっかり約束をして、それが妖精の約定になっていた、なんて笑えませんからね」

「超絶理解した」


 確かにちょっとした約束がそんなおおそれたものになったら大変だもんね!

 ラチイさんの言葉をよくよく肝に命じておく。

 妖精さんと勝手に約束はしません!


「さて、その上で、ですが。作られる魔宝石のイメージは固まりましたか? 智華さんが会いたがっていた妖精女王にお会いできたわけですが」

「ぼちぼちってところかなー」


 実際に会えたことで、あの綺麗な人に似合いそうなものっていうのは何となくイメージできた。


 たぶんゴテゴテしたアクセサリーよりも清楚なアクセサリーのほうが似合うと思う。だけど何ていうのかな、存在感がとっても大きい人だったから、控えめなものではなくて、華やかさは必要なんだよね。


「なんて言えばいいのかなあ〜。薔薇の花束じゃなくて、一輪挿しの菊、みたいなイメージ? 派手なアクセサリーのほうが見劣りはしないんだけど、でもちょっと一歩引いた感じのもののほうが似合いそう」

「あぁ……。なんとなく智華さんの言いたいことは分かります」


 ラチイさんもうんうんと頷いている。

 良かった、私のイメージは間違ってなかった!


「アクセサリーの形も困っちゃうね。ネックレス、イヤリング、指輪、腕輪、ヘアアクセ……」

「置物でも良いとは思いますが」

「そうなの? う〜ん、幅が広いなぁ」


 正直言って、何を作ってもしっくりこない気がする。


 あの妖精女王はそこにいるだけで圧倒的な存在で、姿かたちがそれだけで「完成されてる美」って感じだったんだもんなぁ。


 下手なアクセサリーなんて贈れないよ〜。

 むむむ、と考えていれば、不意にコンコンと音がする。


「なんの音?」

「窓ですね」


 ソファーから立ち上がったラチイさんが大きな窓の方へと歩み寄る。

 窓をからりと開ければパタタと音がして真っ白な鳥が部屋の中へ入ってきた!


「わぁっ、かわいい〜!」

「おや、伝言鳥ですね」


 白い鳥はぐるっと部屋を一周すると、ラチイさんの差し出した左の人差し指の上で停まる。ラチイさんが空いている右手を口元にやって、「静かに」と人差し指を当てた。


 え、なんで?

 言われるがままきゅっとお口を閉じると。


 鳥が鳴く。


『ダニール! ダイサンマケン! タスケテ!』


 ほわっつ?


「えっ、しゃべった!?」

「伝言鳥は短文程度の人間の言葉を記憶することができます。魔力を辿ることもできるので、こうやって離れた位置にいる魔術師同士の連絡を最短で届けてくれるんですよ。智華さんの世界のメールみたいなものです」

「メールというよりは伝書バトな気がする」


 ダニールさんの名前と第三魔研、それから助けてと繰り返す伝言鳥さん。地球の伝書バトよりも頭が良さそうだけどさ。


「えっ、というかダニールさんが助け求めてない? 早く助けに行ってあげないと!」

「大丈夫です。いつものことですから。おそらく魔宝石の研究で何かやらかしたのでしょう」


 飄々とそんなことを言うラチイさんは、あいかわらずだね!


 気のおけない仲ってやつなのかな? ラチイさんはちょっとツンツンな態度を取っちゃう感じなので、ちょっとダニールさんが不憫に思えちゃう。普通に良い人なんだけどなぁ。失言多いけど。


 ラチイさんは何事かを伝言鳥に吹き込むと、小さな魔法陣を真っ白な鳥の頭に書いた。魔法陣は吸い込まれるようにして鳥の中に消えていって、鳥はばさっと翼を伸ばして飛んで行く。


 真っ白な鳥が空の雲にとけこむように飛んでいくのを見送って、ラチイさんは窓を閉めた。


「さて。申し訳ありませんが、朝食を終えたら第三魔研に顔を出さなくてはいけなくなりました。早めに日本にお送りすることも可能ですが、せっかくですし智華さんも一緒に行きますか?」

「えっ、行っていいの?」


 第三魔研ってラチイさんの職場だよね?

 私なんかが行っても大丈夫?


「大丈夫ですよ。室長は俺ですし。危険は……まぁないことはないですが、俺がいる限りは大丈夫なので」


 ちょっと不安な言葉が聞こえたんですが!

 危険はないことはないって、あるかもってことですか!?


「えぇ……ほんとにそれは私が行って大丈夫なものなの……?」

「なかなかない機会ですし。魔宝石も置いてあるので、今後の参考にはなるかと」

「一理ある」


 確かにこの国で一番魔宝石に詳しい人たちが集まる場所だもんね! 魔宝石も当然置いてあるよね!


「分かった。一緒に行ってみる!」

「それでは朝食を食べきってしまいましょう。馬車を回してもらうように返事をしておきましたから。支度を整えている間に馬車が来るはずですよ」


 おーっとラチイさん、仕事が早い!

 さっき何事か吹き込んでたとは思ったけどお返事してたんだね!


 馬車が来るならゆっくりしすぎても駄目だよね。

 さくっと朝ごはん食べちゃおう!


 私はハニーバタートーストにかぶりつく。

 そしてお口いっぱいに幸せな味を堪能していた私は、すっかり忘れていたのだった。


 この世界の馬車、快適とはとっても縁遠かってことを。


 それを思い出した時にはもう既に馬車の上でした。

 ……お尻が痛いよぅ!


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